Access-alivEその4



 暗黒の森。そして雨。

 「あの時と……同じか」

 「奇遇ね。それとも必然かしら」

 「知るか」

 あの時と違うのは、ヘルも紅も板も――いない、ということ。

 「さて、行くわよ」

 剣――今まで数多の血を吸ってきた、まるで吸血鬼のようなソレが、蒼へと向けられる。

 「ぼんやりしてると、あっさり殺しちゃうわよ!」

 「――そんなことは知ッてる」

 目を閉じ、意識を集中させる。風の流れを読み、軌道を感じ取る。

 (ここだ)

 「はッ!!」

 剣を上に弾き飛ばし、その力でルキアスへと槍を突き出す。攻防一体の攻撃。

 「甘い――甘いわよ、最悪。まさか、その程度なの?」

 必殺のつもりの攻撃が――かわされるどころか、始めの一撃を力で押し切られた。

 (なまッた――か)

 そもそも、人間の意識が残っている状態が、あの“最悪”と違う。

 そこに、蒼は気がついていない。





 そもそも、

自分を否定することなど

誰にも出来ないのだが。



 

 「そろそろ――終わりにしましょうか?」

 傷だらけの蒼と、無傷のルキアス。

 「……」

 言葉すらもはや、蒼の喉を通らない。感情も、感傷も。

 「――好きに、しろ」

 片手から槍が落ちる。

 罅が走り、もはや武器として使い物にならなくなった、ドロイカンランス。

 そして同様、使い物にならなくなった殺人鬼――最悪の、蒼。

 「――無様、ね。人を殺そうとして殺せない殺人鬼なんて、ただのクズよ」

 「……なぁ、ルキアス」

 「なに」

 「殺すなら――さっさとにしてくれ。もういい加減、この感覚には飽きた」

 「そう? ならいいわ。最期の別れくらい、告げさせてあげようと思ったのに。

  まあいいわ、安心しなさい。“人類最悪”の称号は、私が受け継ぐから」

 何年か前とは、全く逆の風景だった。ただ雨は降り、そして暗黒は全てを覆う。

 存在し得ない月光が研に反射し、刀身を不気味に光らせる。

 「死になさい――蒼。今度は地獄で、会いましょう」

 そうして、剣は死神の鎌のように、振り下ろされた。





 全てが幻で実際に起こっていないコトだったら

 世界はどんなに平和だっただろう。





 「――うん?」

 ディカンプールは書類を書く手を止め、頭を上げた。

 程なく扉がノックされ、一人の事務員が入ってきた。

 「……どうぞ」

 眠気覚ましの飲み物と、追加の資料が置かれる。

 「ありがとう」

 「――いえ」

 目をやると、赤い判子で至急の文字がとまった。

 それを掘り出し、とりあえず目を走らせる。

 「何だって? “死を招く”少女の失踪付近で、首斬り死体が大量に――?」

 「ええ。斬り口からすると、どうも槍によるものの様なのですが……

  しかし騎士団が把握している限り、ここまでの見事な腕の持ち主は一人しか」

 言いよどんだ事務員の態度と、彼自身の聡明さからディカンプールは全てを悟った。

 「あの“人類最悪”、蒼以外考えられません。ただ――」

 「蒼さん――いや、あの騎士はもう存在していない……」

 「ええ、それは既に物証が上がっている事実です」

 そういうことじゃ、無かったのかもしれない――とディカンは考えた。

 “人類最悪”の蒼が消滅したとしても――人間としての蒼は残っている。

 「つまりは、あの人自身が最悪だったってことか」

 どか、と椅子にもたれかかる。

 「どうなさいます、団長?」

 「――ぼくがいくよ。準備してくれ」

 「“最初の七家”のほうには」

 「伝えなくていい。もともとは、このぼくがまいた種だから――」





  “死を招く”少女と、最悪二人。

  そして嘘をつけない、“錯士”

  この四人が交わるとき、マイソシアの世界は

  全てを内包し、転がり始める。




  ――それが、どのような方向であっても……。