第三話「スオミ湖畔戦」 爆発の音に続くスオミの兵士の報告を聞いた女王レティシアの表情に余裕はなかった。 現状で動かせる兵力は、何とか逃げ延びたキース率いる近衛騎士団50人 余りとスオミに駐屯している魔道部隊<ディープブルー>2000人余りだけであった。 この<ディープブルー>は、 マイソシア騒乱の初期に結成された、マイソシア唯一の魔道部隊であり、 その戦力は有効に運用されれば三倍の兵力ともわたりあえるといわれている。 しかし、その戦力も、 盾となる近接部隊がいなければただの的であり、軍隊としての戦力は望めない。 状況は極めて絶望的であった。 そんな状況で、一人だけ余裕のある表情でロジャーが口を開いた。 「ま、心配しなさんな・・・言っただろう?今日明日に来ることはわかってたって」 その言葉に疑いのまなざしでレティシアが聞き返す。 「わかってたって・・・ そうはいってもあなたの海賊団だけじゃどうしようもないでしょう?」 「ん〜・・・俺の海賊団だけじゃあないんだな、これが。 カシェルにはもう<ディープブルー>をつれて街の出口を守らせてる。 うちの団員もそこにいるはずだ。後の奴らもおっつけ来るだろう」 「わかった、とりあえずその増援がくるまでは持ちこたえてみせる。先にいくぜ!」 走り出したロイドに続いて皆も湖畔へと向かう。 「物見の報告だと敵の数はおよそ5万程度だということです」 「5万だって!?くそ・・・数が違いすぎる・・・」 スオミの湖畔に続く出口で、カシェルは兵の報告に絶望の声をもらした。 横目でロジャー海賊団のほうをみるが、 その数は多く見積もっても300程度・・・戦力としては期待できない。 「このまま・・・スオミは落とされるのか・・・」 「大丈夫ですよカシェル、きっとロジャーさんがなんとかしてくれます」 突然後ろからした懐かしい声に驚いて振り返る。 「姉さん!それにロイドさんたちも!」 「久しぶりだなカシェル、元気にやってたか?」 「はい!あれ?ロイドさん・・・コロナは?」 コロナとはロイドが普段から愛用している真紅の刃をもった剣のことである。 「あぁ・・・ルアスが襲撃されたときに自室においてきちまってな、 まぁあれは俺にしか触れられないから、とられるってことはないと思う」 「おいおいお前ら、そんな悠長に話してる場合かよ。敵さんももうすぐ来るぜ」 キースが落ち着きなく言うと同時に、湖畔の向こうにウェンディゴの群れが見えてきた。 「よし!三段構えの詠唱で町への侵入を防ぐぞ!一番隊、撃てー!」 カシェルの合図と同時に、 三列にならんだ魔道士隊の最前列にいた魔術師が、いっせいに炎の玉をはなつ。 三段構えの詠唱とは部隊を三つにわけ、 手前の部隊から順に詠唱の終わった術を発動していき、 魔法を撃った後は最後列に並び、再び詠唱を開始するという戦法で、 魔術師だけの部隊では、もっとも効率のいい戦法だとされている。 「二番隊、撃てー!」 カシェルの二度目の合図の後、しばらくしてウェンディゴの群れの一角が吹き飛ぶ。 しかし心をもたない白銀の甲冑は、 その数をわずかに減らしただけで突撃をやめることはなく、 次第に距離がつまってくる。 「距離を詰められたらおわりだな・・・ 俺一人じゃすべてを防ぎとめることはできないぞ・・・」 その様子を見ていたロイドが周りに聞こえないように呟く。 それを耳ざとく聞いたレミィが緊張のかけらもない笑顔でロイドに言う。 「大丈夫だって♪ロジャーに任せなよ」 すでにウェンディゴの大群は目前に迫り、 もはや惨劇も時間の問題かと思われたその時、東の方角からときの声が響いた。 「わが名はライアン=メサ!われと我らがサラセン砂漠の民、義によって助太刀する!」 ほぼ間髪いれずに今度は西の方角から 「われらがレティシア女王よ!このルアス王国第二師団、もどってまいりましたぞ!」 「あれは・・・レザレノの爺さん生きてたのか! それにあの服は<ジャッジメント」>じゃないか!?」 「そうだよ♪ロジャーが聖職者協会に連絡をとって、 生存者の救出をさせたんだから。感謝してよね」 「こういうことか・・・これで戦局はこちらが優勢だな、 いくぜセレス!一気に切り込むぞ!」 「わわ、待ってよロイド〜」 いって駆け出すロイドにセレスより先にレミィが続き、 さらに情けない声をだしながら、セレスも続く。