第2話


「板さーん」
「おや、ディカン君だね。どうしたんだい?」

アジトのドアを開けてみれば、座っていたのは銀色長髪の魔術師。

破戒の板こと、板さんだった。

左手に本を持ち、右手で優雅に、紅茶の入ったカップを傾けている。

「あれ、他の人たちはどうしたんですか?」
「僕は見ていないけれど、何か用があるのかい?」

眼鏡を少し上にずらし、こちらを振り向く板さん。

「いえ……それほどどうという用事じゃないんですが」

さて、どう話題を振ったのものか。

「……一つ聞きたいことがありまして」
「ふむ?」

「実は諸々の事情により、教師、やることになったんです」
「教師? これまた突然の話だね。それで、僕に聞きたいこととは?」

「あの、何か注意することとかありますか? こんなことするの初めてなんですよ」

「うーん、そうだね。相手の生徒にもよるけど、大切なことは自分は教師だと自覚することかな」
「自覚、ですか」

「そ。生徒になめられちゃあ、絶対にいけない」

ふむふむ。

それはまあ、当然のことだろう。

しかし、一体ぼくは向こうで何をやらされることやら。

まあ、騎士団の附属のところだから、それほどアレでもないだろう。

「わかりました。じゃあまあ、適当に頑張ってきます」

「あんまりアドバイスにならなかったような気もするけどね。ま、根詰めすぎないように」

再び読んでいた本に視線を落としながら、板さんはそう言った。


「どうも、ディカンプールです」

いつも着慣れている盗賊用の服を脱ぎ、身に着けるのは堅っ苦しい正装着。

「ようこそいらっしゃいました、ディカンプール先生」
「先生なんて、そんな」

「いえいえ、講師として来られたのですから、やはり先生とお呼びしますよ」

ぼくの前に立って先を歩いている男の人は、養成学校の教頭という立場の人らしい。

「それに、ここのOBという話もお聞きしましたよ」
「らしいですね。ぼく自身あんまり記憶にないんですが」

「そうなんですか……それは、失礼しました」
「いえ」

今は、学校内の案内をしてもらっている最中。

一応ぼくは、記録上ここに通ったことになっているが、

全く記憶の琴線に触れるものがない。

「それで……、ぼくは一体何をすれば?」

「ああ、それを言っていませんでしたね。臨時講師ということで、一つの講義を持ってもらいます」

「はぁ……」

「講義、といってもそれほど身構えなくてもいいですよ。

決まっているのはテーマだけですので、

ディカンプール先生のお好きなようにおやりになって、構いませんし」

にっこりと微笑まれた。

講義、ねぇ。

「イメージとしては講演に近いですね。テーマは“マイソシア大陸の魔法系統について”、です」

「魔法、系統?」

「はい。魔術師聖職者はもちろん、盗賊や修道士でも、魔法に類別できるスキルが存在しますよね。
それについてのお話です」

なんというか……、それは、板さんあたりが一番詳しいような気がする。

何でぼくに話が振られるのか。

「それほど詳しい話まで掘り下げなくても構いません」
「と、言いますと?」

「ええ。聞く方は、12歳くらいの生徒なので」

ぼくは内心頭を抱えた。

――ガキ、ですか。