WILD CRUSHERS 〜盗賊の極意U〜 少年はハーレーという名で、ルアス出身の聖職者志望。 聖職者になるためにミルレスへ留学してついに聖職者としての道を歩み出したのだが・・・・・・ 狩りをしてレベルを稼ぐという段階になって、彼はあることに気がついた。 すなわち、自分は冒険者には不向きであるとッ! 「「帰れ」」 ハーレーがそこまで語るや否や、一蹴する二人。 「あ・・・・・・あの、続きがあるんです!」 とどのつまり、ハーレーは狩りをするのが苦手、というより出来ない性格だった。 弱いモンスターを叩くとモンスターが可哀想になってくるのだという。 攻撃してくるモンスターに対してでさえ、 何か自分が気に触ることでもしたのではないかと思って、謝りつつ逃げ出してしまうほどだ。 まして、逃げ回るだけで攻撃などしてこないピンキオなどは、彼にとって可哀想で仕方がないらしく、 なんと他の冒険者達からピンキオを守るために他の冒険者にぼこぼこにされる様である。 そんなことばかりを繰り返し、街の住民からはモンスターの仲間とまで呼ばれ、 ついにミルレスにいられなくなり、故郷のルアスに帰ってきたのだった。 「で、それでどうしてシーザーの弟子なんだ?」 一番訊きたかったことを訊いてみるジャック。 「それは・・・・・・ルアスに戻って本格的な戦闘の修行からやり直そうと思ったんですけど、 一人だとまた同じ事になりそうで。 それで何でも屋で買い物をしたときに、お店の人に誰か良い師匠はいないか訊いてみたんです」 「「ルエンか」」 ふぅっとため息をつくシーザーと、顔の半分を片手で覆うジャック。 彼女とは盗賊を始めたときから色々あったが、今それを語るスペースはない。 とかくルエンが二人の悪評をハーレーに吹き込んだことは間違いないようだ。 「そうです。そのルエンさんって人が、ここに住んでるシーザーって人がいいよって」 「どうせ極悪非道の極意を伝授してもらえるとか言われたんだろ?」 「そ、それは・・・・・・」 ハーレーはさすがに「はいそうです」とは言わなかった。というより、言えなかったが。 うつむいた顔を見れば、「そうです」と書いてあるような物だ。 「でも!・・・・・・でも僕、強くなりたいんです! 今は不向きかもしれないけどいつか絶対立派な聖職者になりたいんですッ!お願いします!」 お願いされても困る。 そもそも二人は、特にシーザーはこの手の善人が苦手なタイプだった。 倒したモンスターが可哀想だなどと言われても、 肩をすくめて鼻で笑ってきたシーザーにとって、ハーレーの悩みは愚の骨頂でしかない。 しかし、この時シーザーは、何故かハーレーの悩みを笑い飛ばすことをはばかられていた。 「要するにだ。弟子にするしないは置いて置くとして、自力で狩りが出来るようになりゃいいんだな?」 と、シーザーはカラになったティーカップをテーブルに戻して、彼にしては珍しい表情で言った。 みるみるうちにハーレーの表情が明るくなる。 「本気か?」 あきれた表情で訊いたのはジャック。 「どうせ他にすることもないしな」 その答えに、ジャックは黙って耳の裏をかいた。 翌日、彼らはルアスの街の入り口にいた。 とりあえず、ウッドスタッフしか持っていなかったハーレーに木刀とタルガを手渡し、 ピンキオにクエストを貰ってくるように伝える。 「お前、いつからこんなお人好しになったんだ?」 「知るか」 ルアス警備隊の隣でハーレーを待つ二人。 結局、あきれながらもジャックは、 シーザーがハーレーに余計なことを吹き込まないようにとついてきてくれたのだった。 「そういえば、昨夜あれからハーレーに訊いたんだが、あいつレベル1なんだってな」 「らしいな。なんせまだ一匹も狩ってないらしい」 大丈夫か・・・・・・? 二人は口には出さないものの、これから先の苦労を感じ取っていた。 そして、シーザー師匠による厳しい戦闘指導が始まった。 出来る限り後ろから攻撃すること。無駄な動きをしないこと。一般的な体術などなど。 この辺りに関することはシーザーの得意範囲だったが、問題の根本が解決していなかった。 「で・・・でも、後ろから叩くなんて卑怯じゃないですか!それに・・・叩くと、か・・・可哀想だし」 「とにかく攻撃するときは躊躇わないこと。何かをするためには犠牲はつきものだ。 その為に効率のいい方法を選ぶことを、おれは卑怯だとは思わない。そもそもあいつらは悪者だ」 と、モスを指さして言うシーザー。 極悪人のシーザーに悪者と言われてしまってはモスもおしまいである。 「悪者だから他の動物と区別してモンスターと呼ぶんだ。わかるか?」 「モスって何か悪いことをしたんですか?」 素朴な疑問をぶつけるハーレー。 「あいつらは害虫だ。害虫は害虫だから悪いんだ」 もはや説明になっていない。 「家に飛んでいる蚊と同じだと思えってことさ」 見かねて援護射撃するジャック。 「そうですよね! 蚊と同じ・・・・・・蚊と同じ・・・・・・」 何度も口の中で繰り返し呟きながら、ハーレーは思い切って一匹叩いてみることにした。 「えいッ!」 と叫んで一発。 木刀はのろのろとハーレーの隣を飛んでいたモスにあたった。 モスはきゅう・・・・・・と言って一度は地面に落ちるが起き上がり、その後、当然の権利として怒った。 「ああ!ごめんなさいぃぃぃ」 あわてて謝るハーレー。しかしもう遅い。 叩かれたモスは、ハーレーの腕や足をちくちくと刺し始めた。 そこで始めて、ハーレーは二人がいないことに気づく。 「嗚呼!!ししょ〜〜〜」 叫びながらあたりを探すが、二人は見つからない。 「誰が師匠だ、誰が」 と、ぼやくシーザー。 「しぃ!聞こえるだろ」 二人はいなくなったのではなくインビジブルで隠れただけだった。 実はというと、始めからこの機会をうかがっていたのである。 つまり、攻撃され続けば反撃するのではないかと。 万が一の事があっても低レベルの者には神のご加護とやらが働いて、危険になれば街に転送してくれる。 「わぁぁぁぁぁ」 叫びながら木刀を振り回すハーレー。 ぽこ。 かわいらしい音を立てて木刀はヒットした。 弾みがついたのか、それともやけになったのか、 ハーレーはその後も二人の見ている前でぺちぺちと、 蚊と同じ・・・・・・蚊と同じ・・・・・・と、不気味に呟きながらモスを叩き続けた。 刺されたのが相当こたえたらしい。 「「・・・・・・」」 無言で立ちつくす二人の前から、次々とモスが消えていった。 いつの間にかインビジブルの効果が切れていたらしい。 ハーレーはいつまでも立ちつくす二人を発見し、嬉しそうにモスが叩けるようになったことを報告した。 「ま、あれだな。しゃっくり療法ってやつ。 泳げない泳げないって言ってるヤツを、河の中に落とすと結構泳いだりするだろ?」 我に返ったのか返ってないのか、訳の判らない言葉を口走るシーザー。 「・・・・・・ショック療法?」 「そう、それだ」 そこまで語ったときだった。 ハーレーが凄い勢いでこちらに向かって走ってくる。 よく見ると、彼の背後にはおはぎの怪獣のようなモンスターが迫っている。 「「ジャイアントキキ!」」 叫ぶと同時に二人は動いていた。 ジャックがハーレーの腕をつかんで後ろに下げ、シーザーが二人の前にダガーを構えて回り込む。 突っ込んでくるジャイアントキキを間髪でかわし、後ろに回り込み攻撃に転じようとするが、 ジャイアントキキは、その巨体とは思えない素早さで振り返り、シーザー目掛け回転アタックを仕掛ける。 シーザーはいったん後ろに飛び、その隙に後ろからジャックが攻撃にかかる。 前後から二人が挟撃し、さすがのジャイアントキキも不利を悟ったか、倒される寸前で攻撃目標を変更した。 人はこれを「タゲが移る」と言う。 二人は慌ててジャイアントキキを追う。 ジャイアントキキは凄い勢いでハーレーに向かっていく。 そして・・・――― 「えーいッ!」 ぼこ 威勢のいい大声と共に振り下ろしたハーレーの一撃に召されたのだった。 もっとも目を回して気絶しているジャイアントキキを「えいえい」といいながら ぼこぼこと叩き続けるのは何とも言えなかったが・・・・・・。 とにもかくにも、この一件はハーレーに自信を与えたようだ。 レベルも2に上がり、結局押しかけ弟子として居座ってしまったハーレーは、 今日も不気味に呟きながらモスを叩き続けている。 そして、この一件はシーザーとジャックにも窒息してしまいそうな生活から一つの出口を与えた。 彼らは開き直って、次は何処に狩りに行くかを思案している。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 続く(と思う)
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