第二十五話〜白銀の森〜 ブゥゥゥゥン… 私たちを覆っていた黄金の光が徐々に薄れていく。 「あれ…、ここわ?」 私たち5人のまわりは、闇に覆われたうっそうと茂る木々がみえるだけだった。 唯一つ違うのは、足元は白く淡く光るものにおおわれ、樹木の枝枝は、それを重そうに支えている。 「綺麗…こんな雪景色はじめてみたわ。」 私は思わずその光景に見とれ呟いてしまった。 ミルレスには雪はふらず、たまに狩場や自警団の任務で他の町に行くときに目にするだけだった。 しかし、これほど積もることもなく、こんなにも綺麗なものとはしらなかった。 一面雪に覆われた白い森の中、木々の間から差し込む光の中に雪の結晶が中へ舞い上がる。 ダイヤモンドダストとよばれる現象である。 まるで天使が舞い降りてくるような、神秘的な光景であった。 「僕も雪はじめてなんですよ〜」 ボロボロの水色のローブをきたシリウスが、屈みこんで、雪を手のひらの上で転がしている。 「シリウス〜! えいっ!!」 ボスッ!! 雪球が彼の雪景色に溶け込むような銀髪にヒットした。 「わぁっ!! 冷たっ!」 雪とは対照的に黒い縁取りの修道服をきた彼女、リルムがにやにやしながら見ていた。 「リルムさ〜ん!! 僕も仕返しだ!」 ボコボコボコ、見とれているティアのよこでシリウスとリルムは雪合戦。 それを呆れてみているクロス。 彼がふと気がついたように横で考え込んでいるヘブンに声をかけた。 「なんでこないなとこへとんだんや? ルアスが危ないんや?」 「あっ、そうだよ!」 雪遊びに興じていてた二人も戻ってきて、ティアも横へ並んだ。 「…ゲートの超空間が閉じられている…」 彼は苦しそうに呟いた。 「「「ええ!?」」」 そう、ウィザードゲートおよびゲートのスクロールは、 それに含まれた魔力により、異次元の空間への扉を開ける魔法。 その距離を0にする異次元“ワームホール”という所をとおって、定められた出口へ出るのだが… 「そう、マイソシア大陸全土に何かしらの異常が起きているようだな…」 シーン、静まり返る仲間たち。 雪だけがシンシンと音もなく肩、頭といわずいたるところに降り積もる。 どうやらもう一降りくるようだ、空は厚い雲に覆われ雪はとめどなく空より落ちてくる。 「ね、ねぇまってよ。 それって私たち…ここから歩かなきゃならないってこと!?」 私は思わず叫んでいた。 「…やむを得まい。」 「うわ〜、マジィ? 最悪じゃーん」 「うへ、、難儀なことになったな。」 ・・・・ 「ここか何処かすら判らないが、とりあえずここへいても凍死だ、町を探すぞ。」 重い鎧を着込んだヘブンは、靴を雪にうもれさせながらも歩き出した。 それについて行く一同。 さっきまでのはしゃぎ回っていたテンションも何処へやら、 まったく無口になって足を足られそうになりながらも歩き続けた。 さっきまで綺麗だと思ってたのに…今じゃ憎たらしいだけ! もういや! ハァ、、、私はため息をつき、また足を雪から引っ張り出した。 もう何時間歩いただろう、苛酷な環境の中で時間の感覚が狂ってきていた。 見渡す限り雪、雪。雪!な白銀の世界、町など影も形もない。 「ハァ、ハァ、も、もうだめですよ…」 相変わらず一番体力のないシリウスが根を上げ始めた。 無理もない、重く分厚い鎧を着込んでいるティアやヘブンにくらべ、薄い胴衣に法衣、 ましてや、ボロボロになり、裾が大きく切り取られたローブのシリウスには、 この寒さは耐えられないだろう。 「がんばって、うちなんてスカートみたいなものよ?」 引き締まった細い足や腕を寒さでピンク色にそめながら、袖なしの胴衣を恨めしくおもうリルム。 「すまんな〜、治癒の魔法でも寒さはとりのぞけへんで」 クロスも高価な魔法道具の杖をもはや棒切れのように体重を支えるものとつかっている。 「ねぇ、ほんとにこのままじゃ危ないわよ」 歯をがちがち言わせながら、私はただ黙々と歩くヘブンに愚痴っていた。 「…動いているほうが体温が上がる。 死にたくなければ歩いて道を切り開くしかない」 「あ〜もうだめだ。」 バタッ、雪の上にうつ伏せになって倒れるシリウス。 「シリウス、だめよ! もうちょっとがんばって!」 私は彼の横にいき、彼を支えて立ち上がらせた。 手に取った彼の腕が凍ったように冷たい…。 私は彼に抱きつくように身を寄せていた、私の包帯代わりに裂いた服の部分が痛々しい。 「あ、、暖かい。 けど恥ずかしいなぁ〜」 「いいな〜、うちも暖めてくれる人がほしいっ!」 二人から目をそむけるリルム。 「ほぉ〜、じゃあワイが…」 「あ!! あれ見て!! 炎が上がってる!」 クロスがいつものシモネタをいおうとした言葉を跳ね除けて、彼女は一方向を指を指し叫んだ。 パチパチと、木々の間にかがり火のように炎があがっているのがみえた。 「ほんとだ、炎があがってる!! シリウス、あそこまでいきましょう。」 「なんや〜、わいが暖めたろうとおもったのにっ。 まあ炎のが大事やな!」 「…燃えるものもないのに炎か。 妖しいがあれを見逃す手もないな」 ザンッ、ザンッ、我先にと雪をかけのけ炎の前に駆け寄る。 木をやぐらのように組んだ台の中。 赤々とした炎は、もはや暗くなってしまった森をほのかに照らし出し、 周りに寄った5人の影をユラユラと雪の上へ投射する。 「あ〜暖かい。 死にそうだったけど生き返ったわ。 こんなところに火が燃えてるなんて天の助けね、炎の神様、感謝します!」 体も温まり、いつもの笑いがもどってきたリルム。 炎にふざけて頭を下げたりしてみんなを笑わせていた。 「ヒャヒャヒャ、炎の神様だなんて……オイラはカレワラの太陽だよ。 ヒャヒャヒャ」 突然、リルムに答えるように炎のなかからしわがれた声が響いた。 「ええっ!?」 バッ 5人がいっせいに焚き火からとびのくと、炎の中からバスケットボールほどの火の塊が飛び出した! 普通の炎よりオレンジっぽいそれは、 よく見ると目と口のように裂け目があり、その縁だけ黒い色の炎になっている。 まるでハロウィンの南瓜のようにつりあがった目、大きく左右に裂かれた口。 それが炎の中に彫りこまれたように暗い影となり、 喋るたびに小さな炎を吐きながら、その口とおもわしき黒い影がひらいたり閉じたりしている。 「な、なにこいつ?」 「さぁ? ポンの炎バージョン?」 「かがり火の燃えカスやな、うん」 そのはじめてみる生命体に驚きながらも怖がることなく、勝手な推測をたてはじめる始末。 「違う! オイラはカレワラの太陽、炎の神様ことフィアンマ様だ! ヒャヒャヒャ」 フィアンマと名乗る炎の塊のしわがれた高笑いが、白銀の世界に響いた。
フィアンマを詳しく知りたい方は、Fantasyを見て下さい。
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