I WISH ・・・39 〜狂科学者〜


偶然か、それとも策略のうちか、
同じ場所に飛ばされたレイチェルとエイリーン。

彼女達は、今、不気味な部屋をあるいている。

それは・・・まさに研究室といった感じか
薄暗い光が灯る通路の両側に、大きなガラスでできた水槽がいくつもならんでいる。

その中には・・・・ホルマリン漬けにされた数々の奇妙な動物、
そして内臓の一部、脳など、吐き気を催すような光景が続いている。

「…うげぇ…趣味悪いわねぇ・・・」
エイリーンが、隣の水槽をみながらいった。

そこには大きな二つの眼球が水につけられ浮かんでいる。

「ええ…、何かしらこの部屋…、研究室のようだけど…」

「レイチェル…これ!」
彼女が指差した複数の水槽には…人間の子供まで浮かんでいた。

「…人間まで実験材料に…ゆるせないわね…」

「あ! あそこに何かいるよ!」

二人の視線の先に、大広間がみえてきた。
城の庭ぐらいはありそうな広さと、城の屋上ほどのたかさの天井。

そして真ん中に書類が山積みな机に向かって、
必死に何かを書きとめている男の姿が見える。

ボロボロの焦げ茶いろのローブを羽織り、ボサボサな茶髪をたらしている男。
どう見ても中年。

「…ほぉ、誰かきたようじゃの…」
振り返らずに、彼女達に語りかけた。

彼女達は静かに武器を構える。

「あなた…ここでいったいなにをしている?」

声に反応してか、男が振り返った。

「なにを…?生物兵器の研究じゃよ。
みたまえ、このすばらしい設備に実験材料。
元の時代にいるよりもよっぽど研究できそうじゃ」

「研究!? こんなにたくさんの生き物や…人間の子供まで実験材料にして!」
レイチェルが語気を強くしていう。

「何をそのくらいで怒ることがある、実験のためには多少の犠牲はつき物じゃ…」

「…むだだよ、レイチェル。 こんな奴には話は通じないよ」
冷たい視線を彼に向け、今にでも飛び掛りそうな構えで男を睨むエイリーン。

全身から、怒りが伝わってくるようだ。


「ほぉ…わしを殺してでも止めようというのか…だが、わしはしねんの、
もうすぐ、わしの研究の集大成ができあがるところじゃて・・・」

「わしのかわいい僕のえさにしてやろうかのう。」
音が大きく手を下へ振った。

すると、その地面に巨大な魔方陣が形成されていく。

 ズズズズ…

その魔方陣から、何かがでてくる・・・

それは4つ足の、獣のような生物。
全身毛むくじゃらで、狼のような顔と体つきをしている。

しかし、決定的に違うのは顔が3つもあること…

 番犬にしてはおおきすぎない・・・?


「ギャオオオオオオオ!!」
獣の咆哮が辺りの空気を痛いほど振るわせる。

「なに…あれ!」

驚いた表情で彼女達はその光景を見ていた。

「いけ!わしのかわいい僕“ケルベロス”よ!きゃつらを食い殺すのじゃ!」

一瞬、その鋭く、つり上がった目をこちらにむけたあと、その獣はつっこんできた!

「ちっ…はやいわね!」
エイリーンがレイチェルの前に立ちふさがり、
愛用のカチハプンを2本取り出し、構える!

ガキィィィン!!
六つの獣の牙と、カチハプンの刃がぶつかり合う。

「くっ・・・なんて力、きゃっ!」
その獣は、ハプンの刃を噛んだまま首をおおきく振り、
エイリーンの力ごと横へ投げ飛ばした。

そしてすかさず追い討ちをかけようと彼女に走る!

「させない! “アイスランス”!!」
出だしの早い、しかし強力な魔法でレイチェルは獣を狙い放つ。

が、難なく跳躍でかわされ、獣は主人の前にもどり、こちらを威嚇している。

「大丈夫!? エイリーン。」

「えぇ…」
床から立ち上がり、またもその獣と対峙する。

手にするカチハプンは、牙の跡がしっかりのこっていて、ボロボロだった。

「カチハプンを噛み砕いちゃうなんて…、もう、あれでいくしかないね。」
彼女は懐から、布に包まれた一つの短剣を取り出した。

布を払いのけると、そこから青い光が漏れる。

流水のように、歪曲した刃に、冷たい光を宿す短剣“フェンリル”
それは水を支配する魔法具。

「レイチェル、援護お願い、いっきにきめるわ」

 私の暗殺術の全て、みせてあげる!

バッ!!

彼女は勢いよく獣へと飛び出した。

 ガルルルルル!!

獣もそれに応じるように走り出し、鉤爪を振り上げ、高速ではらった。

キンッ!!

金属音が響く、彼女がそれを短剣でうけとめたようだ。

 力じゃ負ける…だったらその力、利用させてもらうわよ!

彼女は獣の爪を間をうまく刃を這わせ、爪と肉の間に刃を差し込んだ!

 ブッシュウウ!!

鮮血が噴出す。
半場自らの怪力で指に刃を抉りこませてしまった。

後ろへ跳躍し、様子を見るエイリーン。
しかし、獣はその程度じゃとまらない!

 その四肢が強く地面をけり、ものすごい速さで彼女に突進していく!

「ふ、やはり獣ね、直線的すぎるわよ!」

彼女は地面に伏せるように構える。
そして、獣が彼女に飛び掛ろうと飛び上がった瞬間!

“闇技、螺旋殺”!!

手首にひねりを加え、短剣の刃を回しす。
それは螺旋を描くように回転しながらつっこんでゆく!

  グシャアア!!

頭の一つを、彼女の短剣がドリルのようにつきささり、顎から砕けた。

その反動は、獣の巨体をもなげとばす!

ドゴッ…

地面に落ちる音が響いた。

「ふ…さすがにもう起き上がれないでしょ?」

勝ち誇ったように、しかし右手を押さえながらエイリーンがいった。

腕にかかる負担が大きい。
だからこの技は盗賊の技でも隠された技、闇技にされているのだ。

「ふぉふぉふぉ、そんなものではまだまだじゃわ。」

ドズッ、二つしか顔がなくなった地獄の番犬、ケルベロスがゆっくりと立ち上がる。

その目には、妖しい紅い光がやどっていた。

「!? エイリーン、さけて! 魔法よ!」

「え・・・?」

エイリーンの前に、レイチェルが立ちふさがった瞬間。
ケルベロスの二つの口から、赤黒い地獄の火炎が噴出される!

ドゴォォォォォ!!

それはその広間を半分ほど融解させ、水蒸気が立ち込める。

「ほぉほぉほぉ、さすがにあれを喰らえばおわりじゃろう…   !!」
彼は見た、水蒸気の幕がはれてくると同時に浮かび上がった、二つのシルエットを。

レイチェルの目の前に、
大きな眼をつけた丸く、漆黒の色をしたオーブがうかんでいる。

「…魔法具“イービルアイ” これの能力は魔力を吸収すること、そして!」
彼女は両手を前にかざし、気を集中させる。

体の魔力と、オーブから発生する魔力が混ざり合い、渦をまきながら球になる。

“ビックフレアバースト”!!

その球をいきおいよくなげつけると、
徐々に辺りの酸素を食い尽くしながら巨大な火球へとすがたをかえる。

「うぉおお・・・」

そして、

ドゴオオオオオオオオオン!!

頭がくらむほどの大音量と、膨大な熱量を撒き散らしながら、それは爆発した。