第6話


コンコン

突然何の前触れもなくノックの音がした。

「……誰か、何かした?」

少しばかり緊張した、ヘルさんの声。

ルナも加わっての、ギルドの集会の最中。

「いや……、これは別口みたいだぜ」

蒼さんの小声。

「ノック前に気がついた?」
「いや。だから、別口だ」

そう。この最強のギルドのメンバーは、

ノックされる前に誰かが来たことを知ることなど、簡単にやってのける人間ばかりだ。

コンコン

全く、同じペースのノック音。

「来るぞッ! あk……違うヘル! ヤバくなったら後ろは頼んだ!」

「師匠!」 「さんきゅ!」

蒼さんの叫び声。ぼくは、ヘルさんに向かって剣を投げる。

そして

轟音とともに、アジトの屋根が吹き飛んだ。

「させるかッ!」

中に侵入する、一人の騎士。蒼さんの一撃で、壁まで吹っ飛ばされる。

「入るなら、きちんとドアから入るんだわね」

重力に従って降りてきた、別の騎士のみぞおちにピンポイントで拳を当てる謳華さん。

「兄さんっ!」 「……了解」

コンビネーション抜群の、ユステラ兄弟。

ぼくはいつものとおり、蜘蛛の糸(スパイダー・ウェブ)で無事に地上に降りた連中の足止め。

動けなくなったのを、ミレルさんや、板さんの室内専用攻撃魔法が降り注ぐ。

気がつけば、ルナはぼくの腰にしがみついていた。

そして、わずかに時が流れた。

「……楽勝だわね。さて、黒幕。出てきなさい」

一番外側で戦闘していた謳華さんが、かつてドアがあったほうを向いて、そう言う。

「正直意外だったが……相手が悪かったな」

なんのためらいもなく。

男が一人、瓦礫の陰から出てきた。

「……強いわね。実力が読めない」
「まあ、“イレギュラー”だからな。さて、提案だ」

「何よ」

ヘルさんが、一歩前に出る。

「素行の悪い娘を回収しに来た。素直に渡せば、悪いようにはしない」
「どういうわけか……、ものすごい悪役みたいに聞こえるんだけど」

「仕方あるまい。今は悪役の性格をなぞっているんだからな」
「で、当然素直に答えると思う? この展開で」

「いや。全然全く」

その言葉に、蒼さんが槍を構える。空気が、緊張する。

「……蒼、やめなさいってば。今回まじめな戦闘が起こるわけないじゃないの」
「どうして分かる?」

「いろいろとあるけど。

今回はコメディでいくとか大見得張ったりとか、

紅殺しちゃったのが評判悪かったりとかでねー、

どうもためらってるみたい」

「…………誰が?」
「……言わずもがなだと思うけど」

肩をすくめるヘルさん。

「ま、でどうするの? 何か建設的な案はあるんでしょ」
「ああ」

ごくり、と唾を飲むぼく。

「お前たち強いみたいだから、娘預けるわ」
「あら、いいの? こんな優秀な娘を」

「どうせ俺が使っても宝の持ち腐れだろうからな。じゃ、また」

ばびゅーんと効果音を残し、男は消え去った。