第4話


「・・・・・・これ、なんですか」
「あ、ディカンじゃない。騎士団から届いてたわよ」

付箋された宛名を見なくてももう分かる。花束と一枚の紙切れ。

・・・・・・有閑マダムからのお誘い、だ。

「・・・・・・誰の罠ですか、一体」

もう頭を抱える気すら起こらない。

「あら、いいじゃないの。せっかく誘ってくれてるんだから、邪険にしないの」
「邪険て・・・・・・そう言う問題ですか!?」

「有名人の奥方ばっかりよ?」
「そう言う問題じゃないですってば!?」

「お金持ちよ?」
「〜〜〜〜〜!!!」

もう地団駄を踏むしかなかった。

いじられてると分かってるのに、対抗できない。

ヘルさんは大笑いしてるし。

「・・・・・・ししょー」
「まあまあ、じゃたまにはこういうのは、どう?」

そう言って差し出された、一枚の紙切れ。

「・・・・・・結局、またお誘いの手紙じゃないですか」
「宛名を見てみなさいって」

「ルナ=ガンヴェルク・・・・・・、というか」

「年上はもう十分だって言ってたでしょ?

一応君の代わりに返事しておいたわ。明日のお昼に待ち合わせだから」

にっこりと微笑むヘルさん。

「いやいやいやいや。・・・・・・さすがにこれはまずいですよ!?

しかも今なんて?返事しちゃったんですか!? えええええっ」

いや・・・・・・、と言うか。

さすがに、これはどこかに捕まるだろう。


――宛名に書かれた年齢は、12歳だった。


そして、あくる日のお昼前。

「待ちきれなくて来ちゃいましたっ!」

ばたん、と言う音とともに、ギルドのアジトの扉が開かれた。

時間はおおよそ10時を回った、といったところ。

ドアの外に立っていたのは、活発そうな少女。

「ルナ=ガンヴェルクですっ! ディカンプール先生、尋ねてきましたっ!」

ぼくは床へと、手に持っていたカップを滑らせた。

――いや・・・・・・、なんと言うかさぁ。


すぐさま応対したヘルさんにより、少女は中に入れられた。

「ようこそ、《幻の伝説(アスガルド)》のアジトへ」

楽しそうに語りだすヘルさん。

・・・・・・オイそこ。ちょっと待て。いいんですか? そんな簡単に素性ばらして。

「はじめまして、こんにちは」

机の上で紅茶の入ったカップを握り、ペコリ、と頭を下げる少女。

「さっきも言いましたけど、ルナ=ガンヴェルクっていいます。ルナ、って呼んでください」
「ガンヴェルク家というと・・・・・・あの?」

板さんが、興味深そうに少女に声をかける。

「はい、“最初の七家”の一つです」

最初の七家――、ルアス騎士団を立ち上げた際に中心となった、有名な名家だ。

情報操作民衆扇動等工作だけに特化した、アーバロット家。

呪術だか魔術だか、わからないものを生み出す続ける冠家。

純粋な騎士としては最強の名を代々欲しいままにした、バレルロッソ家。

金持ちの道楽が桁を三つほど踏み外し、もはや敵無しといわれた、モーブルス家。

女性が頭首を務める、マイソシアの神々を鎮める役割を持った、鏡家。

かつてあの最強と謳われた、軍師ライナを生み出した、レゾルルッド家。

そしてイレギュラー、ガンヴェルク家。

この七つの家が協力し、ルアス王に使える騎士団を興したのが、おおよそ500年前。

マイソシア、特にルアスで生まれ育ったものならば、教えられなくても身につけるであろう知識。

まさか――、そんな歴史的な一族が、目の前に現れるとは。

――――あれ、なんか疎外感が。

「そうか。・・・・・・ぼくだけマジになってるのか」
「よく分かったじゃない」

・・・・・・やっぱり。どうせそんな展開だとは思ったさ。