第四十一話〜残酷な運命、親子の対決〜 そう、なかへ駆け込んできた男は… 分厚い銀色のチェーンアーマーを着込み、 その上から羽織る濃青マント、そして顔の下半分を覆う黒い覆面。 そしててにもつ白いオーラを放つ古代の遺物、ファインヒュージョナと呼ばれる剣。 彼らの仲間の中で最強の男…現る。 「こないで! じゃまをしないで!」 ティアは必死に叫んでいた。 私が彼らを裏切ることになるのはわかっている・・・ けど、けどっ! シリウスのためには・・・仕方がないの。 たった一人で行かせはしない、 私もともに地獄へ落ちる! 「ティア…考え直せ! たとえそいつがシリウスであろうとなかろうと、 ゆけば世界を滅ぼすことになるんだぞ! わかっているのか!」 いつも以上に強い語気で、彼も叫び返す。 「それにお前の母は・・・ミレィはどうなる!」 「ママ…」 一瞬のうちに迷いが浮かんだ。 豹変する彼女の表情。 「でも…、でもっ! 私はシリウスとともに行く!」 彼女は泣きながら叫んでいた。 「・・・」 その表情をみて、ヘブンも彼女が本気であることを悟っていた。 しかし、奴を今逃すことなどできるはずがない、 セトのいう崩壊の日は確実に引き起こることになるだろう。 それを食い止めるために俺がいる、だから・・・ 「だが、俺はそいつを逃がしはしない! 今、切り捨てなければならない…世界のためだ! 」 シュン!! 彼の姿がかき消すように二人の視界から消える。 その剣先には確実にレクスののど元をとらえていることを、レクスは赤い瞳を見開き捕らえていた。 しかしそれでも余裕そうな笑みを浮かべて動こうともしない。 「もらっ…」 ヘブンが高速で移動しながら渾身の突きを繰り出した瞬間だった。 ガキィィィン!! 金属音が響き渡る。 それは白い光をおびた大剣“セルティアル”に弾かれ、後退を余儀なくされた。 「ティア!!」 「・・・ころさせはしない。 私が彼を守る!」 彼女がレクスの前に立ちふさがり、ヘブンを殺気のこもった目で睨んでいた。 「クッ…レクス、貴様はぁああ!!」 流石のヘブンにも焦りの表情が浮かぶ。 ティアを殺すわけにも行かず、されど彼女がいると、レクスを殺せない。 『フ、元仲間同士存分にやりあうがよい。クハハハハッ』 不敵な高笑いを浮かべ、楽しそうにその状況をみるレクス。 「チッ! 俺をなめるなよ! お前は生かしてかえすわけにはいかない!」 ヘブンが剣を構えなおしている瞬間、もう彼女は目の前に進み出てきていた。 ガキィィィン!! 剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。 剣を交差するような状態で二人はそこで固まっていた。 「ティア…じゃまをするな!」 「すこし眠っててもらうわよ、ヘブン!」 “剣舞” ズガガガガガ!! 突風のごとき剣の軌道の嵐が吹き荒れる。 ティアの独自の技、舞を踊るかのように高速で剣を振り回し、切り刻む剣技。 その無限に増幅するかのような剣の軌道は、すべて確実に彼の体を捕らえているが・・・。 ギギギギギギギギ… ヘブンはそれを全てみきり、ファインヒュージョナで防いでゆく。 しかしその威力に、徐々に後退を余儀なくされているようだ。 「グッ…」 バッ!! 彼は大きく跳躍し彼女を飛び越え真後ろへ回った。 そして瞬時に暗唱を完成させ、手を彼女へ掲げる。 “フレアバースト” 常人のつかえるフレアバーストの3倍はあろうかというほどの大きさの火球を作り出し、それをはなった。 燃え盛る火球は赤々と闇をきりさき、彼女を捉える。 ドゴオオオオオオン!! 火球が爆ぜると同時に、 膨大な熱量が放出され、視界が熱と黒煙によりかすんだ。 やりすぎたか? ヘブンがそうおもったのもつかの間だった。 “ギガスプレッドサンド” 高い声が黒煙の向こうからきこえる。 ズゴォォォォォ!! ものすごい爆音を纏いながら、床の石や岩石を含んだ土砂の津波が持ち上がり、彼に迫ってくる。 それはもはや並の魔力でなせる業ではない、津波そのものである。 ハァアアア!! ヘブンは気合とともにその波にむかって剣を一振りすると、 一筋の衝撃波が縦に走り、その波を両断させた。 しかし、そこに既に彼女はいない。 「やぁあああっ!!」 突然真上から聞こえた声に上を向くと、ティアが剣を頭の上まであげてとびかかってきていた。 「しまっ・・・」 ザグゥン! 彼女の剣は彼の体を袈裟斬りにしたが、 瞬時にヘブンはいっぽ後ろにひいたため、切り裂いたのはガーディアンチェインメイルのみ。 ドサッ… 両断されたチェインメイルが地面へと落ちるのを、彼はしたうちをしながらみていた。 「…強くなったな、ティア。」 ヘブンは悲しそうな目をして、すこし距離をとって剣を構えるティアに声をかけた。 「守るべきものが…私にはできたから。」 愛のために、全てを投げ出すか・・・ 俺にとってそれはなんなのだろうか? 守るべきもの、愛すべきもの・・・ 全て、俺は思い出せない。 俺は… 「しかし、俺はやはり奴を倒す、本気で行くぞ!」 精神を集中し、体中の魔力を練る。 そして右手を床へ押し付けると、青白い光を放つ魔法陣が展開され、徐々に大きく広がってゆく! 「なに? これ・・・」 足元まで広がった魔法陣をみながら、困惑するティア。 「・・・俺の勝ちだ。 しばしそこでとまっててもらう!」 ピキンッ!! ヘブンがそう叫んだ瞬間、ティアの体は完全に動きを停止した、ただつったっているのみ。 剣を上げることも、足を出すこともできずに体が凍りついたように動かない。 「な…動かない…」 驚愕の表情をうかべたまま固まるティア。 「“zone of control” 空間を支配する魔法だ、あんたはもう動けない…」 コンッ、コンッ・・・ じょじょにヘブンが近づいてくる、いや、レクスへ近づいていく。 「いや、彼によらないで、やめて〜!」 彼女は苦渋の表情をうかべ必死に叫んでいた。 それでもレクスは笑みを浮かべたまま動こうとしない。 涼しい表情をしながら、その赤い瞳でヘブンを見下している。 「動け、うごけぇええええ!!」 彼女は必死に体に呼びかけるも、ピクリとも体は動きはしない。 どんどんとヘブンは彼に近づいてゆく、彼の殺気はほんものだ。 このままじゃ、シリウスが殺される・・・ お願い、力を… 彼を殺させないで、私に力を、セルティアル…!! ピカァアアアア!! 彼女の意思に同調するように、魔法武具セルティアルがまぶしい光を上げる。 「なっ…!?」 さすがにそれにはヘブンも驚いたようだ。 おもわず腕で目を覆う・・・ しかし、それが隙となった。 「はぁあああ!!」 ヘブンが腕をどけ、視力が戻った瞬間には、 “zone of control”から抜け出した彼女が、 光り輝くセルティアルを大きく振り上げていたところだった。 「ぐぅううう」 ドゴォォォォォォォォォォォォン!!! 強烈な閃光と爆音とともに、振り下ろされたセルティアルから発生した魔力の波動は、 その地点を中心に全てを吹き飛ばしていた。 「ハァ、ハァ…」 ティアが彼を探した視線の先には、 岩の壁にめり込んでみえない彼の姿と、 近くにおちている折れた剣、そして一つのネックレスが鎖がきられおちていた。 『・・・よくやった。 いくぞ、やつはまた立ち上がるまえに』 「ごめんなさい、ヘブン。 私にはこうするしか…。」 悲しき運命のもとに起こった親子の対決、 勝利の女神は愛のために悪の道へとはいりこんだ娘を勝者として選んだのか・・・ これから背負うことになる背徳の運命をも彼女に背負わせて・・・
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