第11話 「さて…どうするかね。多分紅君に何かあったんだろう」 「で、ディカン。あいつらどうしたの?」 「さあ…ぼくは気絶させられてここに連れてこられましたから」 「ねぇ、ヘル。あの罠にかかったんじゃない?」 「…あ」 そう言えば、といった顔で謳華を見つめる。 「なら、どこ?」 「そうね。こいつらの性格の悪さを考えると」 ―サラセン森かしらね。 「ぐ…ぐあぁ」 頭を抱え、武器を落とし、うずくまる蒼。 「がぁあああッ」 空気が変わり。人も変わり。 「……コ、ロ。ス」 「大丈夫ですかね、あの方々」 「大丈夫だろうよ。それより、今はミレル君のほうだ」 謳華に見つかるや否や、全身くまなく殴打された。 おかげで、いまや足腰の立たない状態で倒れている。 「ふう、この程度で大丈夫だろう。でも、ミレル君も何でだろうね…」 「何かあったのだろう。でなければミレル殿がそのようなことはない」 ユステラ兄弟の語りを聞きながら、ディカンはふと蒼をはじめてみたときを思い出した。 (…大丈夫なのかな) 「冗談じゃないわよ。なに、これ?」 4人の前に広がるのは、深さ5メートルほどの陥没が。 「蒼って、こんなのだったの!?」 「でしょうね…ルキアスに変わろうかしら」 少し投げやりなヘルギアの言葉。 「それはぎりぎりまでやめて。彼女だしたら、それこそ収拾がつかなくなるわ」 「さて、3人とも。いるよ、蒼君」 「!!!?」 4人の目に映るのは、蒼。 「え?」 瞬時に消える蒼。 そして、倒れるリュープ。 「リュープ君!?」 「ちっ。ヘルギアの奴、代わるの遅すぎだっ」 持ち方を変えた剣を握り、ルキアスとなったヘルギアが、瞬時に襲ってくる蒼のスタッフをはじく。 「……いいねぇ、この感覚。2年ぶりか?」 楽しそうに語るは、ルキアスの声。 普通の人には、何が起こっているかすら分からなかったであろう。 「ルキアス君。気をつけたまえ。リュープ君の二の舞はやめてくれよ」 ルキアスに当たらないように、補助の攻撃を繰り返す板。 謳華は、板の周りに陣取って時折襲い来る蒼の攻撃をはじいている。 「君だけが頼りだからね。僕たちでは防戦が精一杯だ」 「──はん、そんなことだろうとは思ったけどね」 「ルキアス君?」 「だから言っただろ、代わるのが遅すぎるって!」 最後に甲高い鍔迫り合いの音を立て、ルキアスが膝を突いた。 「・・・速い!」 謳華の口から言葉が漏れる。 そのくらい、追い詰めた蒼の攻撃は今までよりも何倍も速かった。 「なによ、それ。今までのは手を抜いてたってこと?」 「謳華君! いいから、僕の後ろに」 二人は互いに背中を合わせる。 「どうするの、板さん!? 私たち二人じゃ、無理があるんじゃない?」 「だろうね。ここで紅君が復帰してくれたらまだ何とかなるけど……」 「さすがに、それはなさそうね」 再び二人の視線から蒼の姿がぶれる。 いや、ぶれているように見えるほどの超高速の移動、なのだろう。 「──ハッ!」 気合を込めた謳華の一撃。 腰を落とし、大地に根が生えたような全身から繰り出される拳を持ってしても、 攻撃を跳ね返すのが精一杯か。 「板さん、そっちまでフォローできない!」 悲鳴のような、謳華の声。 「大丈夫だ。僕はもう──命を賭ける準備ぐらいできている」 何度か謳華に襲い掛かった次のタイミング。 「ここだね? さて、一度ここで君たちともお別れだ。 息災と、友愛と、再会を。──運がよければ、そして縁が合ったらまた会おう」 板を中心に、半径数十メートル。 空から降ってきた隕石が、3人の体をすり潰した。 メテオ──マイソシア最強かつ、板が持つ最大の攻撃力を持つ呪文。 サラセン森から、全ての生命が停止した。
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