第四十三話〜帰還〜 「んっ…」 青い髪の少女は、見慣れたベッドの上で目を覚ました。横にあるたいまつの光が眩しい。 体中のいたるところに包帯がまかれているものの、痛みはほとんどなかった。 「リルム! ミラ、リルムが目を覚ましたぞ!」 ベットの横にいたスルトが、その大きな体で抱きしめる。 「いたたっ。んもう、いたいってば!それより此処…私の家じゃん。 あいつ等は、不審な侵入者は?私は…?」 「…今晩ルアス上に進入した謎の組織は、みな追い払われた。騎士団も追っ手をかけることが決定した。 お前の仲間たちはみんな無事だ。それぞれこのミルレスで宿を取っている。 ただティアとあの少年…シリウス。 あとヘブンがルアスから戻っておらんが…無事なことは確認した、大丈夫だ。」 「よかった…私たち勝ったんだ…!」 「さすがは俺の娘だな、ハハハッ」 喜んで、痛がるリルムの肩をたたくスルトと、そのとなりにあきれたような眼で夫をみつめるミラ。 「無事でよかったわ…。 もう、誰かさんに似て無鉄砲なんだから慎重に行動するように心がけなさい、いいわね?」 「誰かさんて誰のことだよ?」 ドンドン!! 玄関のドアがノックされる。 「おや、ティアちゃんが帰ってきたのかな? あけてやれ、ミラ。」 「はいはい、今開けますよ。ティアちゃん?」 ガチャッ、…扉が開かれた時、そこにいたのはティアではなく一人の男だった。 全身に黒を纏う男…。 「!?…貴方っ!」 スッ、無言でその男はミラの横を急ぎ通り過ぎ、寝室へと向かってゆく! 「んっ? どうしたんだミラ?・・・んっ、お前!お前は!」 寝室の前に立っていたいたのは、黒く長い髪を肩の下までたたえ、黒い法衣をみにまとった男。 「ヘブン! ヘブンでしょ? ちょっと感じが違うけど。 お見舞いに来てくれたの?」 リルムの頬が赤らむ。 しかし、スルトも彼を見て固まっていた。 「もう、ヘブンじゃないんだ。」 その男は少し困ったように髪を掻き揚げた。 「…レヴン!お前レヴンだな! お前の気配を今晩感じていたところだ…。」 ゆっくりとスルトは立ち上がり、彼に近づいてゆく。そして… バシッ! 彼らの手が厚く握られた。 彼らの顔には笑みが浮かんでいる。 「うん、実体もあるみたいだね。化けて出たのかとおもったぜ」 「スルトも相変わらずだな。色々話すことあるけど、まず、ミレィだ。」 「あぁ、向こうの部屋にいるぜ。相変わらず寝たまんまだが…なんとかできるのか?」 「なんとか・・・する!」 スタスタ…二人が通り過ぎてゆく中で、今度はリルムがベッドの上で伏せていた。 レヴン…?レヴンですって。 アハハ…ティアのパパじゃないの。 ダメだよね、気がついたのも今日で、この思いと決別するのも今日じゃなきゃならないのよね…。 彼女はただ、見慣れてた天井がゆっくり霞んでゆくのをみていた。 数週間前と同じように、ミレィはそこに横たわっていた。 静かな、そして確かな寝息が聞こえる。 まぶたも軽く閉じられ、今にも起きそうなものなのに…それは硬く閉じられている。 「ミレィ…」 彼は愛しそうにその名を呼びながら彼女の手を握った。 そして彼女の赤い髪を掻き揚げ、額に手を軽く置く。 魔法の暗唱が静かに、まるで子守唄のように響いてゆく…。 『我、この陣を制御し、支配するもの。 切り取られた空の破片に今我が命を下さん。 展開せよ!“ゾーン オブ コントロール”』 パァアアア 青い光が風に舞う燐粉のように舞い上がりながら、暗いその部屋を青く染めてゆく。 魔方陣が彼女の体の下のシーツにひろがってゆき、全身をスッポリと覆う。 さあ、これで準備は完了だ。 『我、新たに命を吹き込まれたる次元の破片にめいず、彼女の体を侵するものを払いたまえ…!!!』 バッ!! 一瞬魔方陣の中が強烈な青い光を放った後、また元へ戻ってゆく… 「…どうだ? ミレィは…」 「チッ、効いていない? もうい一度!」 バババッ!! その部屋から青白い閃光が何度も何度も放たれる。 しかし、願いもむなしく彼女がそのまぶたを開けることは無い。 「くそぅ! 何がいけないんだよ。 起きてくれよ、ミレィ!!」 ズバババババ!! 「おわっ!?」 「キャッ!」 今度は部屋全体を揺るがすほどの衝撃波が駆け抜け、 青白い魔力をたたえた魔法人の中で彼女の体がゆっくりともちあがってゆく。 今までとはかける魔力の桁が違う! 「らぁああああ!!!」 余りにも膨大な量の魔力の一斉放出で、彼の体にもその反動が侵し始めていた。 彼の腕といい足といい、体全体に裂傷がはっし、血が流失してゆく! バババババ!! それでもレヴンは躊躇うことなく全力で魔力を放出し続ける。 「ヘブン、いやレヴンやめて!死んじゃう!」 隣の部屋から異常を察してリルムがとんでくるも、 余りの魔力のプレッシャーに彼に近づくことさえできない。 ただ、必死に叫んでいた。 「ミレィ…!!」 それでも彼はやめることは無い。強く強く…自らの命を削りながら… かって、ミレィが重病の彼にしたときと同じように。 「やめて!! そんなことしてもミレィさんは…」 『愚かだ、愚か過ぎる。 もはや付き合っていられぬな。』 二つの声が耳に届いた瞬間、彼は魔力の共振の爆音に負けぬような咆哮を上げていた。 そしてすさまじい突風、いや、衝撃波の波が、彼を中心にはじけとんだ!
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