第5話 「……しくったわねぇ。あ、ありがと」 となりにいた小部隊の船長から包帯をもらい、謳華は手当てをする。 「しかしまぁ、よくもここまでやるわ」 目の前に広がっているのは、焼け落ちた海賊の基地。 「で、あなたたちはどうするの?」 必然的に、基地を追い出された海賊たちは、一時的にルケシオンの砂浜に避難している。 「……そう。ま、妥当な線ね。私も協力するわよ」 あたりには冒険者は誰もおらず、人間は謳華だけだった。 「相手が例の騎士団なら、ルアス町全体が敵ってことね。これはヘルギアたちも大変そうだわ……」 焼け落ちた中に残っていたメモ書き。 それは、騎士団による海賊討伐の知らせだった。 だからこそ、人間の冒険者はおらず、こうして海賊討伐は一応成功している。 もっとも、謳華の耳に全く入ってはいなかった。 だからこそ、問題だと分かったのだが。 「さあて、私もやらなきゃね」 謳華は立ち上がり、使える戦力の確認を始めた。 「やられっぱなしは……性じゃないもの」 「……嫌な予感がする。僕はいったんカレワラに戻るよ」 ヘルさん、いやルキアスと一緒にルアス王宮の入り口を突破した後。 そこそこ広い場所で、板さんと落ち合った。 その最初の一言が、これ。 もちろん、ルキアスとヘルさんは交代している。 「え?」 「いつ蒼君が目を覚ますか分からないんだ。 もし、今の状況を知ったとしたら、もう誰にも手をつけられなくなる。 ──最悪の、殺人鬼なんて」 「でも、今蒼さんは寝ているのでは?」 確か怪我をして重態だった記憶が。 「ああ、だろうね。ただ、無理やり起こされることもある。たとえば──襲撃とか爆破でね」 「──っ」 なるほど。 そういう荒業を普通にやる相手、か。 「そんなこと実際にありえますか、板さん? だって、カレワラでしょう?」 「ああ、僕だってアレの心配をするほど耄碌してはいない。 だけどね、今はサラセンもが、敵なんだよ、ヘル君」 「リュープさん……」 「そう、リュープ君ほどの手練が襲われるなんてのは、 サラセンが、僕達の敵だっていうことをはっきりと示してくれた。 加えて、カレワラとルアスの交流は全くといっていいほど無い。 ただ距離が遠いというだけではなく、カレワラ自体の存在が、 この清廉潔白を一応とはいえモットーにしている町に合わないからだろう」 実際、あそこは悪の巣窟だからね、と板さん。 「しかし、サラセンが間に立てば事態は変わる。ただ、実際に……」 板さんは言葉の語尾をごまかした。 なんとなく聞いてはいけない雰囲気なので黙ってみる。 と、ヘルさんが立ち上がった。 「とりあえず、私たちはこのまま中に行きます」 「ああ、無理しないでくれ。ルキアス君モードに入るのも別にいいが、制限があるのを忘れないように」 「──わかりました」 少かり、陽が傾いていた。