第7話 「久しぶりだなぁ、月」 下卑た笑い。 そして、まとわりつく視線。 「──はん、僕は会いたくなかったけどね。ルアスの危機に、逃げていた奴になんか……がはっ」 紅は椅子に座らされ、縄で縛り付けられている。 そのみぞおちを、ルートビエンの軍靴が襲う。 「いいか? 俺がいなかったらどうなっていたか。 ルアスを復興させ、騎士団も再生したのはこの、俺様の力だ」 「……うそをつけ。少なくとも、ルアスの復興はモリス卿の策略のおかげだろう。 あいつの婆さんをスオミに押し付けてまでな」 「──せいぜいわめいているがいい。あとでほえ面をかくなよ」 「はッ」 窓の外には、丸く輝く月が一つ。 ずきずきと、斬られた右肩が痛む。 「さて、俺は旧友に手を差し伸べないほど、冷酷な人間じゃない」 「何が言いたい?」 「一つ、俺たちに手を貸せということだ」 「……」 単純な奴だ、と思う紅。 「俺たちは、あの憎き騎士団の仇、“人類最悪”を処分することになった」 「処分、ねぇ」 小声で呟く紅。 「もっとも、戦力は俺たちだけで十分なのだがな、モリスの奴が渋ってな。 お前をに引き入れたらいいとのことだ。金が無くては戦ができないのは昔から一緒だな」 豪快に笑うルートビエン。 紅には虚勢だと分かっているが。 「さて、ここで質問を一つしよう。 お前の寿命が長引くかどうかがこれで決まる。──協力、するな?」 「いやだ、と言ったら?」 少しにやり、と口元を上げる紅。後一本。 「残念だが、死んでもらう。適当に、──そうだな、溺死にでもしておくか」 「オーケイ」 「さあ、聞かせてもらおうか」 「冗談じゃない」 紅は、拘束していた紐を、何時の間にか唱えていた不滅の炎(パージ・フレア)で焼ききっていた。 椅子から飛び上がり、相手の顎をめがけて蹴りを入れる。 「あいたた。最近、体術なんかやってなかったから体、鈍ってるな。 帰ったらリュープさんあたりにでも組んでもらおう」 こきこき、と首を鳴らし紅は立ち上がった。 「ははは、面白いように進むわねぇ」 もともと、どちらかと言えば海賊寄りだったドロイカンたちが味方についた以上、 彼女らに負ける要素は全くなくなっていた。 「お前、人間のくせに、なぜ……」 ばたり、と一人の騎士が謳華の一撃を喰らい、砂浜に倒れる。 「あんたらが、私に誠意を見せてくれたら良かったのにね。ま、成仏しなさい」 後頭部に一撃。 それだけで、騎士の頭から上が無くなった。 「なんでさっき負けたのか、ほんとわからないわね……」 謳華の目の前に広がるのは、大量の海賊メンバー。 数に物を言わせ、特にクレイジーチャウの大群が騎士団を追っ払っている。 「ん? ……そう、なるほどね。一人買収ねぇ」 買収、買収、と歩きながら呟く謳華。 「……あれ? じゃあ、サラセンもそうなの?」