第十話「故郷」その2


「で、予定とかはあるのか?」
傍らのセレスに聞く。

祭りにきたらまずは予定を立てて行動する。それは俺のポリシーだ。


「えっとね・・・特にはないんだけど・・・花火は見るよね?」
聞き返される。

「モニカはどうだ?」
考えるのがめんどうなのでモニカに振る。

「あ、私は見たいです」

「だそうだ、花火の時間までは露店めぐりだな。どんな感じの店があるんだ?」

「えっと、りんごあめと射的と・・・あとはアイスクリームとか・・・」

「ふむ・・・何か食べたいものは?」

「私は特にないかな」

「モニカは?」

「えっと・・・りんごあめが食べたいです」

「よし、じゃありんごあめかって射的でもして・・・あとは適当に時間つぶすか」
あらかたの予定が決まったので歩き出す。まずはりんごあめだ。

「さて・・・もうすぐ花火がはじまるわけだが」
ちらりと横を見る。

「?」
りんごあめをなめていたモニカがこちらを見上げる。

「っていうかいつまで舐めてるんだ・・・よくなくならないな」
既に1時間近くりんごあめをなめ続けるモニカ。かなり幸せそうだ。

「えっと・・・二本買っちゃいました」

「いや・・・二本でもこれだけ長い時間持たないだろ」

「じゃあ・・・三本買いました」

「・・・」

じゃあってなんだ、じゃあって。

「もしかしてりんごあめ好きか?」

「えっと・・・射的よりは好きです」

「いや、それ比較対象おかしいから」

「それじゃあ・・・アイスクリームよりも好きです」

「・・・」
どうやらりんごあめは好きだが、そのことを知られたくないようだ。

「まぁなんでもいいけどな」
いっているうちに花火が上がった。

「うわぁ・・・きれいだねぇ」
横でセレスが歓声をあげる。

「きれいですねぇ・・・」
それに頷くモニカ。

(うわぁ・・・これ一発いくら散らしてるんだろ。
ロジャーももう少しまともなことに金つかえよな・・・)

「あ、ロイドまた夢のないこと考えてる」

「珍しく鋭いなセレス。俺はあの花火一発で、
どれだけのりんごあめが買えるのかと、物思いにふけっていたところだ」

「え、いくつぐらいかえるんですか?」
すかさずモニカがのってくる。

「そうだな・・・まぁ一週間は持つんじゃないか?」

「ほ、ほんとですか」
ごくりとつばを飲む。

「あぁ、その気になればりんごあめで家が作れるかもしれない」

「それはいやです」

「どうして?」

「べたつきます」
ここにもう一人夢のない奴がいた。

苦笑いしながら空を見上げる。

そこではまた新しい花火が生まれては散っていた。

ふと、朝みた夢を思い出す。

(あの夢はなんだったんだろうか・・・)

俺はあれを見て故郷だと感じた。暖かくて懐かしい、そんな故郷。

だけど今俺はここにいる。それが現実だ。

ここが故郷だというのなら、そう悪くもないと思う。

そんなことを考えながら祭りは過ぎていった。