第6話



まだずっと、蒼は夢の中。


今度は、ひとりのできそこない聖職者と、

ひとりの人間になりそこなった、殺人鬼のお話

一昔前、そう、あのときのお話。





「……ここまで良くやるな、と思わないか? 月」
「……知るか。それより、僕たちも逃げないか?」

「んにゃ。多分大丈夫だろ。それに運良くアイツを見られたら、って思わないか?」
「……勝手にしろ」

まだ蒼も紅月読も15歳になるかならないか。そのくらいの年。

紅はただの根暗

そして蒼は蒼くなく、紅くなく

ルアスの町は、まるで災害にでもあったかのような荒れ方をしていた。

いや、これはもはや災害と呼んでもいいのかもしれない。

「おーい待てって……そこで本当にいくんだね。君は」
「そういう奴だって知ってるだろ」

「友達なくすぞ」
「もうお前しか残ってないさ。他の奴らは死んだしな」

「……」

ルアス騎士団は存在したけれど、いまだに情報部門の部署は無く。

それゆえに、ルアスに侵入しようとした殺人鬼を知ることができず。

騎士団は壊滅した。

残ったのは

たまたまイカロスへ休暇をとっていた一人と、

騎士団養成学校所属の、二人の少年だけ

「どうするんだよ?」
「とりあえず、町から出る。そしたらミルレス辺りにでも行ってまじめに聖職者の修行をする」

「うわ、こいつから積極的な言葉をはじめて聞いた」
「……もうついてくるなよ」

「冗談だってば」
「……」

そのときには、ルアスの住民はとっくに避難していた。

情報を先に握ることのできた銀行長のモリス、そして市長のビルゲンを中心に、

すでにスオミ町へと避難している。

運悪く町にいた冒険者たちは、騎士団に招集されて

そして殺人鬼によってあっさりと殺された。

だから

町にいるのは彼ら二人だけ。

「うわ……、うそから出たまことっていうの? こういうの」
「……うるさいな。死ぬよ?」

「げげ……お前がまじめってことは、本気でやばい?」
「……そう思うなら少しはまじめにやってくれ」

「了解、了解」
「……まったく」


「………………………………」


押し黙る殺人鬼と、しゃべりたてる二人組。

これがはじめての、紅と蒼の遭遇。


そして、人類最悪が生まれた原因。

そして、大陸最低が生まれた結果。


使い込まれていないと分かるスタッフを握る紅。

何人も何人も、ただ血を吸い続けた短剣を握る蒼。


生きていた理由を壊された者と

その理由を求めるために壊した者と


「──君は、僕と同類だね」 「──テメェは、俺とそッくりか」 

「なら、丁度いいや。僕を殺せ。もはや生きていてもしょうがないんだ」
「そういうテメェを殺すぐらいなら、他の全ての人類を滅亡させるほうがましだ」

「……そうか」 「……そうだよ」

「じゃあ、僕は君のストッパーになる。君が赫くなる前に、僕が君を止める」

「ならば俺は?」
「僕の相方になれ」

「そして、どうしようもないこの世界を、破滅しよう」

二人は同時に地面に倒れた。

すでにもう一人の少年の生命の灯は無く。

死闘はおよそ30分たらず。

再び町に人が戻ってきたときには

二人の姿はなくなって、一つの死体だけが転がっていた。

そしてしばらくの間。

マイソシア全ての都市が、

紅い髪をした聖職者と、蒼い眼をした戦士に蹂躙される。

《人類最悪の蒼》と《大陸最低の紅》の、誕生だった。