第六話〜自警団のオシゴト〜



神木の梢の間を通して入ってくる優しい朝の光。

そして木々の間からもれる新鮮な空気。
何千年と繰り返された行為、またミルレスに朝がきた。

「じゃあ、いってくるね〜」

うちは、自宅からかばんを背負って飛び出した。

「いってらっしゃい。」
後ろから眠そうなお母さんの声。

今日はミルレス自警団の集会の日、うちも最近入ったばっかだけど任務にいきます。

自警団って…まぁ、最近は暴れるモンスターの退治と、
子供の修練場のみまわりくらいなものだけど…

まずは…いつものお寝坊さんをおこしに隣の家にいってみよ〜!

 トントン、ギィィィ〜

その隣の家の扉が、軋みながら開く。

「あら、おはよう〜 リルムちゃん」
朝ごはんの支度をしているのは、ミレィおばちゃん。

まだ…あの子は起きてないみたい。

もういつものことだから慣れっこだけど、クスクス。

「おはよ〜ございますっ!ティアはまだ寝てるの?今日は自警団の集会の日ですぅ〜」

「ええっ、またあの子…、ティア〜ティア〜!!」
慌ててティアの寝室に入っていくミレィさん。

クスクス、この親子は抜けてるところはほんとそっくり。

あ、うちもママにミレィさんの若いころにそっくりってよく言われるっけ・・・

う、うちはぬけてなんかないからね!

「まずいっ、遅刻しちゃう!  あ、おはよ〜リルム!」
服をきながら、急いで食卓について朝ごはんを流し込む彼女、これが長年の親友ティア。

スクール時代から、毎朝このようなやり取りを見ている。

冷静で、きっちぃ性格なのに、結構抜けてるとこもあるのよね〜、ティア。

「いってきます。」
「いってらっしゃい、リルムちゃん、ティア」
後ろからミレィさんの明るい声が響いた。

二人は、まだ夜露でぬれた町の中を並んで歩き出した。


     

自警団の本部は町の中央の広場の横の家。
一番大きい屋敷の一部屋がミルレス自警団本部がおかれている。

今日はなにやらされるのかなぁ…、広場の草むしりとかだったら逃げ出しちゃうけど。

本部の家には、知った顔がいっぱいならんでいた。

それはそうだよね〜、生まれたときから同じ村ですんでるのだから。

「え〜、だから何々で・・・・今後も・・・以上。
今からは各班に分かれて指示を待つこと、私の話はこれでおしまいです。」

自警団の団長の長くて退屈な話が終わり、
(お年寄りの人ってたいてい長話なうえつまらいわよね〜)

自警団の人々がばらばらに散り始めた。

隣で、ティアがねむそ〜な顔をして、虚空を見ている。

まだ、夢の続きでも見てるような感じで、顔にしまりがない。

この調子じゃ…このままふかふかな芝の上にいたら、またねちゃいそうね、ティア。

 ドン!

不意に、彼女は誰かに肩を押された。

振り返ってみると、ディープブルーと白が基調の服、
中央に金色に縁取られた十字架がデザインされているのを着こなした聖職者。

そして頭にのってけてるのは緑色のカウル。羽がついててかわいい。

「よぉ、おはよ、リルム!」
ティアとはうってかわって彼は朝から元気そう。

「あ、クロス〜おはよ〜!」

「おはよ〜クロス」
ティアの眠そうな声も隣で聞こえる。

クロスさん、自警団の先輩で、かなり上級の聖職者。

いつもはふざけてるけど、いざって時には心強いのよね〜。

「よぉ、ティア、よだれ垂れてる。」

「うそ!?」

慌てて口の周りを拭うティア、
あ〜あ、こんな簡単なうそにだまされちゃって…ねぼけてんね〜クスクス。

「あははは、冗談だ、今さっき、指示をもらった。
俺達はミルレスの周りの狩場のパトロールだそうだ。」
私は、それを聞いて心の底から喜んだ。

「やった!、散歩できるね〜」

あ〜、うれしいうれしい♪

パトロールっていったって、実際は散歩みたいなものだし超ラッキー。

草むしりあたらなくてよかったぁ…。

みると、不平を言いながら町の広場へ、鎌を持っていく集団もチラホラ。

ご愁傷様…。

「ったく、任務なんだからはしゃぐなよおまえら。いくぞ」
率先して、彼が歩き出した。

「…はしゃぐのなんてリルムだけよ。」
いかにもうちを子ども扱いしたように喋るティア。

「あ〜! ティアも結構楽しんでるじゃないの! うちだけ子ども扱い!」

二人はこずきあいながら、町の外へ出て行き、
そのうしろをクロスが呆れ顔で歩いていった。


まだ、朝が来て間もないにもかかわらず気持ちのいい風そよぐミルレスの森。

夜露ぬれた草を踏み分け、その中を3人が歩いている。

木々の葉を通して地上に降り注ぐ太陽の光が心地よい。

「あ〜いい気持ち、昼寝したいくらいいい天気ね。」
あくびを隠しながらティア。

「そればっかだよ、ティア〜。けど、そろそろ終わりでいいんじゃない?クロスぅ?」
私はできるだけかわいい顔をして、クロスに微笑みかけてみた。

「だ〜め。 あともうちょい奥までいってみないと。」
あちゃ〜、やっぱクロスは厳しい。

こんな奥まで、スクール生もこないとおもうけどな〜。

「誰もこんなとこまでこやしないわ…」
同じこと考えていたティアが、ここまで言ったときだった。

「たすけて〜!!」
草原に、まだ高い少年の声が響く。

「クロス…、あの声!」
「いくぞ! ティア、リルム」

私達3人は声の方向へ全速力で駆け出した。

今までの平和な雰囲気から、一転した雰囲気へ…。

木々の間や、草原の草を踏み分けて・・・・

「あ!」
みえた…、水色の服が。