WILD CRUSHERS 〜盗賊の極意W〜 その頃、ジャックもまた苦戦を強いられていた。 インビジブルをかけても、モンスターが密集している場所を通れば気づかれてしまう。 密集地帯を避けながら効率よくかつ素早く爆弾を仕掛けていく。 こういったことに関してはジャックの得意範囲であったが、 どんなに頑張ってもこう、うじゃうじゃと沸いていては、必ず何回かは見つかってしまう。 もちろん見つかっても無駄な交戦は避け、隙を見てまたインビジブルをかけ直すだけのことだったが。 余り時間をかけすぎると身動きが取れなくなってしまう恐れもあり、とにかく急ぐしかなかった。 そんなことを考えながら最後の爆弾を仕掛けたとき、再びインビジブルが解けた。 背後から何かの気配。感じるより先に体が動く、前に飛びながら体を反転させる。 またか…。やれやれという気持ちが強い。 次はネクロか猫かと思い、見ると、ドロイカンマジシャンだった。 逃げてインビジをかけ直すしかない。 ソロでドロイカンの相手が出来ると思うほど、彼は自分自身を過大評価してはいない。 逃げる隙を探していたときだった。突然自分の体が熱くなるのを感じた。 慌ててその場から離れる。 まずいッ。 バーニングデスをかけられたことではない。 セルフヒールを連発すればしのげないことはないが、それよりも今彼の付近には膨大な爆弾が……。 シーザーは走りながら爆弾を仕掛けた相手がジャックであると確信しつつある。 彼の爆弾は常に計算の上に置かれていた。 ディグのような洞窟において、 でたらめに大量の爆弾を使用すれば洞窟そのものが崩れ、下敷きになる可能性が高い。 ジャックの爆弾は味方が隠れる安全な地点を正確に作りだし、 なおかつ敵に被害を与えても、ダンジョンそのものにはほとんど被害を与えない。 以前、一度訊ねてみたことがある。 建物の中や狭いところでの爆弾の大量使用は危険ではないかと。 すると、きちんと爆発の規模や位置を予測しておけばそれほど危険ではない。 むしろ屋外で使う方が難しい。 何故なら屋外だと仕掛けているうちにモンスターが移動して逃げてしまう可能性が高いからだ。 狭い通路の続く場所だと、移動するにも限度が出てくるというものだ。 だから屋外ではたいてい爆弾は投げるだろ? それを聞いた時、シーザーは、爆弾は全てこいつに任せようと思った。 現に今も爆発したと思われる場所を走っているが敵は綺麗さっぱりだ。 洞窟も真っ黒だが崩れる様子はない。 その時だった。何かがシーザーにぶつかった。 といってもモンスターのようなものでなく、もっと小さな・・・・・・。 「にょ?」 「なんだこりゃ?」 シーザーが足元を見ると、小さな緑の物体がこちらを見上げている。 にょ?といって見上げるそれは大変かわいらしいのだが・・・・・・ 「おれ・・・・・・今インビジ中だよな」 「にょ」 「いや、うなずかれても・・・・・・何で見えるんだよ・・・・・・」 思わず物体・・・・・・もとい動物を左手でつまみ上げて、右手でつついてみるシーザー。 「にょッ!にょにょにょ〜」 ぎょっとしてじたばたと暴れ出す動物。 よく見ると、足のようなものが底?というか裏というか・・・・・・にたくさんついている。 ぱっと離してやると、それはぺちょっというかわいらしい音と共に地面に落ち、 怒ってぺちぺちとシーザーの足にジャンプアタックを始めた。 痛くも痒くもなかったが、こんな所で遊んでいる場合ではなかった事を思い出し、 再びシーザーは走り出した。 緑の物体がすかさず、シーザーの足にしがみついたことには気づかなかったようだ。 ジャックはディグバンカーの奥でとりあえず助かったことを確認した。 あの時、とっさに飛び込んだ近くのテントの中に隠しゲートがあったのだ。 なかなかどうして、ノカン達も侮れない。 バーニングデスも消し、セルフヒールで全快まで回復し、彼は再び元の大空洞へと戻った。 二人は無事再開すると、全く同じタイミングで、心底残念そうに言った。 「「なんだ生きてたのか」」 断っておくが、別に彼らは相手に死んで欲しいわけではない。 ただ、先に死んだ方の悪口を叩くのは生き残った者の特権である。 そして、死ぬのが怖くて生きていられるはずもない。 結局、遅いか早いかの違いだ。 だが、彼らは、それならば死ぬまでの間、せいぜい不遜に不敵に生きてやろうと思うのだ。 その日がいつ来るのかは誰にもわかるはずもなかったが、 せめてそれまでは、陽気さだけは失いたくなかった。 「ところでシーザー、その足についている物体は何だ?」 「ん? て、お前何でついてきてんだ!?」 ここにいたってようやく足下に先程の動物がついていることに気づく間抜けな疾風一陣。 むしろ彼にしてみれば、 あのスピードで走ってきて振り落とされていなかったことの方が不思議であったかもしれない。 「にょ、にょにょ〜にょにょにょにょん」 何かを言い始める動物。 「おいシーザー、なんて言ってるんだ?」 「なんでおれに訊く?!」 「お前の友達じゃないのか?」 「ざけんな!こんなアホ面の・・・・・・」 どこが・・・・・・と続けたかったのだが、 「そっくりじゃないか」 と、先に言われてしまっては言い返す言葉もない。 「・・・・・・」 しゃがんで、半眼になって無言で動物を見つめるシーザー。 「とにかく、また沸かないうちに引きあげるか」 ジャックのその言葉がなければいつまでもそうしていたかもしれない。 彼らは、ゲートで引き上げた後、各地でモンスター襲撃が起こっていたことを知った。 今は騎士団や高レベルの討伐隊により、事態は収拾されているとのことだった。 ディグバンカーのモンスターは、何故か他に比べてモンスターの数がかなり少なかったらしいが、 その理由を知るものは少ない。そして・・・・・・ 「うわぁ〜。かわいいですね〜。お師匠様、これうちで飼うんですよね」 結局シーザーの荷物に潜り込んで家まできてしまった動物に一番喜んだのは、やはりハーレーだった。 「うちはペットを飼う余裕はない。捨ててきなさい」 つっけんどんに返すシーザー。 「そ・・・ぞん゛な゛ぁぁ〜〜。ジャックさん〜」 こんな時、ハーレーはたいていジャックに助けを求めるのだが、 今回はそれも期待できそうにない。 「おれもペットはちょっとな・・・・・・」 「そ、そんなぁ〜・・・・・・そもそも拾ってきたのはお師匠様じゃないですか。 それなのに、それなのにぃ〜」 聞こえないふりをする二人。 その時、ハーレーのものではない声がした。もちろんシーザーでもジャックでもない。 「ますたぁ…おなかすいた」 同時にぐぅぅというかわいらしい音。 しばし無言で動物を見つめる三人。 「お前、しゃべれたのか?!」 「シーザー、あきらかにお前のことだよな『ますたぁ』って」 「お師匠様、お腹空いたって言ってますよ。この子、何食べるんですか?」 三人同時に言って再びしばしの沈黙。しかし、その沈黙はほんの少しだった。 あわてて餌を買いに走るハーレー。 頭痛のする頭を押さえながら自分の部屋へ帰るジャック。 罪もない動物に怒鳴りまくるシーザー。 「いつおれがお前のますたぁになった?!」 「にょにょにょ?」 「こら!さっきはちゃんと喋ったくせに・・・・・・」 「にょにょ〜」 「泣くな!!」 ルアスの民家に怒鳴り声が響く。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 続く(雨天延期有り)
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