第3話



「さて、相変わらずここはこんな程度のモノ使ってるのか……」

日は落ち、町の人々は既に夢の中にいる丑三つ時うしみつどき。

紅は最後のトラップを解除し、塀を乗り越えた。

「よっ、と」

先に投げ入れておいたスタッフを拾い上げ、紅はある建物へと歩き出す。

ルアス王城とはいえ、すでにあたりは真っ暗闇。

「ここだったかな。3年ぶりか……、早いものだよ」

少しばかり感慨に耽る。

そして、窓に手をかけ横にスライドする。

鍵が、開いている。

「やっぱり──」

部屋の中はやはり暗い──が、中にいるのは人の気配。

「……!? 何者だ」

聞こえる声は見知った声。

紅の心の中に、懐かしさが生まれる。

「僕だよ、久しぶりだね。ボーグ」

いまだ記憶の中にある明かりのスイッチの位置を探り当て、紅はかちりとそれを押した。

生まれた明かりの中、相手の顔は驚愕に覆われている。

「あ、あ、……紅月読? おまえ、月なのか?」

「そうだよ。正真正銘、お前の元相方だ」

「……そうか、わかった」

窓にカーテンを引き、明かりを外に漏らさないようにしている部屋。

そのうす暗がりの中、一人の男がそううなづいた。

「やはり来たか。まあ、計画通りだ。……引け」

それを合図に、黒装束が闇に溶けていく。

「どうしたんだ……お前? まさか戻ってきたのか?」
「いや、ちょっと調べたいことがあってね。わざわざここに来たってこと。ところでボーグ」

「なんだ?」
「最近どうなんだ?」

少し、ボーグの視線が揺れる。

「どう、とは?」
「そのままだよ。昔僕がいたころよりも、上の圧力は増えているんだろう?」

「……」

答えはしないが、その沈黙が全てを語っている。

「それだけは謝っておきたくてね。僕のせいだということは良く分かっているから」
「……月。いいか、俺たちは今ある話を仕入れているんだ。それが分かればこの状況も何とかできる」

少し微笑む紅。

「それはあれだろ? ルートビエンの奴の弱み」
「……な? どうしてそれを」

「いや、まあ大体そんなところだろうとは思っただけさ。ところで、今あいつのところにいける?」
「……? まあ、大丈夫だ。案内はできる」

「お願いしよう」

部屋の扉を開け、紅はボーグを促した。

「失礼します」

ボーグの声とともに、がちゃりというドアの音。

「いない……、いや」

暗闇の中。

紅に感じるのは、ただ強烈なまでの人の気配。

「どこにいる、ルートビエン」

一歩足を踏み入れた瞬間。

「……!!!?」
「久しぶりだな、紅月読。人の寝室に不法侵入とはいい度胸だ」

血まみれの黒く不気味に光る槍を持つ大男が、闇の中から現れる。

「腕一本、代金としていただいた。……おい、これを例の所に届けて置け」

投げられた紅の腕が、すっと闇に消える。

(……ちっ、これはまずい)

そっと切り口にリカバリをかける紅。

たとえ斬られた腕が残っていたとしても、

グレートリザレクション程度使わなければ蘇生できないかもしれない。

(しかもあれは、やたら時間がかかるしね……)

「ボーグ。貸し一つだ。今までの狼藉を全部見過ごしてやるからさっさと消えろ」

そのにらむ目は、全てのモノを凍らせる。

「さて、月。後は俺たちで楽しくしようぜ」