第9話


「で、どこが最初の目的だ?」
「はっ。あそこの民家を」

「ふむ。中には?」
「ここを支配しているといわれる魔術師が」

「ほう。まあ、妥当だな。さっさとやりたまえ」
「はっ」



「まずい…、蒼君が」
「……」

何も言わず、窓の外を向いたままの男。

後ろを振り返り、言葉を発する板。

「―どうしたんだい?」

ゆっくりと上体を起こす蒼。

背後からも威圧感が、板を圧倒する。

「とりあえず……。キミらだけでも助かってくれ」

男は全力で板をベッドのほうへと突き飛ばす。

不意の攻撃からは避けられず、板は蒼にぶつかる。

「な…いったい? なにを」

黙って男はアイススパイラルを唱える。

大体詠唱の終了と、ソレは同時だったろうか。

「とりあえず、サヨナラだ。板クン。別れは言いたくないけどね」

こちらを振り返り言った最期の言葉とともに、蒼い氷と爆弾が衝突した。

そして

小屋が、跡形も無く。


吹き飛んだ。




「よし…成功です」
「ご苦労。他のところも攻撃したまえ」

「はっ」

町の入り口にすえつけられた大砲。

それに詰められた爆弾が火を吹く。

悲鳴と怒号があふれるカレワラ町。

「けほっ。けほっ」

土煙の中から、板が出てきた。

「何だ…」

視線を上げて目に映るのは、崩壊していくカレワラ町。

「騎士団…!? なんでこんなところまで」

後ろから、積み重ねられた土塊が吹き飛ぶ。

「蒼君か…」

かすかに額を流れる汗。

「しかし、―どうにもまずいね」

流れてきた爆弾が、板のそばを直撃した。目を閉じた瞬間。

「かはっ」

腹部に突き刺さる蒼の腕。

「ぐ…く」

蒼の腕をつかみ、引き抜く。

血が飛び散る飛び跳ねる。

瞬間、蒼は姿を。そして。

「あーあ、やっぱりあっさりやられるかね、キミは。らしくもない」

板のかすれた視線に写るのは、無傷の男。

「ぶじ…だったのか?」

「いや。アレは死んだよ。

コレは…そうだね。義体だよ。義足とか義手とか言うだろう?

アレの一種だ。しかしまあ、念入りに吹っ飛ばしてくれたもんだ、

地下に置いておいた分までが全部おじゃんだよ。まったく」

「がはっ」

口から血を吐き出す板。もう長くはない。

「まあ、キミの傷は後で治しておくよ。

キミの体、この前のでボクの作品になっているからね。ゆっくり休んでいてくれたまえ」

「……」

「で、最後にひとつ。誰だい、これをやったのは?」
「…騎士団だ」

「―そう」

目を細くして微笑む男。

「ボクの町に手を出したこと、後悔させてあげよう」






それから起きたことは、特に明記するまでのことではない。

そもそも魔術師とは、近距離で戦う力がない分、遠距離攻撃に特化している存在だ。

大砲など、ただのこけ脅しにもならない。

集められた数人の集団魔法数発で、

たったそれだけで


何もかもが。






「さて、こんなところまでルアスの連中が来れたというのもアレな話だね。その辺どうなんだい?」

話し掛けるは、壁に突き刺さった大量の死体。

「まあ、どうせサラセンの阿呆どもが手引きしたんだろうね。さて」