I WISH ・・・ 最後の戦い〜過去の幻影〜


「おい…なんだありゃあ…」
困惑した表情で、それを見つめるスルト。

無理もない。
あれは実体もなく、ただ意思だけの存在、霊魂とかいわれる類のものだろうか。

その少年と少女は、ミレィの目の前に立ち、語りかける。

「クレイさんと、レイツァーさん…?それって…レヴンの言っていた…」

「あぁ、俺達は何百年も前に、殺された。」

「でもね、彼を恨んでなんかいないの、
あの時、私達は私達の意志で、彼を守ろうとしたのだから。」

「今も、あいつは俺達の名前を背負い生きている…、
そんなに背負い込んで無茶はさせたくないのだがな」
青色のショートヘアーを掻きながら、そう呟くようにいうレイツァー。

「…ミレィさん、お願いがあるんです。
私達を少しの間だけでいい、現世に還していただけませんか?」

「え…、でもどうすればっ!?」

「…貴方ほどの聖職者なら、できるはずです…。
あのままじゃ彼は負けるでしょう、私達が…彼の重荷を取り払わなければ…」

「…わかったわ、やってみる。 スルト、ミラ、力を貸して」

「あぁ…任せておけ」

ミレィは膝をつき、槌を前にかざして祈りをはじめる。

膨大な魔力が彼女に吸い寄せられていく。

 …死人をも生き返らせるという封印された禁呪、
  私にできるかわからないけど…力を貸して!!

彼女の口から暗唱の言葉が一つ一つもれるたびに、
彼女の周りに聖なる魔力が渦を巻き始める。

それは煌き、神秘的な光景。

それは全身の魔力を吸い上げてもなお、足りないほどの莫大な魔力の結晶。

 …だめ、まだ魔力がたりない…!

「つつつ、けっこうきついなこれは」

ミレィの肩においている手から、
全身の力を吸い上げられるような感覚をおぼえるスルト。

「ぇえ…がんばって…ミレィ」
ミラも苦しそうな顔をしながら、それに耐えている。

しかし、ミラの暗唱がとぎれとぎれになる。
力ない声がかろうじて、間を空けながら響く。

もはや彼女は、口を動かす力さえものこされていないのか…?

 だめ…もう維持できない…

そう思った瞬間、新たな魔力が流れ込み、元の状態にもどることができた。

「師匠! エイリーンさん!」

「おそくなってごめんね〜、私達も力をかすからさ」

「ミレィ…貴方ならできる!なんたって私の弟子なのだから…!」

 パァアアアアア!!

ミレィの周りを、眼が眩むほどの激しい光が覆う。
それは徐々に輝きをつよめ、彼女はみえなくなった。

 …今よ!

“トゥルー・リザレクション”

二人の霊魂を、紫色に輝く光が取り巻く。

徐々に晴れていく足元から、霊魂のそれでなく、現世の実体あるものになってゆく!

 フゥゥゥ〜

光が全てきえたとき、そこには二人が笑みをうかべてたっていた。

そう、浮いているわけじゃなく、足で地を踏んでたっている。

それと同時に、その場に倒れこむミレィ。

「ミレィ!!」
仲間が駆け寄って、彼女をおこす。

「…大丈夫よ…、お二人さん、レヴンを頼みます…」

「ありがと、ミレィさん」
レイツァーが剣を構え、結界に走り出した。

「こんないい奥さんもらって、レヴンも幸せ者ね」
ちょっと笑って、クレイも駆けていく。



 ハァハァ

傷だらけの肩が大きく揺れる。

全身からの出血が多い。

体を覆う闇も、もはや防具としての役目を果たしていない。

いや、それで防げるような攻撃のレベルじゃないということか。

その様子を、面白そうに少しはなれたところでガルフラントは見ている。

「…どうした? 我の本気には、足元にも及ばんようだな…ククク」
不敵な高笑いがきこえる。

…うざい。

レヴンは剣を強く握りなおし、口の中で暗唱を始める。

彼の体に残された魔力が、セルティアルに流され、強烈な光を放つ。

「ほぉ…まだ抵抗するか、ククク…」

彼は、前に手をかざした。

“テラスプレッドサンド”
膨大な量の土砂の津波が、
急に空間から発生し、ガルフラントを飲み込むべくむかってゆく!

「ククク…よけるまでもない」

彼を包む魔力が、
彼の何万倍もの質量のものを押し返し、辺りに土砂が四方八方に飛び散る。

結界の中が全て土砂にうもれるほどの質量、視界もまったく利かない。

 ズズズズズ

突然、ガルフラントの周囲が闇につつまれ、
闇の中から無数の黒い、使者の腕が伸びてきて、彼を掴む!

これは…“コーリング・オブ・デッド”

彼の体わ、無数の腕に絡みつかれ、深淵のそこへしずめられていく…

最後に、その結界のそこに闇の破片、黒い水溜りのようなものが残るのみになった。

それも、地面に染み入るようにきえていく…

 ズガガガガガ!!

ものすごい爆音とともに、
その闇の破片がこなごなに砕け散り、中からガルフラントがでてきた。

「ククク…そんなものきかん」

だが、そこにレヴンの姿はない。

「…一刀流“五月雨”」
頭上からレヴンの声が響く。

レヴンの腕が光速に虚空を切り裂くと、無数の衝撃波が王めがけておちてくる。

それはまるで、豪雨の如く、地面に降り注ぎ。

地を抉り、粉塵を撒き散らせる。

「…近距離がだめなら遠距離…これですこしは」

地面に降り立った瞬間!

彼の首に指が伸び、つかみこんだ。

「ぐ…」
片手で、王に吊り上げられるレヴン。

「ククク…悪あがきもここまでにしてもらおうか…」
ガルフラントの剣“ベルセルク”が、怪しい光を立てながら振り上げられる。

 ち…ほんとにもうだめみたいだ。

 許せよ、ミレィ…一緒に生きれなくて…

 クレイ、レイツァー、今、お前らの元へ行く…

 謝っても謝りきれぬほど、お前達には迷惑をかけたな…



 バリィィィィン!!

周りを囲んでいたドーム状の結界が、勢いよく砕け散る!

「!?」
さすがの王もおどろき、周りを見回す。

 ガキの仲間は、あそこにへばってるようにみえるが…

「くらいなさい! “アイスランサー”!!」
少女の高い声が響き渡る。

おぼろげな意識で、レヴンもこの声を聞く。

 このこえ…聞き覚えがあるな…、いつのころだったか…
 

強烈な冷気がこまった数多の槍が、ガルフラントへむかって光速で飛来する。

「…フンッ!」

王が“ベルセルク”を一振りすると、
氷は一瞬で蒸発し、水蒸気となって天へのぼった。

「がらあきだぜ! ガルフラント!!」
不意に、男がガルフラントの前に回りこんでいる。

 ブンッ!!

強烈な剣撃が、ガルフラントにうちだされた。

 ククク…我が領域にはいりしものは全て我が支配する…    !?

 グザッ!!

剣は鈍い音を立てて、ガルフラントに直撃し、吹っ飛ばされた。
その拍子に、レヴンの首を掴んでいた手を離した。

 ドシン

尻餅をつき、崩れ落ちるレヴン。


 これは…夢なのか、それともすでに俺は死んだのか…?

その光景を、感覚が鈍くなった頭で必死に考える。

“フルヒール”
少女が手をかざした瞬間、彼の体の傷が一斉にふさがっていく。

「…よぉ、レヴン、久しぶりだな、
ずいぶんと無様なかっこになってやがるじゃねぇか」
青い髪をした、少年が笑いかけている。

「ほんと、久しぶりね。無茶する性格はあれから変わってないみたいだけど」
隣の少女も、笑いかけてきた。

「…クレイ! レイツァー!!」

「…俺達は、ミレィさんの力を借りて、今一度友を助けるためにもどってきたのさ。」

「クスクス、貴方の彼女、すごく才能あるわ。
貴方にはもったいないくらいできた人だね。フフフ」

「…ちっ、からかうなよ。また助けられたか…」
ゆっくりと、少し笑いながら、その二人に近づくレヴン。

「そうだ、昔からレヴンは俺達がいないと何もできない泣き虫だった。」
さもおかしそうな顔をして笑うレイツァー。

「そうね〜、もう懐かしすぎて何はなせばいいかわからないけど…
あんまり時間もないわね、あいつ、倒すよっ!」

「・・・あぁ、決着をつけないと!」