第二話「ロジャー立つ」


「おっと・・・お前さん、これ以上はやめといたほうが身のためだぜ?」
「まだ負けてないもん!」

「やれやれ・・・っとロイヤルストレートフラッシュだ」
「う・・・うぅ〜・・・」

ここはとある船内。

今トランプに興じているこの二人は、
金髪にキャプテンハットをかぶり、少女をいじめているのが、
この船の船長であり、ロジャー海賊団の団長ロジャー。

そしてその向かい側に座り、
ワンペアの手札を見て泣きべそをかいている背の低い赤い髪の少女が
その団員レミィである。

「ちなみに俺はこいつをいじめてるわけじゃねぇからな?そこんところ勘違いすんなよ?」
「誰に話してるの?ロジャー」

「そいつぁ・・・企業秘密だ」

ちなみにこの海賊団、
海賊とは言ったものの、略奪は盗賊相手にしか行わず、

普段はトレジャーハンティングのようなことをしており、
手に入れたものを各国に売りさばいている。

いわば義賊であった。

「も、もう一回!」
「やれやれ・・・お前さんもこりないねぇ?」

「ふんだ!ロジャーも一度くらい負けてくれたっていいじゃない!」
「だ〜め、お前さんに負けたら明日一日買い物に付き合わされるじゃねぇか」

「いいじゃん、たまには」
「お前さんの場合たまにじゃないからだめ」

「ロジャーのケチ!」

すでに目じりに涙のたまったレミィがプイと横を向いたのを苦笑しつつ、
見ていた一人の船員が後ろから声をかけてきた。

「団長〜、例の件調べがつきましたよ」
「あぁフレイ、いつもご苦労さん」

「それにしても楽しそうですね〜、団長とレミィは明日もデートですかぁ?」

いたずらっぽくいうフレイに少し疲れた表情で言う。

「やれやれ・・・フレイからもこいつに何とかいってやってくれ」
「レミィ〜明日こそちゃんと頑張ってきなよ!」
「うん!ありがとうフレイ!」

たしなめる所か励ますフレイと、
既に機嫌を直しているレミィに、
ロジャーはさらに疲れた表情をしながら切り出した。

「それで、王都の様子はどうなんだ?」
「はい、王都は突如現れたウェンディゴによって完全に壊滅状態。
市民の8割、兵士の半分が失われました。

一応ロイド=クリムゾンと、近衛騎士団団長のキース=バニング、
女王レティシア=ストライザは脱出したようです。

それと・・・生存者の話では、
背中に黒い翼を生やして鎌をもった男が魔物を率いているように見えた、とのことです。」
そこまで聞いてトランプのジョーカーを眺めながら考えていたロジャーは口を開いた。

「なるほどな・・・おそらくそのウェンディゴは魔法によって召喚された代物だろう。
その黒い翼の男が召喚したか・・・あるいは別の誰かに召喚された・・・
いずれにしろその黒い翼の男ってのはジョーカーだな」

それを聞いたレミィは不思議そうに聞いた。

「でもロジャー、召喚なんて風化しそうな古い本にしか書かれて無いじゃない。
そんなことできる人がほんとにいるの?」
「いるんだなぁ・・・これが」

「ロジャーっていろんな人と知り合いなんだね」
「まぁ知り合いってわけじゃないけどな。
ま、とにかくだ、姫様が無事だったのが不幸中の幸いだな。
おそらく姫様はスオミに向かうだろう。とりあえずそこで合流しよう。フレイ!」

「アイアイサー!進路をスオミにとります」

時は変わってロイド一行はスオミの代表室に通されていた。

「いらっしゃいお姉ちゃん、それにロイドさんも」
「よぉモニカ、久しぶりだな。体の具合はどうだ?」
「おかげさまで大分よくなりました。もうあれから三ヶ月も経ってますから」

代表室とは思えないほどの質素な作りの部屋で、
ロビンと面会している黒い瞳と姉ほどは長くない黒い髪の女性・・・

モニカは先の騒乱のときに、
サラセン、ルケシオン側の息のかかったスオミ議員によって幽閉され、
レティシア側と徹底対立する宣言をさせるために拷問されていた。

そのときの傷がまだ残っていたのだった。

レティシアはモニカの微妙な表情の変化を感じたが、わざとそれを隠して切り出した。

「ところでモニカ、急で申し訳ないけどあなたにスオミ盟約の新しい盟主になってほしいの」

「え?それってどういう・・・」

「言葉どおりよ、ルアス王国は事実上壊滅したわ。
けれどこのまま盟約を崩壊させるわけにはいかないの」

「お姉ちゃんがスオミの代表になるのはだめなの?」

「そんなわけにはいかないわ。
いくら姉妹でも、そんな乗っ取りみたいなことはできないわよ」

「そうですか・・・わかりました、わたしが新しいスオミ盟約の盟主になります」

「ありがとうモニカ・・・」

一通りの会話が終わったのを見て、キースが口を開いた。

「それじゃあ夜も更けてきたし、
そろそろ退散しようぜレティシア、詳しい話は明日すればいいさ」

「そうね・・・じゃあモニカ、おやすみなさい」

「はい、お姉ちゃんもおやすみなさい」

退出を始めた一行を脇に見ながら、
周囲に聞こえないようにロイドはモニカにはなしかけた。

「すまない・・・つらい思いをさせちまうな」

「え・・・何がですか?」

「いや・・・その・・・すまない」
言葉がうまく出てこなくて、うなだれるロイドにモニカは微笑んで言った。

「いえ・・・ありがとうございます、ロイドさん」

こうして一行は各々の部屋に戻り夜は更けていく。はずだったのだが・・・

「よぉ〜久しぶりだな。ちょっくら顔を出してみたら皆さんおそろいで」

「なんかロジャー白々しいよ」

扉のほうから聞こえた突然の昔の戦友の声に驚きながらも、
皆がそれぞれに再会の挨拶を交わす。

「久しぶりだなロジャー・・・こんなところで会えるとは思ってなかったぜ」
「まったく、騒乱が終わったら挨拶もせずに消えたと思ったら・・・」

「ロジャーさん!お久しぶりです!」
「へぇ〜あなたがロジャーさんですかぁ・・・
軍部のほうに顔を出してくださらないから顔を知りませんでした」

「えっと・・・ロジャーって誰だ?」

二人ほど例外がいるようだが・・・。

「うぅ・・・あたしは無視・・・」
そして一人は隅でいじけていた。

「すまんすまん、冗談だ。久しぶりだなレミィ」
「久しぶりね」
「レミィちゃん!久しぶりです!」

「レミィさん・・・は名前も聞いたことありません・・・」
「レミィ?やっぱり誰だかわかんねぇ・・・」

やはり二人は例外のようだ。

「さて・・・ギャグをやりに来たわけじゃあないんだ。とりあえずこいつを見てくれ」

そういってロジャーの取り出したのは、古びた地図のようなもの。
ところどころに赤いしみがある。

「こいつぁ約2000年前の代物だな。
ま、マイソシアの地図ってなぁ一目瞭然だろう。

まだ完全に判読できたわけじゃないが、
どうやら天地がどうこうと書いてあるみたいだ。

それでこの赤い点・・・この横に書いてあるのはおそらく天地の門・・・
つまり天上界とこの地上を結ぶもののことだ。

あそこじゃ前からゲート系の魔法のような魔力が感知されてきたからな。
ありえない話でもないだろう」

この世界における移動魔法はさまざまな制限がなされている。
移動魔法といっても、どこにでも移動できるものではなく。

近距離をただ移動することだけに拘れば純粋な移動も可能だが

長距離を、目的地をしぼって移動しようと思うと、
移動に適した空気の場所に飛ばなければならない。

だがそれらの移動魔法のルートとは別に、
さらに二点間だけを結ぶ<ゲート>と呼ばれる移動ルートがいくつか存在する。

「つまり・・・<ゲート>の中には、
わたしたちの知らない世界とつながってる<ゲート>がある、ってこと?」

「さすが姫様、飲み込みが速いのは助かるね。
そういうわけで、今はその知らない世界って奴からの侵略が始まった、ってことだな。
さらにやばいことに天上界と地上を結ぶ天地の門は一箇所だけじゃない。

ルアスの森、こっちは大して問題ないんだが・・・
やばいのはこっちだ、つまりここスオミにも門が存在する。

そして俺の読みが正しければ今日明日にでも奇襲がくるだろう・・・
奇襲は間髪おかないのが基本だ、同時にこなかったのが不幸中の幸いだな」

ドーン!

ロジャーが言い終えると同時に、
突然北の湖畔のほうで地鳴りをともなった轟音がひびいた。

「やれやれ・・・もう来たか。まったく、そつがねぇなぁ」

ルアスの悪夢の再現に女王レティシアの顔が歪む。

「そんな・・・ここを落とされたら・・・」