第二話



最初は大したことじゃなかった。

まあ、確かにこんな、

普通は誰も近寄らないような低レベルの狩場に

人が大勢来たという時点で何か疑うべきだったのかもしれないけど。

でも残念ながらぼくはしがない盗賊、

基本的に前だけを見て動ていくという担当だから、そんなことに気がつくはずもなく。

加えて、ぼくだって人並みにはレベルを鍛えてるとは言っても、

うちのギルドのメンバーたちにはぜんぜん及ばない。当然、目の前にいる連中にも。

で─、まあなんというか、こう、絡まれてしまったわけだが。

「お前、大して実力もないのに、あのギルドに入れたらしいな」

場所はスオミ町からすぐそばの森の中。

なんとなく海賊帽でも探しに、とナイトモスを潰している最中。

気がつけば、周りは物騒そうな連中ばかり。

町にも近かったからゲートすら持ってきていない。

ポケットを漁ってその事実に気がつき、ぼくはちっ、と舌打ちをする。

だが、不本意にもそれはどうやら挑発と思われたらしい。

「ああ? 何だ今の舌打ちは」
「はあ…、それで? 何のようだ」

男の言いがかりは無視して、とりあえず強気に出てみる。

雰囲気はあまりよろしくないけれど、いきなり襲われるということはなさそうだ。

が─

「まあ待ちたまえ、君はあまりにも短気だからいけない」

はじめに因縁をつけてきた男の隣にいた人物がなだめに入る。

来ている服からして、修道士だろうか。

「私たちは君のことをよく知っている。

非常に陳腐な言い方でこちらとしても嫌気がさすのだが─、

君の事は少しばかり調べさせてもらっていてね。いろいろと、知っている」

目の前に立った、眼鏡をかけた修道士がぼくに向かってしゃべりかける。

かなり含みを持った言い回し。さすがに、言いたい事の裏側くらいまでは分かる。

「君の実力、戦闘力とかいろいろとね」

そして─、この場から逃げることは非常に難しいと言うことも。

命はひとつ。まったく、どうかしてる。

「それで、結局あんた達、ぼくに何を望むんだ?」

「賢いな。話が早くて結構。では私たちの目的を言わせてもらおう。
それは、君の命と引き換えに、君たちのギルドの城を明け渡すこと」

なっ・・・。正直、そこだとは思わなかった。

「どうだ……? と聞くまでもないか。まあ、無理だろうね。

わざわざ君に答えてもらわなくても、君に決定権が無いことは分かる。

それに要求を拒否されて君の命を奪ったところで、こちらには何も得がないし、

あそこの連中は不本意に敵に回したくない。そこで、だ」

眼鏡の奥が、非常にいやな感じに映る。

「勝負だ。攻城戦の申し込み。事前に決めるルールはいたって簡単。

ある時間帯に、あの城を攻撃可能にする。

もちろんそちらは迎撃しても構わない。

ただし、時間帯の間に、誰が何人攻めてこようとも構わないこと。

あとは規定どおり(ローカルルール)でいい。申請はそちらにしてもらおう。

代表は僕の名前にしておいてくれ」

もういちど、眼鏡を上に上げる。

告げられた通りなら、こいつの名前はリュークらしいが。

「わかったか? なら、今すぐ連絡を取れ」

─こうして、ぼくは解放され、町に帰り。そして冒頭へとつながる。