Access-alivEその3


 勝負――いや戦闘にはあっさりとケリがついた。

殺しを忘れた殺人鬼には、人を殺す専門の人間は、荷が重すぎた。

武器である槍は飛ばされ、蒼は地面に押さえつけられていた。

 「やッぱりな。強い奴だ、テメェは」

 「――腑抜けに言われても、嬉しくもなんとも無い」

 「はン。だから奴らにも言ッたというのに。俺はもう最悪なんかじゃねェ」

 ざく、と蒼の顔の横に剣が刺される。

 「生きる価値が無いことなど、とっくに調査済みだ。

  負けたという事実を糧に、辱めを受けていろ」

 すっ、と体の上から負荷が消えた。

 「……なんだと? テメェ、ここまでやッておいて、どこにいく?」

 「貴様を敗北させた――その事実だけが必要だ。

  あとは命がどうなろうと関係が無い」

 「――チ。どうせ殺さないなら最初から言ッてろよ」

 姿勢を起こし、座った状態になりながら蒼はそう呟いた。

 やっぱりダメかと思いつつ。

 「なんなら、真面目に殺ッてやったのによ」

 「――何を言う」

 「さッきは適当に闘ッただけ――そう言ったんだよ」

 蒼は立ち上がる。



 そして、彼は自分の事実に気がついていた。









本当は自分を見失っていただけではなく



自分を見失わせていただけだということを。









 そんな単純なことを、忘れようとしていただけだった。



 「仕方ねェ。昔を思い出して――思い出させて、やるよ」

 「…………」

 本気、いやそういう次元でなく力を出してきた蒼に、男は黙って距離を開く。

噂どおりなら、人間という身で、蒼に対峙することは、ただの愚策――。

 「ははハッ。良かったな――俺に殺されるなんて。一生涯の誇りにできるぞ?

  ――地獄に落ちたら、閻魔によろしくな」

 そして、蒼の姿が男の視野から消えた。

 「――!?」

 「じゃ、またいつか、な」

 槍が、首を通過した。

 ――血吹雪が舞い、はらはらと野に落ちる。

 さながら、桜の花のように。

 「人間にしては――よくやッたんじゃねェか?」

 そのセリフは誰も聞くことが無く――蒼はその場を去っていった。

 ただ一つ、死体を残して。

 「……しまッたな。あいつに居場所聞くの、忘れてたか」





 がちゃり、とドアを開けた。

 そこには、ヘルギアが一人。

 「よォ――どうした?」

 「うん……蒼、聞きたいことが一つあるんだけど」

 「何だ?」

 「最悪って、どういう定義だと思う?」

 「今さr」 「今更、じゃなくてね」

 セリフを被せて、ヘルは言葉を繋ぐ。

 「私とあなたは同調できる。だから、さっき何があったかも聞かないで分かる。

  そしてあの時以来、私もあなたもなにも出来ないただのデキソコナイに成り下がっていることも」

 黙って蒼は話を聞く。いったい、彼女が何を言いたいのかを考えつつ。

 「でもさっき、ああいうことを、蒼はした。

 なら私にも、できるようになっている――つまりは、封印が弱まっていることと考えられる」

 「それで――いや、だから何が言いたい?」

 「いい加減、このクソみたいな体から出れた――そういうことだ」

 瞬時に口調が変わる。閉じ込めたはずの、ルキアスの意識。

 いつのまにか――彼女がヘルギアを支配していた。

 「……なッ」

 「何で、なんて言わないわね、蒼。

  私を散々な目にあわせておいて、自分だけ生き延びて」

 空気が硬直する。ピン、と張り詰める。

 「というわけで、蒼。代わりに死になさい。

  あんたがいる限り、私は私を支配できない」

 「……冗談じゃ、ねェ。お前が裏側に引ッ込むというのは、了解した事実だろうが!」

 「はッ。冗談じゃないわ。

  私が――人類最悪が、何でそんなことを聞かなきゃいけないのよ。

  そもそも、私はあの時――負けていなかった」

 「――そう、か」

 蒼は、どっかりと椅子に座る。

 「なら、話は決裂だな。さッさと殺しあおう。俺が、忘れてしまわないうちに」

 「ええ。いいわね、話が早い相手って」