第四話「十二神将」


「大変やリュート!あのイライザがぼこにされてもどってきおった〜!」
突然扉が開いたと思うと、次の瞬間部屋中に響く声で騒ぎ立てる彼女に、

雑務をこなしていた真紅の瞳の部屋の主は、
短くまとまった赤い髪をかきながら、あからさまに嫌そうな顔をした。

「なんなんだいディアナ・・・朝っぱらからうるさいねぇ・・・
あの女のことだ、地上人をなめてたんじゃないのかい?」
それにもかまわずになおもディアナはまくしたてる。

「ちゃうって!一緒にいかせたウェンディゴも全滅したんや!5万もおったんやで!?
うちらの魔物部隊の半分やで!?信じられへんやろ?

それにイライザの話やと地上人にはクイックスペルを使える人間が二人もおるんや!
やばいって!これは緊急会議や!」

「ああ・・・わかったから、早くジェイクさんに報告してきなよ。
とりあえずガレノス爺さんとこにはいくんじゃないよ?
あの爺さん発作で逝っちまうよ、
まぁそれでなくてもすぐにもお迎えが来そうな顔してるけどな」

怖いことを平然というリュートをよそに、すでにディアナは扉に手をかけていた。

「そんじゃ次はシーナんとこいってくるわ!ほななー!」

ほななー・・・ほななー・・・ほななー・・・
ディアナの通路にまで響く声にあきれ返りながらリュートはつぶやいた。

「まずは報告にいけよ・・・」

「そんなわけでみんなには集まってもらったんやけど・・・
とりあえず全員そろとらへんようやけど?
ええ加減あたしの話も佳境やのに、まだ来てへんとは・・・」

ディアナの明らかに苛立ちのこもった声に円卓に座った一人がこたえた。
「あぁ・・・あいつは今地上の制圧にあたってるからな、
わざわざ戻ってくるような奴じゃねぇし・・・
先にすすめちまっていいんじゃないか?」

ここは天上界のいわば首都であるガナッサの、
さらに中枢である軍部作戦会議室<神将の寝床>である。

中央に据えられた円卓には11人の人物が座っている。

天上界ではつい先日まで・・・
ちょうど地上でマイソシア騒乱が勃発する直前まで、
信仰の違いをめぐって二手に分かれた大戦争が起こっていた。

それまで戦争を経験したことのなかった天上界では、
二つの勢力がともにこれを平定するため、


強力な軍勢を貪欲に育成することに全力を注いだのであった。

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強力な軍勢を、貪欲に育成することに全力を注いだのであった。

強力な軍勢を貪欲に、育成することに全力を注いだのであった。


※この部分の点の区切りで内容が変わってしまいます。
 もしよかったら教えてくださいなw
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そのとき作られたのが現在の天上界軍であり、
この円卓を中心にすえた会議室は、天上界の平和のシンボルとされた。

ここにすわっているのは、
そのとき特に戦場で異能をふるった12人の将軍・・・<十二神将>である。

入り口扉の反対側から左回りに


軍部の最高司令官であり事実上天上界の王である<魔導剣>ジェイク

主に天上界の兵士の訓練を担当する<白く輝く牙>ガデス

魔術師隊の統率をまかされる<深き黒>イライザ

作戦参謀兼治療班班長<神機軍師>ディアナ

天上界強襲騎馬隊の統率<神槍竜姫>リュート

天上界の諜報局局長と遊撃特殊部隊隊長を兼任する<黒猫>リーナ

作戦参謀補佐兼魔術師隊副長<白髪道人>ガレノス

戦士部隊隊長<焔の一刀>カタール

教会の司教であり近衛隊隊長<白き清流>ウォルト

修道士部隊隊長<鋼鉄の双腕>カイザー

守護動物の育成を任される<神奏仙>ギルバート

そしてこの場にはいないが処刑執行係の<死を運ぶ黒翼>シェダ


彼らは皆天上界戦争で実力を認められた上で役職についており、
一部を除いて、兵や天上界の住人から絶大な人気があった。

「それじゃ話の続きをはじめるで」

「うへ・・・まだ続くのかよ・・・」

長い口上をしゃべり終わった後で、まだしゃべろうとするディアナに、
ギルバートがうんざりといった表情でつぶやいた。

「そこ!聞きとないんやったら出て行ってもかまへんねんで?

そんかわし、あんた明日から十二神将くびな、わかったら黙って話聞き。
・・・さて、そういうわけで地上の軍勢はうちらの想像以上の戦力らしい。

おそらくあちらさんキズタ山の門をくぐってこっちにこようとするやろう、
ほんまやったらそこで包囲してけちょんけちょんにしてまいたい所やねんけど、
あそこの門は山頂にある。

それを包囲するとなったら、
必然的にうちらの部隊が山の下から見上げる形になるんやわ。

さらに悪いことには、
あの山は前の大戦で斜面がえぐりとられてところどころ崖になっとる。
つまり人為的につくられた盆地みたいになっとるんや。

ん?なら盆地の上に兵を布陣して混戦にしたらどうかって?
あかん、移動魔法ちゅうっのは移動先にある障害物をさけて飛ばすもんや、
移動先に障害物が多かったら伏兵がおるってばれてまう。

しかしまぁそうはいってもイライザの話しでは、

あちらさんには移動魔法を使える術者は100おるかおらんか程度・・・
あちらさんはこっちの魔物と違って、
実際に人間を送り込んでくるわけやから、
一度に飛ばせる人数はどんなにがんばっても1000が限界や。

そこでや!地形をある程度無視して進軍できるリーナとカイザーの部隊、
それとイライザの魔術師隊と、リュートの騎馬隊で敵が沸いた瞬間に殲滅する。

もちろん移動魔法を使える魔術師も殲滅してまうからもぐらたたき式に・・・

とはいかへんけど、あちらさんの反撃の芽は確実に摘み取れる。

そしたらゆっくり戦力を整えて、拠点にした地上の城から兵をおくりこんでしまいや。

ま、ざっとこんなとこかな?なんか意見はある?
ないなら後はジェイクの決断にお任せや」

そこまでいって満足したのかディアナはやっと席についた。

「よし!それじゃあイライザ、カイザー、リーナ、リュートはキズタ山に向かってくれ。
他の神将たちは各々準備を進めておくように。以上、解散!」
簡潔にそうまとめるとジェイクは席を立った。

そのジェイクを心配そうに見上げながらウォルトが声をかける。

「大丈夫なのジェイク?今回の作戦は不確定要素が多すぎるよ・・・
地上の部隊が1000程度とは限らないんじゃないかな?」

「心配性だなウォルトは、大丈夫、数がたとえ1000くらい多くても彼らなら問題ないさ」
そういわれたがなおも心配そうなウォルトを見てジェイクはこう付け足した。

「そうだな・・・じゃあ保険として俺も部隊を率いて山麓で待機しよう」

「それじゃジェイクが危ないよ!」

「ウォルト・・・俺が戦場で手傷を負ったことがあったか?・・・心配するな、問題ないさ」

そういってジェイクは会議室から立ち去った。

後に残されたウォルトには、ただ作戦の成功を祈ることしかできなかった。