第10話



「ばか…あ、お。だめだ…暴走、するな」

「紅! 大丈夫か!?」

血を口から吐きながら、紅は上半身を起こした。

「…無理するな」

「わかってる。でもこれだけは言わせろ。蒼、もう二度とだめだ。

あんなことになったら、僕がいないのに誰が止める?」

ごほっ、とひとつ咳をし、口から血を吐く。

「とりあえず…ヘルさんたちを…ま、て」

力尽き、紅が地面へと倒れる。

「……」

うつむく蒼。

「いやはや。さすがに今のは危なかった」

晴れてきた煙の中から、無傷のカリルが姿をあらわした。

「だから言っただろ。幻は殺せない」

「……分かった、紅。お前の意思は受け継いだ。安心して休んでろ」

使い物にならなくなった槍を捨て、紅の手から落ちたビショップスタッフを握り、蒼は立ち上がった。

「テメェだけは…絶対に殺す」


「ま、こんなとこね」

「たいしたこと無いのは分かってたけど…手ごたえすらなかったわね」

「彼らにしては頑張ったほうじゃないかな?」

「準備運動程度かしら?」

そこかしこに倒れている者にとって、まるで彼らは悪魔のように見えただろう。

修道士・魔術師・聖職者・盗賊。

戦士がいないだけで、コンビネーション・破壊力は抜群のパーティ。

「で、ひとつ聞きたいんだけど。いいかしら?」

縄でいすに縛られている盗賊が一人。

声を掛けられてびくっと震える。

「な…なんでしょう」

「あんたたちが捕まえてた二人、どこにいるの?」

首元に短剣を当てるリュープ。

「く・・・言うなよ、カーズ。それを言ったら…お終、ぐはっ」

そばに倒れている戦士が、もがきながら言葉を口にする。

同時に、リュープがその戦士の頭を全力で踏み潰す。

「あのね、あたしは4人の中で一番気が短いの。さくさく言う。でないと間違えて手がすべるよ」

すでに首筋からは血が。

「ひ…ひぃ。分かった。言うから、言うからそのナイフはずしてくれ」

「早くね」

少しナイフを遠ざけるリュープ。

「そ、そこの箱の中に」

指差す先は木箱。

板が木箱だけを燃やし尽くす。

中から出てきたのは、縛られ猿轡をかまされた二人―コーウェンとディカン。

「オーケイ。あんたは用済みよ」

謳華の当身で気絶する盗賊。

「よかった…無事ね、コーウェン」

「ん・・・? し、師匠!」

「ふう…ディカン、大丈夫?」

「ええ…少し頭切ってるくらいですから」

リカバリをディカンにかけるヘルギア。

「これで全員みつかったかしら? あそこにいるうちの馬鹿マヌケはほっとくとして」

「いえ! そうだ、謳華さんたち、蒼さん知りませんか!?」

「え? あんた知らないの?」

顔を見合わせる4人。

その瞬間。

地面がありえない程度に歪曲する。

「は―? なんで!? ルキアスはここに…」

「いや」

板が渋い顔でリュープを見つめる。

「蒼君、だよ」

「はぁっ、はあっ」

なれない武器を持っているせいか、いや、相手が人間の枠を越えている存在だからか。

蒼は、どう見ても押されていた。

「冗談じゃねェ! 幻影は、大人しく帰ってろ!」

「嫌うなよ、そんなに。お前も一緒にこちらに来い」

(紅! すまねェ。後一度…)

覚醒し発動する力。それは、蒼の精神をどんどん蝕む。

「く…がっ」

「ほう。三度目、か。いいのか?」

「知るか。ヘルギア達が何とかしてくれるだろ」

瞬きをした瞬間。

「今度こそ…ぐ、わ」

視線が、暗転する。

意識が、真っ黒に染まる。

殺人鬼が、再来する。