I WISH ・・・32 〜崩壊〜 「うらぁぁぁぁ!!」 彼は手にする大槍、サラマンドラをおもいっきり繰り出した。 その切っ先は確実に岩の心臓、ゴーレムの“核”をとらえている。 ガキン!! が、心臓の付近より、急に岩の障壁がたちあがり、その槍をはじいた。 その障壁は徐々に厚さを増しているように見える。 反動で少し後ろへ飛ばされ、ひざをつくリヴァルス。 「団長!!」 「あ〜うるさい、心配しなくても大丈夫だ!」 しかし・・・俺の突きを防ぎきるとは・・・固い・・・ 「本気でやる、ピアシングスパイン!!」 ズガガガガガ!! 岩が削れて砂塵が飛び散る! 彼のピアシングスパイン、それは王宮で一番破壊力を持つ奥義。 それをもって、その岩の壁に挑む。 「グ・・・」 手に強烈な痺れが残る。 彼の槍は上面を削るだけで、打ち壊すなど到底・・・ 「ばかな・・・あの団長の技でさえつうじないなんて・・・」 その光景を呆れてみていたスルト。 「団長、僕も同時にうちます。」 そういって駆け寄ろうとした瞬間だった。 ガガガガガガガ!! 激しい揺れが二人を襲った。 その場から動くことすらままならない。 「団長・・・これは・・?」 「言わなくてもわかってるだろ、魔砲がいくぞ・・・!」 今、ゴーレムの口には周囲より強烈な魔力が吸収、収束されていく! その光景を、ルアスの人々はただ絶望に満ちてみていた・・・・ 「レヴン・・・」 「ち・・・みんな、撤退準備だ、王宮にいる市民のもとへ魔術師をはいびしろ。 いざとなったらウィザードゲートでにげるぞ!」 だが、王宮まですててしまったら、もうこの戦いの先はみえている・・・。 現在の人々は、もはや帰る所すらなく、 恐怖と魔物にみちたマイソシア大陸に隠れ続けなくてはならなくなる。 「・・・私はスルトさんのこと信じてる、きっと町を守ってくれるよ・・・。」 レヴンたちの傍らでミラが呟いた。 「ミラ・・・」 「・・・今は信じよう。 騎士団のみんなを・・・」 人類のタイムリミットは刻々と近づいている。 まだ轟音とともに体内は激しく揺れている。 「ち・・・時間がないぞ・・・」 「同時に行きましょう! それしかありません。」 二人は不安定な足元をけって、岩壁のまえに飛び出した。 「ピアシング・・・グハッ」 スルトが大きく吹っ飛んだ。 彼の鎧が大きく陥没している。 岩壁から先ほどまでとは比べ物にならない硬度をほこる透明な槍がでてきた・・・。 「ぐっ・・・」 彼はひざをつき、苦しそうな表情をして起き上がろうとするが、力が入らない。 「スルト! 無事か?」 リヴァルスが振り返った瞬間だった。 グザッ!! 「ぐは・・・」 「団長ぉぉぉぉぉぉぉ!!」 ・・・リヴァルスの腹を、金剛石でできた槍が貫いていた。 腹部よりおびただしい量の血が吹き出ている。 「団長!! 団長!」 スルトは無理に起き上がって、彼のそばへ行こうとする。 だが、リヴァルスの周りには、数多の金剛石の槍が突き出している。 その透明な煌きが、スルトには死神の鎌にみえる・・・。 「ぐ・・・くるな、スルト。 俺は大丈夫だ・・・」 非常に苦しそうな表情。 大丈夫なはずがない、生きていることすら奇跡に近い・・・。 俺の力、すべて喰らわせてやる。 岩の心臓を貫け! サラマンドラ! 彼のもつ槍に、巨大な炎の渦が発生する。 まるで地獄の業火の片鱗のような・・・凄まじい熱量を放つ紅い炎が・・・ 彼は目を閉じた。 岩の鼓動が、隠されている岩の心臓の位置を確実に彼に伝えている。 これが・・・俺の最後の技だ・・・うけとれ! かっ、と彼は目を開いた。 そして腹部をダイアの槍に貫通されたまま、 槍を持つ手をおもいっきり前へ突き出した。 “ピアシング・ストライク!!” ボォォォォォォォ!! 彼の槍より突き出た炎の塊は、宙を舞いながら確実に目標へ向かう。 まるで、それは火龍のようにくねりながら、岩壁につっこんでいく! ジュウウウ・・・ ついに、岩の壁を彼の最後の一撃が貫いた! バリィィィィィン!! 何かが砕け散る音が響いた。 一瞬、シンと静まったかと思うと、 岩の壁、いや、体内の全てがすなとなって崩れてくる。 「報告!ゴーレムの動きが止まりました! 魔力も拡散され、くずれていきます!」 見張りの狂喜の声が響いた。 「やった!! くずれていくよ、レヴン! ミラ!」 「よかった・・・ほんとにやってくれたのね・・・」 うれし泣きをして抱き合っているミラとミレィ。 「よくやった・・・リヴァルス、スルト・・・!」 今、市民は狂喜してくずれゆく巨兵の姿を見ていた。 町には騎士団をたたえる声が鳴り響いている。 「団長!!」 スルトは彼の隣まできて、彼を助けようとしていた。 しかし、彼に刺さっているものは抜けない・・・ ズズズズ・・・ 時期にここも崩れる・・・ 二人の足元が流砂に巻き込まれていく。 「・・・スルト・・・あとはお前に任せる。 お前なら騎士団をうまくまとめられるだろう・・・」 切れ切れに、リヴァルスがスルトに語りかける。 「団長、あなたもいきてください! あなたしか無理です。最強の騎士じゃないですか・・・!」 目に涙を溜めながら、リヴァルスを支えるスルト。 「ふ・・・俺は自分の力に傲慢になっていたようだ・・・ そのせいで何人も部下をうしなった・・・これも報いだろう。 それでも、最後に町を守った・・・これで俺の騎士の誇りをもって逝ける・・・」 声が弱弱しくなっていく。 「スルト・・・この槍はおまえにやる・・・ かならずや、騎士団をまた、力強く、町のためになるようにしろよ・・・ まだ、戦いは続くだろう・・・お前は生き抜けよ・・・ さらばだ・・・・・・・・・・・・・・・・・」 リヴァルスはそっと目を閉じた。 二度とさめることなき眠りへと・・・ 「団長〜!!」 彼の悲痛な叫びは、崩れ落ちる土と岩の轟音にかきけされていった。 ドドドドドドド!! 後から後から土砂は降り注ぐ。 ルアスの南には、轟音と粉塵をまきちらしながら・・・新たな山ができていた。 その山の頂上。 炎の結界に守られて、一人の騎士がはいでてきた。 「団長・・・俺はあなたの遺志を継ぎます。 かならずや・・・騎士団をあなたの理想まで僕が導きます・・・。」 まだ砂塵が舞う中、涙をながしながら、男はしばらく立ち尽くしていた。 ルアスの町を崩壊から救った偉大なる騎士、リヴァルス。 数々の偉大なる功績と、人々の遺憾の涙とともに、ここに眠る・・・。
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