My Way 寒い


「とりあえずは・・・・・・大丈夫だと思うよ」

ベッドで眠るレイレン

呼吸は落ち着き、安定している


「そっか・・・・・・」

ユエの瞳に陰り

心配・・・・・・だなぁ


「ボクは、レイレンの面倒を見るよ」

そう、一言

あたしたちが止める余地なんか無いような、決意を感じる


「淕とみゆちゃんは行きなよ」

ユエが、微笑む

「きっと、レイレンの回復には時間がかかる・・・・・・からさ

 ワンも心配だし・・・・・・ね」

「ユエも、行けばいい」


目を醒ましたレイレンが呟く

いつもと違う、下細い声

「ボクは残るよ、置いていけるわけ無いじゃない」

かすかに、首を横に振る

何かを、考えているようだった


「・・・・・・行くぞ」

「え?」

淕に手を引かれる




「痛いよ!」

つかまれていた手首は赤くなっている

「ユエとレイレンを置いてけって言うの!?」

「ああ、そうだよ」

人を見下したような、口振り

「よく仲間をほって置けるね」

つい、苛立ちが募り口調が荒くなる


次の瞬間、あたしは淕の口から出た言葉を信じられなかった

「あんな奴らに構ってる暇はねぇ、行くぞ」

あたしの手を引き、進もうとする

「最低!」

淕の腕を振り払う


パチィン


軽快な、音


淕が叩かれた頬を押さえ、立ちすくむ


「何考えてるの!?こんな人だとは思わなかった!」

泣きたくないのに、涙が出てくる

溢れてくる


「・・・・・・分かった」


淕は、そのままどこかへ消えた


今度ばかりは、あたしも追いかけることは出来なかった


いつもだったら、追いかけて謝ってる

いつもだったら、淕も何かしてくる


いつも、とは違う



スオミの町は、鮮やかな緋色に染まっていく


あぁ、もう夕方


淕をひっぱたいてからもう1時間以上経つ

あたしは、スオミの町の隅で独り考え事をしていた



「何、してるんですか?」

優しい、声

淕じゃない、ワンでも、ユエでも、レイレンでもない、知らない人

「・・・・・・考え事を、少し」

相手の方を見ずに言う

きっと目は腫れてるだろう


「隣、良いかな?」

そう言って、隣に座る

「別に悪いって言っても座るんでしょう?」

まだ苛立ちが残ってるせいか、口調が悪かった

「ははは」

明るい、笑い声


「目、赤くなってますよ」

「知ってます」

極力相手の方を見ないように言う

「泣くようなことが?」

優しい、言葉


「・・・・・・大事な人を引っ叩いちゃった」

あたしは少し笑いながら言う

何が可笑しいわけでもない


ただ、笑えてきた


自分の馬鹿さ加減について



「追いかけなかったの?」

「・・・・・・なんで出来なかったんだろう」

そう言葉に出すと、涙が溢れてくる


ハンカチを差し出される

「・・・・・・ぁっありがとう・・・・・・」

嗚咽に混じった感謝の言葉


「もし良かったら、おれに話してくれる?」


あたしは、その人に何で話そうと思ったんだろうか

レイレンが倒れたこと

知り合いを追いかけたいこと

淕が心配なこと

全て


「・・・・・・なぁ、そのレイレンさんが回復するまでおれたちと一緒に旅しない?」

「え?」

あたしはビックリして、その人を見る

初めて真正面から見た


夕日と同じ、オレンジ色の髪の毛

戦士服だろうか、腰に剣を刺している


「おれのところさ、人数少なくて寂しがる奴が居てさー、もし良ければ・・・・・・」

「・・・・・・けど」

戦士さんは立ち上がる

「別に今すぐじゃなくていいよ、答えは

 おれたち当分スオミに居る予定だし、その間は宿屋に居るからさ

 あ、まだ名乗ってなかったな

 おれはチェグラム」


そういって、手を出される

「あ、あたしは魅悠・・・・・・」

出された手を、握る

イキナリ引っ張られ、その勢いで立ち上がる

「うあ!」

「ははは」

チェグラムの手であたしは立たされ、彼に笑わせられる

そして、彼のお陰で少しだけ、ほんの少しだけ心が晴れたような気がする


「魅悠も、宿?」

「ううん、あたしは知り合いのお家で寝泊りしてる」

「送るよ」

さも当たり前のようなチェグラムの対応にあたしは動揺する

「別にいいよ、此処から近いし」


ユエやレイレンには、教えたくない

その気持ちが大きかった


淕が居なくなって、あたしまで旅に出たらあの2人はどう思うだろうか

レイレンは自分を責めるだろう


「暗いし、危ないよ」

「大丈夫だよ、じゃ・・・・・・」

あたしは逃げるように、少し小走りでチェグラムの元から離れる


長々とチェグラムがスオミに居るわけが無い

早く、結論を出さなければ


焦り、不安、淕への想い


「みゆちゃん・・・・・・」

気が付けば、家の前だった

呆然と突っ立っているあたしに違和感を覚えたのか、近くへ寄ってきた


「遅かったね、心配したよ。淕は?」

あたしより、少し背が高いユエに抱きしめられる

「淕は・・・・・・」

ユエが不思議そうに聞いてくる


あたしは何も言えない

目が熱くなる


「まぁ、おいで」

あたしの手を握り、家の中へ入る


家は暖かかった


「で、何があったか話してみて?」

あたしにミルクティーを入れて、真正面から目を見てくる


ユエの凄いところは人の目を見て話せるところだ

こんな綺麗な目で見られたら、嘘なんてつけない



ゆっくり、少しずつ、ユエに伝える


淕のことも

チェグラムのことも


「・・・・・・みゆちゃんは淕が好きなの?」

「わかんない

 そんな、好きって言葉なんて軽々しいものじゃないと思う」

好きや、愛してるなんてそんな簡単な問題じゃないもの


「そっか・・・・・・

 淕を探しに行っておいで、そのチェグラムさんたちと」

飄々と言うユエ

「便利なものは利用するべきだよ、淕を探したいんでしょ?」

「探したい・・・・・・」


「なら別に、迷うことなんてないでしょ

 レイレンには上手く伝えとくから、ね」

言いながら立ち上がり、カップを片付け始める


あたしはユエの凄まじい決断力と行動力が羨ましかった




「行ってきます」

2人が起きる前にあたしは家を出る


レイレンにあわせる顔が無かったことと、ユエに大丈夫と言うことを現すため



朝のスオミは寒かった

水が多いからか知らないけど、寒い



寒いのは身体なのだろうか

それとも心なのだろうか


もう、あたしには分からなかった



-----------------------------------------------------------------------

春休みと浮かれ、ひたすらアスしてたのは秘密です(苦笑

超鈍足ながらもがんばってますのでよろしく〜♪