第五話〜全ての始まりの時〜



草木も眠る闇が支配する時間。
深夜のミルレス城、いや、文明資料館の中。

かって、マイソシア大陸で繁栄したメント文明、その時代の証言者とでもいおうか。

大戦時、最凶の王、ガルフラントが居城にしたミルレス城・・・

今ではルアス平原に墜落し、
戦後、そこを高い壁でかこい、そこに残された文明の遺産の数々を保管している。

昼夜を問わず、騎士団が厳しい監視をし、中に入れるのは王宮の研究者のみである。

それほど、この城に残された知識は強力で、
悪用させるわけにはいかないものなのである。

・・・資料館、元研究室前の廃墟。

小隕石がふりそそいだかのように、クレターが地を埋め尽くし、
そこに実験器具の残骸や、ガラスの破片が散らばっている。

薄明るい星星の光が直に入ってくるその場所には、
雨にさらされ、もはや昔のこの部屋の異様さを見る影もない物にしている。

今、そこに黒い影が3人…

一人はボサボサの髪型をし白衣をおもわせる衣装、
他の二人は黒いフードを深くかぶって、全身黒ずくめの男。

「おお…、奇跡じゃ…資料を取りに戻ったら…なんと、お前が生き残っていたとは…。」

ボロボロの研究室の中、一つの水槽が深緑の色の溶液に満たされている。

なかに、なにかがいる。

それは…、水槽の中に見えるのは…人間の男の子のようだ。

歳はよくみても15くらいか…

その溶液が特殊なのか…、
どのような原理かわからないが、その水の中で生命は維持されていた。

眼をつぶり、死んだように動かないが、呼吸のたびに水の中に水泡がわきたつ。
   

「・・・博士、こいつはいったい…?」

隣のフードを被った男のうち、長身の男が博士と呼ばれたその男に聞く。

「ど〜せ、おっちゃんのまた変な実験だろ?」
今度はもう片方の影が喋る。

背も低く、口調からしてまだまだ子供っぽい雰囲気だ。

「こいつは…わしの最高傑作じゃよ…、あの小娘どもに研究室を壊され、
屈辱的な脱出をしていらい諦めておったが・・・生きておったか・・・」
男は感動したようにふるえながら、その水槽に手を置いてのぞいている。

 ゴポゴポゴポ・・・

その溶液の中、最高傑作とよばれる銀髪の少年が浮いている。

「こいつの能力はなぁ…
わしが何体も試して、こいつしかもつことができなかった…、
おい、これをあけてこいつを目覚めさせるんじゃ!」

いったい、何だというのか…その秘められた能力とは。 

「・・・わかりました。」
その男が、手をマントから出した瞬間。空気が少し震えた気がした。

 バリィィィィン!!

触れてもいないのに、水槽が砕け散り、溶液が飛び散る。

破裂するように、水槽は砕け、中の少年は水槽のそこに倒れた。

 ピトピト…

「おい、こいつをはこぶんじゃ!」
興奮を隠せない表情で、“影”に命令する男。

「はいはい、わかりましたよ、おっさん」
もう一人の男が近づいたその時…

 カッ! 

その少年の眼がみひらかれた。 かすかに見えた紅い瞳。

それは燃えるように真紅で…、引き込まれるような魔力を感じる。

 バァアアアアア!!

「なにっ」
少年の体が光り輝き、宙へ浮かぶ!

男達の手の届かぬところまでのぼりつめ…。

「な、なんじゃああ?!」
驚愕の声を男が上げたとき。

 バシュウウン!!

少年が、その場から消えてしまった。

消えた…というより、飛ばされた感じだ。

ただ、後にはただ闇と、静寂が残るのみ。

「さ、さがしだせぇ! さがしだすんじゃああ!!」

研究室跡に、博士とよばれた薄汚い男の声がひびいた。