第五話 もちろん蒼さんが倒した連中はただの第一波で。 その後にも同じような連中が再びやってくる。 予想外? ええ、そりゃあね。 蒼さん、槍持ってるときとほとんど強さが変わらない……。 確かに昔は一流の戦士だったんだろうけど。さすが人類最悪。 こんな人間機関車、相手にするのが間違っている。 そういうわけで。 僕と同じこと思って蒼さんの攻撃から逃れた奴らが、城門のほうへ、ぼくのほうへと。 「うわぁ」 なんともまあ、やる気のない声。 自分で思うくらいだから、相手にはもっとひどく受け止められたらしい。短気な。 「はぁ。こっちだこっち」 そう言いながら地面に魔方陣を発生させる。 それが完成すると体を白い光が包み込み、ぼくの姿が誰にも見えなくなる。 ─不可視(インビジブル)、ぼくの得意なスキルのひとつ。 目の前にいた戦士が、その突然の消滅に辺りを見回す。 その隙を狙い、ぼくはぐるりと相手の背中へと移動、そして一刺し。 背中から心臓を狙った攻撃は、必殺の致命傷な一撃。 ばったりと倒れた戦士を置き去りにし、ぼくは延々と蒼さんのおこぼれを処理していく。 「くそ、何がおきている!?」 せっかく最悪の手から逃れたはずの味方が次々と倒れていくのを見て、 後方にいた指揮官らしき騎士が焦りの声を上げる。 どうやら、何かが起こっていることだけはわかったらしい。 突破した連中は一箇所に固まりお互いの背中をカバーし始めた。 「えい、盗賊はいないのか? 誰か探索(ディテクション)をしろ! 不可視(インブジブル)状態の奴が潜んでいる!」 やれやれ。これだから頭の悪い連中は。 ぼくは手持ち無沙汰に、適当な敵に短剣を突き出す。 さすがに正面からの攻撃は捌かれるが、まあダメージがないわけではなさそうだ。 と、ようやく体に気持ちの悪い光がまとわりつき、ぼくの姿がはっきりと映るようになる。 ─気がついてから発動まで、ずいぶんと遅い。 ぼくは短剣を引き、体を一歩下げる。 「─やれやれ」 「終わりだ!」 姿が見え、しかも後ろへと重心が下がっていたために、 反撃どころか防御すらができないぼくに、戦士が大振りの一撃を入れてくる。 普通なら非常にまずいけれど─。 「はい、ご苦労さんだったね。ディカン君」 瞬間、ぼくと蒼さんの間にいた敵の頭上に、天から岩石が降り注ぐ。 その重量によってミンチ状となった敵たちは、 悲鳴すら上げられず断末魔の声さえ認識できず、闇へと帰る。 一箇所に固まっていたのが、逆に最悪の結果を生み出したのだろう。 メテオ─マイソシアに存在する数多の魔法の中で、最強と称される魔法。 えげつないまでといわれた、その呪文の威力、語るまでもなく結果が証明している。 「さて、次いってみようか」 にこりと、眼鏡の奥が微笑んだ。 ─虱潰し。 その言葉が最適に状況を表現しているのだろう。 戦闘開始からおよそ一時間。 最初のころと同じ程度の実力が、同じ数だけ押し寄せる。 学習能力がないのか、優秀な指揮官がいないからなのかは知らないけど、 攻め方までずっと同じで、単調。 蒼さんが倒し損ねた敵をぼくが不可視(インビジブル)状態で止めを刺していく。 時々思い出したように、板さんが呪文を唱え敵を一掃する。 まるで実力の差を見せ付けるかのように、使う呪文はひたすら広範囲・高威力。 注意していないと、時々巻き込まれそうになる。 「あと、一時間くらいかな」 「だろうね。─そうだ、ディカン君」 独り言に対してわざわざ返答を返してくれた板さん。 ついでにとんでもないことを言ってきた。 「ここはもういいから中に行ってくれないか?」 「─へ?」 にやり、と笑いながらアイススパイラル。 珍しく単発魔法だなと思って振り返ると、いた敵はたった一人。 「いったいどういうことです?」 「言葉どおりだよ。僕と蒼君だけで乗り切れそうだからね。 正直もうちょっと強いのかと思ったんだけどね。見掛け倒しってやつかな。 まあ、ここに来るのはそんなものだろうけどね」 そう言って何かの呪文を詠唱する。 聞いたことのない詠唱だと思って振り返ると、轟音とともに雷が降り注ぐ。 モノボルトの、広範囲版とでもいいのだろうか。 威力も桁違いっぽいけど。 「門はここしかないけど、いかんせん敷地には、入ろうと思えばどこからでも入れる。 トラップは仕掛けてあるけど、そろそろ壊されている頃だろうしね。 城の入り口のほうに行ってくれ。 一本道だから不可視(インビジブル)で消えていれば、敵がいても簡単に倒せるだろう? 僕たちもここを片付けたら向かうから、頑張ってくれ」 そう言って再び詠唱を開始する板さん。吹っ飛んでいく敵たち。 ……正直、そろそろ哀れに見えてきた。 「はぁ、わかりました」 ま、板さんの言うとおり。ここはぼくがいる必要があまりないような気がしてきた。 城の敷地内へと入る。 実は初めてだったりするのだけど、さすがに入り口がどこにあるかぐらいは教えてもらっていた。 門からぐるりと180度まわったところに入り口はある。 それ以外のところはただの壁しかなく、窓も見上げる位置にしかない。 というわけで、最初の角を左に曲がると ─うわぁ。 「すご……」 完璧な硬さを誇っているはずの城を囲っている塀がぶち破られていた。 しかし、普通こういうところから入るなら、壁を乗り越えていかないか? まあ、その、なんだ。 ダンジョンの中にたまにいる、 バリケードを壊した人の噂だって聞き飽きるほど聞いたことがあるから、 こういうことも可能なのだろう…とか思ってそこを通ると一体の生き物が。 「これは」 落ち着いて考えてみる。 まず、人間じゃないだろう。 かといって、このあたりにはモンスターがいないはず だからモンスターでもないのだろう。 おそらく、こいつが壁に穴を開けたのだろうが。 とりあえずなんだか傷ついていて泣き声もしてものすごく可哀想だったので─、 端に寄せる。ついでにそばに肉を置いておく。 うん、意識があるから、これでしばらくは大丈夫だろう。
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