その2
城壁の中へ入ると、さすがルアスといった感じだ。
さっきまでの森の中とは打って変わり、多くの人でにぎわっている。
ピンキオの前で狩りの相談をしているPTを横目に、何となく広場のほうへと歩いていった。
「陸」
広場までもう少しという所で、名前を呼ばれて振り返る。
「あ――師匠」
そこには、キングアーマーに身を包んだ、僕の”師匠”と呼ぶ人が立っていた。
※1
「これから狩り行くんだけど、お前もどうだ?」
そう言った師匠の後ろには、見た感じ高レベルの・・・・・・
・・・・・・高レベルの聖職者?
「あれ、君は――」「さっきの――」
二人の声に、師匠が不思議そうな顔をする。
「何?お前ら知り合い?」
「ううん、森で会っただけ。彼、ぼーっとしてて危なかったんだから。
でもまさか、ハギリ君のお弟子さんだとは思わなかったけどね。」
そう言って、軽く笑う。
「ハギリ」というのは、僕の師匠の名前。
すると、師匠が深いため息をついた。
「あのなぁ・・・・・・陸。お前、そのヒーロレザー渡してからどれくらいたつ?」
※2
「はぁ・・・・・・。えーっと、二ヶ月ちょいですね。」
「そんなになって、まだ狩場で気を抜いてるのか?」
師匠が呆れたようにこっちを見る。
すると、隣の女性が苦笑してこちらを見る。
「私はシリス、よろしくね。」
そう言いながら、彼女は顔にかかる銀色の髪を耳にかけなおす。
僕は、軽く頭を下げた。
「で、陸。狩りどうする?」
狩り――
その言葉を聞いた瞬間、突然昔の記憶が目の前に浮かぶ。
そこには、まだ今よりずいぶん弱い自分と―――
嬉しそうに新しいスタッフを握る、一人の女の子。
「――すいません。遠慮しておきます・・・・・・」
僕は、少しうつむいて、つぶやくように言った。
「・・・・・・そうか。」
そう言うと、師匠はシリスさんに先に行くように言った。
不思議そうにこちらを見ながら歩いていく彼女を横目に、師匠が言った。
「別に、あの事を忘れろとは言わない。」
「・・・・・・」
「だが、それに縛られすぎるな。
今のお前にはつらいと思うが、いい加減前を見ろ。
・・・・・・何かを守るために、その剣を握るならな。」
「・・・・・・はい。」
それだけ言うと、師匠はシリスさんの後を追っていった。
師匠の背中が人ごみで見えなくなっても、僕はうつむいたまま立ち尽くしていた。
※1 キングアーマー:Lv71の戦士の鎧。
※2 ヒーロレザー:Lv21の戦士の鎧。