I WISH ・・・33 〜決意〜


町を襲った恐怖が崩壊した日の翌日。

町には鐘が哀悼の響きを持って静かに打ち鳴らされ。
町の中心通りを棺の列が人々に担がれて、王宮横の殉死者墓地へ運ばれていく。

中には棺の中身がないものもおおい。

その光景を、人々は遺憾の念を持ってみおくっていた。

アスク帝国の旗を持った新騎士団長、スルトが先頭になり、その長い列を先導した。

 これだけの、犠牲者が出てしまったか・・・

レヴンもその光景を見ていた。

 闘うからには…犠牲がつき物なのかもしれない・・・

  けど・・・やっぱり許せねぇ・・・ガルフラント。

   もうこれ以上、人々に犠牲を作っちゃいけない。

    ・・・俺が、いくしかない・・・。

その日の夜、レイチェル宅にはいつもの5人、
それにレイチェルの友人、エイリーンがきていた。

「ねぇ、どうしたのレヴン?」
夕食中、レヴンは一口もたべずに、むずかしい表情をして目を瞑っていた。

「ど〜したの? 私とエイリーンが作った御飯が食べられないわけぇ?」
すこし、笑いながら冗談をいうレイチェル。

暗い気持ちなのは、ここにいるみんな一緒だ、
しかし、いつまでも悲しみに身を委ねているわけにはいかない。

まだ、戦争はおわっていない・・・

しかし、レヴンの悩みはそれとは少し違うようだ。

「みんな・・・少し聞いてくれ。」
急に目を開き、彼は立ち上がった。

「どうしたの?」
他の4人は不思議そうな顔で彼を見ている。

「俺が、ミルレスまで行って決着をつけてくる。
もう終わりにしなければならない・・・!」

「!?」

「無茶だよ・・・レヴン。」

「本気なの? あなた一人じゃ無理よ!」
騒然となる食卓。

「・・・それでも、もう人々に犠牲をだしちゃいけない・・・
俺はみんなを守りたい、奴を直接叩くしか方法がないんだ。いかせてくれ!」
強い口調で、彼は言い切った。

シンと静まりかえってしまった・・・

誰が見ても、無謀すぎる事だとおもえたからだろうか。

そんな中で、最初に口を開いたのはミレィだった。

「わかった・・・レヴンがそこまでいうなら・・・、けど、それなら私も行くから!」
真っ直ぐな瞳がレヴンをみていた。

「!? ミレィ・・・、君は残って生きるんだ。」

「やだっ!いつまでも側にいるっていったじゃない・・・貴方がいくなら私もいく!」

「そうだぞ!レヴン。一人で背負い込むなよ、僕達だって仲間じゃないか!」

「そうですよ〜、まだ日は浅いけど・・・
もう一人も失えない大事な仲間なんですから。」

「だからこそ言ってるんだ。もう仲間を死なせたくないから・・・」

「あら?私の育てた弟子はそこまで弱くないわよ?それに私が貴方達を死なせない」

「まぁ、身内だけで盛り上がっちゃって、私も行くわよ〜、私も「仲間」よね?」

・・・みんな、死ぬかもしれないとわかっていてもついてきてくれるのか・・・

 それが、仲間なのかもな・・・。

彼の顔に、少し笑顔が浮かんだ。

「みんな・・・ありがとう。一緒に、生きて帰ろう。」

「もちろんよ!」

彼らは決意した。

戦争、いや、“王”の大量殺戮と破壊を終わらせるため・・・、
彼らだけで無謀なかけにでることを。

願わくば皆生きて帰れることを・・・


「俺達は、ガルフラントの根城、ミルレスへ乗り込む。
 中で待ち受けるものはガルフラント、
 それにおそらく過去の犯罪者、時の狭間に封印されていたものどもだろう。
 やつらとの戦いは熾烈をきわめるものになるだろう・・・、
 だから、それに対抗できる力をこちらももたないといけない。」

「・・・どうするわけ? レヴン」

「・・・ミレィ、俺の前に座ってくれ。」

「え・・・、う、うん。」
急にそんなことを言われて、驚きながらもレヴンの前の椅子に座る。

彼の手がミレィに優しくふれる。

「ぇっ、何何??」

「いいか、 自分の新たな力をイメージするんだ。
 俺がそのイメージを“創造の力”で武具として具現化させる。
 自分のイメージで作られた武器ほど、
 自分に合う武器はないからね。みんなも考えて。」

「ん〜、いきなり言われてもむずかしいわよ・・・」
必死に何かを考えているミレィ。

 私に足りないもの・・・、いっぱいあるけど、
 なによりも私を守るためになかまに傷ついてほしくない・・・。
 私にも“闘える力”を・・・!

 カッ!!

激しい光とともに、ミレィの手元の空間に激しい光の塊が発生する。
その光は徐々に形を変え、そして一つの槌の形となる。

銀色の柄に、綺麗にメンタルロニア文字で装飾され、
矛先には眩しい光を放つ稲妻を纏う。

“ミョルニル”稲妻を纏いし、神々の武器。

それはミレィの手元に収まると同時に、取りまいていた光がおさまっていった。

「わぁ・・・すごい・・・」
手に持つそれをマジマジとみつめている。

 この槌、すごい魔力を感じる・・・

「よし、上出来だよミレィ。 次、スルトも・・・」

「いや、僕はいいよ、僕にはこいつがある。」

そう言って彼は、真紅の大槍を掲げて見せた。
リヴァルスから引継ぎし、“サラマンドラ”を。

「よし、じゃあ次、ミラ。 もう準備はいいか?」

「うん・・・お願いします。」

こうして彼は“創造の力”をつかい、各々がイメージした武器を作り続けた。

ただでさえ、現代人と比べ、魔力がおおく、
特殊な力をもつ過去の犯罪者にうちかつためには、
それと同等の力を引き出せる武器がいるからだ。

このことが、後の世界を変える事になるのだが・・・

「ふ〜、さすがに疲れたな。」

4人分もの武器を一気に“創造”してヘトヘトなレヴン。

「ご苦労様、レヴンちゃんいいこいいこ♪」
ふざけて頭をなでてくるミレィ。

「それより・・・どうやってミルレスの中へはいるんだ? レヴン。」

そう、スルトの指摘どうり、ミルレスの城の周りには強力な魔法障壁が存在する。

近づくのも容易なことではない。

「う〜ん、魔法でぶち壊すしかないだろ?」

「そんなことで余分な魔力つかっちゃだめよ、私にいいかんがえがあるの♪」
エイリーンが笑いながらいう。

「え〜、どんな??」
一斉に同じセリフを投げかけ、お互いの顔を見て苦笑する4人。

「それはねぇ・・・」




ミルレス城、王の間。
そこに一人の男が王の座に座っていた。

「・・・ガルフラント様、ゴーレムが破られました。」

 フッ、急に背後に人影が現れた。

黒いローブをすっぽりとかぶったそれは、戦いを告げる使者と同じ服装。


「…ククク、あれをも破るか・・・もういいだろう、一気に攻め落とすぞ。
 全員、出撃準備を進めよ。 
 “あいつ”に魔道兵器を使えるようにしておけといっておけ、
 地上と空より同時に攻める・・・」

「はっ」
その男は消え入るように、空間に溶け出して行った。


 クククク・・・、これで最後にしてやる、現代人ども、お前達は皆殺しだ・・・
  そしてガキの創造の力、そろそろ喰らい時かもしれぬ・・・
   せいぜい楽しませてくれよ・・・クハハハハ!

“王”の高笑いだけが、その広い王の間に響いている。