I WISH ・・・38 〜狡猾〜


「ふ・・・好きにするがいいさ・・・」
横に立つ、ミラの目を見上げながら、力なさげにフィアーはいった。

「・・・そうね、最後に一つだけきいておこうかしら。」
ミラは、彼女を殺気のこもった目で睨め付けながらいった。

「貴方が何故、ガルフラントといる理由と、居場所、おしえなさい」

「ふ・・・理由か。

私は元の時代に生きていたときから・・・ずっと一人だったんだ。
ただ生きるために、罪を犯し、追ってくるものを殺した。

そして“時の狭間”に封印されていたのさ・・・それを救ってくれたのが彼さ。
だから初めて、他人のためにたたかうことにしたのさ。

もう独りはごめんだよ・・・。」

気がつけば、フィアーの目には涙がひかっていた。

 孤独・・・か、この人も元の私と同じ・・・

全身から闘気がぬけていき、いつもの自分にもどっていくのを感じた。

両親を幼いときに失い、ずっと独りでいきてきたミラにとって、
その孤独のつらさを誰よりもわかっているからだろうか。

だから他人のことにもつい反応してしまう。

「それでも・・・人を傷つけていい理由になんてならないわ・・・」
一種の哀れみを帯びた目で、彼女を見返すミラ。

「そうだわ・・・いまさら気がついても遅いのだけど・・・」
フィアーは目に大粒の涙を浮かべ泣き出した。

 この人を・・・私は殺すことはできない・・・ あまりにも哀れだわ・・・

ミラは彼女に背を向けて、スルトの座り込んでいるところへ歩み始めた。

が、その時だった。

「あぶない!! ミラ!」

「え・・・?」

 ズシャッ!!

ミラの背中が裂け、血が噴出した。

後ろを振り返ると、
フィアーが鞭を大きく振るい、不敵な笑みをうかべてたっている。

「どうして・・・」
ミラはその場に倒れそうになるが、なんとか跳躍し、フィアーと対峙する。

「アハハハ、バカな小娘! あんな単純なうそにひっかかるなんて!」

「貴様! よくもミラにだましうちを、ゆるさねぇえ!!」
血が足りず、動けないスルトが怒りですごい形相をして怒声を上げる!

「・・・全部うそだったね・・・」

「ウフフ、その姿じゃもう満足にたたかえないわね!」
シュッ フィアーの鞭が分身し、彼女に襲い掛かる。

背中の出血と、激しく心が動揺した彼女に、さっきにような力はない。

なすがままにきざまれて、地面へ転がされる。

「・・・っう・・・」

「オホホ、貴方はすごくむかついたわね・・・、一瞬であの世に逝かせて上げるわ!」
フィアーの鞭が大きく振り上げられた。


「うぉおおおおおおお!!」
そのとき、うなり声とともにフィアーの前に紅い旋風がはしった。

フィアーはそれを間一髪でよけ、後ろへ間を取った。

「クスクス、まだ動けるの? また傷口が開いているわよ?」

彼女の前、スルトが守るようにたっていた。
背中の傷跡からは血がにじんでいる・・・

そして肩で荒い息をしていた。

「・・・うるせぇ・・・貴様だけはゆるさない・・・」

「あら?貴方達なんて、もう切り刻まれる運命じゃない?えものはえものらし・・・」

「うるせぇえええ!!ミラを傷つける奴は僕が殺す! 」
フィアーが最後まで言い切らないうちに、
スルトの怒声にその声はかき消された。

「うるさいガキね! もう死になさい“クラッチングストリーム”」

もう、これを何度見て、何度絶望を感じただろう。

二人の前にまた狂気の舞がせまってくる。

だが、スルトの眼は確実に一点、フィアーのみをとらえている!

“ピアシング・ガトリング”!!
光速の腕の動きより、発する分身したような槍。

しかし、この技は奥義、ピアシングスパインをも凌駕する!

空間を裂くように、円錐形の闘気が無数に飛んでいく。


バシバシバシ!! 

鞭の嵐と、飛ばした闘気がぶつかり合い、激しい音を立てながら相殺した。

その土煙まう衝撃の余波の中を、紅い旋風がつっこんでいく。

「な!」

 しかし・・・あまいわよ!

驚きながらも、その攻撃をよけ、フィアーは鞭を大きく振り上げた。

スルトは技の反動でまったくの無防御。

「もらったわ…!」
そのまま彼の首に振り下ろし…いや、降りていない。

手を大きく上げたまま、彼女の腕が固まっている。

「腕が・・・うごかない・・・」

 何か強烈な圧力でおさえこまれている! あ・・・まさか!

「こむすめぇぇぇ!」

スルトの後方で、倒れながらもミラのグローブが光を発している。

「・・・今よ、スルト!」

「サンキュー、ミラ!」

彼の槍に、今、凄まじい大きさの炎が渦を巻いている。

「ヒッ、ヒィィィ!」

「くらえ、地獄の業火でもえつきろ!」

“インフェノルブレイズ”!!

その凄まじい熱量を放ち、真紅の炎は音もなく彼女を包み込み、
そして一瞬のうちに蒸発させる。

ただ残った水蒸気のみが暗い天井にのぼっていった。


「ミラ、大丈夫か・・・?」

「ええ…、気を全部治癒にまわしてるから血は・・・」

「そうか、俺の肩につかまれ、いこう」

「うん」

二人は、寄り添いながら暗い牢獄をあとにした。
ただ、決着のときをみるために・・・