第19話


二人が消えたのを確認し、ふ、と微笑みを浮かべるヘルギア。

「……テメェ、どういうつもりだ?」
「どういうつもり……って?」

痛みに顔をしかめ、地面に座りこんだ。

「何のために、俺をかばった?」
「そんなの……、決まってるじゃない」

ごほごほ、と血痰の混じった咳きをする。

「く……、今更、この俺に何を期待する?

ただの人をも信じられない殺人鬼を、どうして、救おうとする?」


何かの苦しみと、葛藤する蒼。


まるで、まるで、まるで

昔見た、過去の一ページ。


今となっては想い出したくもない、

いつだって思い出すことのできた、

アイツとの、出会い。


「分から、ない?」

痛みで、顔をしかめる。

「なら、丁度いいわ。私を殺しなさい。こんなになって、もう、生きていてもしょうがないわ」

「…………」

がくり、と蒼は膝を突いた。

「…………そういうテメェを殺すぐらいなら、他の全ての人類を滅亡させるほうが、ましだ」

「……そう、ね」 「……そうだよ」

「なら、私は君のストッパー役になる。君が赫くなる前に、私が君を止める。

紅月読という存在の代わりになって」

「ならば俺は?」

蒼は、下を向いた。

「俺は、どうすればいい? こんな俺は、どうしたらいい?

相棒に、意味のある人生すら与えられなかったばかりか、ただ無駄死にさせてしまった、この俺は……」

いつの間に、ヘルギアが蒼の目の前にいた。

そして、ただ。

彼女は、蒼の頭を抱きしめる。

「そんなに、一人で抱え込まないで」
「……」

「私じゃ、彼の代わりにならない、の?」

抱え込んだ蒼の頭に、こつんと額をぶつける。

「君を止める役、君の苦しみを分かち合う役、私が彼の代わりに請け負う」
「……ヘル、ギア」

「…………私―、君のことを、好きだったみたい」

ぎゅ、と蒼の存在を、その腕の中に、閉じ込める。

「一緒に、生きましょう」



「どうしようもないこの世界を、生きていきましょう」


二人は同時に、地面に倒れふした。