I WISH ・・・37 〜狂気乱舞〜


ドン!

体を包む光が消えるとともに、スルトは数メートル落下してしりもちをついた。

「いてて・・・」

「大丈夫?」

急に後ろから声がした。

「ミラ! 君もここに飛ばされたのか、みんなは何処だろ・・・」
ミラが走りよってくる。

立ち上がりながら周りを見回してみると、
暗いつくりの、周りを冷たい石の壁で覆われた広い部屋。

「・・・城の牢獄みたいなとこだな・・・こりゃ。」


そう、まさに牢屋、そのものである。

「・・・なんだ、久々の獲物かとおもったらガキが二人! やになっちゃうわね。」

急に虚空から声が響いたとおもうと、二人の前に今、影が舞い降りる。

全身に黒いマントを巻きつけ、深くフードをかぶっている。

「!?」

「・・・スルト、ついに出会っちゃったみたいね・・・」

「あぁ。僕ら二人で・・・あいつをたおすぞ!」
二人は武器を構え、そのものと対峙する。

「あら・・・?なまいきねぇ、二人とも。
そういう子好きよ、たっぷり可愛がってあげる。」

 バッ!

その影が、羽織っていたマントとフードを投げ捨てた。

と、そのとたん実体がきえる! とんでもなく速い動き。

「くる!」

 キンッ!!

スルトの槍と、そのもののが放った短剣がぶつかった。

飛んできた短剣をはじき落とすと、
飛んできた方向へ目を凝らすが、すでにそこにはいない。

「スルト! 後ろ!」

彼の後ろに、鞭が勢いよくのびてくる。

その先端は確実に彼の首を狙っている。

「えいっ!」

ミラの放った正拳が、その鞭の中腹をとらえ、弾いた!

そのまま、弾いた勢いでそのものを手前に引き寄せる。

 ドゴッ!

鈍い音が響いた。 

ミラの正拳を腕でガードしたが、
そのまま左腕の骨が折れたようだ。

大きく後ろへ跳んで、そのものは後退した。

「・・・っ・・・、ガキのくせにやるわね・・・
このフィアー様に傷を作るなんて・・・」
自らをフィアーと名乗った影。

それは派手な金髪の長髪をながし、
闇より黒い戦闘スールをきている女性 歳にして30前後か。

手には茨のように、とげが無数にとびだしている長い鞭。

「・・・おばさん、僕達二人には勝てないよ、おとなしくとおしてくれませんか?」

槍を真っ直ぐにフィアーに構え、
殺気のこもった視線をむけながらも、どこかはずれたことをいうスルト。

「・・・無駄よ、あの人にそんなこといっても・・・」
呆れた顔で、スルトを横目で睨むミラ。

「アハハハ、調子にのるんじゃないよ、ガキが・・・
可愛がるよりも切り刻みたいタイプね。」

 スッ。

急にフィアーが足元から空間に溶け出すように消えていく・・・

これは・・・

「インビジブル!!」

 ヒュンヒュンヒュン

鞭が空を舞う風切音が、辺りに響きわたる。

「ミラ、僕の後ろに、どこからくるかわからないよ。」

「・・・ぇえ」

背中合わせになり、いつでも攻撃できるように構える二人。

風を切る音が徐々におおきくなっていく。

「さぁ、うけなさい! “クラッチングストリーム!!”」

 ブワアアアア!!

四方八方から鞭が分身したようにふえ、襲ってくる!

「!?」

「ぐっ・・・」

「きゃっ、うっ、」

二人は、いっせいにばらけ、
鞭をかわそうとするも、数多の分身するような鞭の軌道をよみきることなど不可能。

さらに、インビジブルの気配をおうことすらできない。

二人はただ切り刻まれるのみで、大きく吹っ飛ばされた。

「ぐっ・・・、大丈夫かミラ!」

 ・・・僕のドラゴンスケイルまで突き破るなんて・・・なんて威力だあの鞭。

二人とも体中に切り傷を作り、血が流れ出している。

「・・・うん…」

「オホホホ、いいざまね・・・さぁ、もっと舞ってちょうだい。
ぞくぞくするような悲鳴をきかせて・・・」
楽しそうな目つきで、二人を見下すフィアー。

もっとも、思考のほうも完全に変な趣向がありそうだが・・・

「くっ・・・、このっやろぉ・・・、絶対ぶったおしてやる!」
勢いよく立ち上がり、その反動をいかして突っ込んでいくスルト。

「だめよ! スルト!」

「フフフ・・・」
またもインビジブルを唱えるフィアー。

“スラストスピア!!”

彼の光速の突きがくりだされる、が、空を切るに終わる。

 バシバシバシ!!
容赦ない鞭の攻撃が、彼の全身を絶え間なく打つ。

「ぐっ・・・、ならばこれならどうだ!」

“エクスプロージョン”!!

それはハボックショックの究極の進化系。

炎を纏いし大槍“サラマンドラ”が地面に突き刺さった瞬間。

まばゆい閃光とともに空間が爆発する!

スルトを中心に床に敷き詰められていた石が全て吹き飛び、石さえ蒸発していた。

 ドゴオオオオ!!

強烈な熱風が、ミラの横をとおりすぎていく。

 視界には爆発の中心にスルトがたっているのみ・・・

 フィアーは・・・ 吹き飛んだ!?

いや、違う! 彼の後ろの空間に亀裂がはいり、そこから鞭が伸びている!

 ・・・おねがい、間に合って!

一瞬にして全身の気を拳にため、放つ!

“イミットゲイザー”!!

 どぉぉぉぉ!!

空気を押しやりながら飛ぶそれは、スルトの首に巻きつく直前の鞭に直撃する!

 ドン!

「わっ!」

そのぶつかり合いの衝撃で、スルトが前へ吹き飛んだ。

鞭も大きく目標をはずれ、空間の亀裂のなかへもどっていく。

「あら・・・、また邪魔したわね・・・?
けど、騎士のほうはもうたたかえなくてよ?」
空間の亀裂から、フィアーがゆっくりとでてきた。

「ぐっ・・・」

全身からの出血がひどい・・・
膝をついたとこへ徐々に血だまりができていた。

 おちつけ、オーラを全て治癒にまわすんだ・・・。

“ナイトヒール”

徐々に傷を塞ぐ、しかし失った血液までは戻せない。

「フフフ・・・騎士のこはあとでもっと可愛がってあげるわよ、
四肢を一本ずつ切り落としていくの・・・
そのときの悲鳴を想像するだけでドキドキするわ・・・」
恍惚の表情を浮かべ、もはや自分だけの世界へはいっているようなフィアー。

それを片目に、ミラの頭の中で何かがはじけていく・・・

「ふぅ・・・どうして、こんな変体ばかりなのかしら、私の相手は・・・」
彼女の体中から闘気がにじみ出ている。

「あら・・・変態でもかまわないわよ。あなたはもっと痛みを伴うほうがこのみ?」
うっすら笑みさえうかべて、ゆっくりとミラえと歩みだすフィアー、

そして一瞬で消える。

シュンシュンシュン!!

鞭の音が響き渡る。

「切り刻んであげるわ・・・! “クラッチングストリーム”」
今度はさらに多くの鞭が見える。

空間を埋め尽くさんばかりの鞭の残像・・・

「ミラ! 逃げろ!」

だが、目を閉じ、その中に足を踏み入れていくミラ。

「バカな子、そんなにしにたいの?」
虚空からフィアーの声が響く。

が、次の瞬間、誰も予想だにしなかったことがおこる。

鞭は確実に彼女を捕らえている。

しかし、当たる瞬間に大きく軌道が変わっていく、
まるで鞭がミラをさけるかのように・・・

まるで台風の目のように、彼女にかすりもしない!


 ・・・虚空に隠れるあなたの姿・・・まるみえよ!

カッ、と彼女は目を開く。

彼女を取り巻くオーラが、右手の掌へあつまり、渦を巻く!

“エネミーレイゾン!!”

彼女が右腕を虚空にかざした瞬間、凄まじい気がこもった光弾がとぶ!

 ドガッ!!

「ぎゃっ!!」

それは確実にフィアーをとらえ、大きく吹っ飛ばした!

「う・・・なんなのあなた! 何故そんなことが・・・」
地面に上半身だけおこし、驚き恐れた顔でフィアーがミラへいった。

「・・・簡単なことよ、
全身から溢れるオーラを硬化させてみえない壁を作り、
貴方の気を探って居場所をみつけた。」

「そのインビジブル、亜空間を纏っているんでしょ?
 それでも貴方の気を隠すことなんてできない・・・」
非常に冷静に、それでも冷たい怒りを抑えた目で、フィアーを睨みつける。

「ち・・・、侮っていたわ・・・、
けど、まだ本気じゃないこともわかってるかしら?」
腕の力だけで大きくミラの上空まで飛び上がったフィアー。

そのまま天井を強くけり、ミラの頭上へ落ちていく。

いや、みずからつっこんでいく!

「これでもくらいなさい! “クラッチング・レイン”!!」
重力の加速を利用し、
先端に鉄をしこんだ鞭を振るてがみえないほど光速でなびかせる。

まさにそれは地を打つ豪雨のような勢いで広範囲を破壊しつくすだろう。
たとえ、ミラのオーラであろうと突き破るのは容易いだろう。

「・・・私の新しい力、みせてあげるわよ・・・、
力を貸して! “ミッドガルズ”」
それは、彼女のイメージにより生まれた二つのグローブ。

大地のそこのような深き濃茶色、
そして三つの鋭く、漆黒のオーラを纏った爪がついている。

その能力は大地と重力を操ること・・・。

彼女は地面に片手をおもいっきりつきたてた。

“大地の怒り”!!

それの周り床、いや、さらにその深くの大地がいっきに隆起する!

そしてその凄惨なる雨のまえに立ち塞がった。

 ドゴゴゴゴゴ!!

鞭の豪雨はその土の壁にあたっていくが、
大地を突き破ることなどできるはずもない。

「くっ・・・、」
一度地面に着地して、またすぐに飛び上がるフィアー。

しかし、激しい違和感を感じる。

 ・・・おかしい、体が重い・・・。

おもうように跳躍できない。

これは・・・?

いや、それどころか落ちることもない、ういている…?

「はぁあああ!!」
真下の土の障壁を突き破り、ミラが跳躍して、空中で二人は並んだ。

そして・・・

重力を味方につけ、凄まじい「重量」をもつ拳が彼女の腹に命中した。

そのまますごい勢いで地面に叩きつけられるフィアー。

「ぐはぁああ」
彼女の口から、おびただしい量の血が飛び出した。

そのよこに、ミラが軽く着地する。

一歩一歩、ゆっくりとミラはフィアーへむかっていく。