第10話 『雨U』


エララ・マイスター・カイム・アシッドの4人がナゾの女の子と会った頃…。

アスガルドの全域で雨が降り出した。


ミルレス森の中…。

ミルレス〜ルアス4のエリア。

ポツポツ・・・ザアアア・・・と降ってきた雨に

「ぉ、マジで降ってきた。」

とアッシュは、上から落ちてくる雨の水滴を左手に感じていた。

「なんか、大雨になりそうねぇ。まぁ、この世界に洪水はないでしょうけれど。」

とリーノアは、雨の降り具合を見ながらも無関心そうな顔で言った。

…ところが突然。落ち着いた空気は、破られた。


たったったったったったっ・・・と誰かが走ってくる音がした。

その背後にあるのは、ナイトモスの群れ。

ソレは追われていた・・・。

ソレは、気が付いた。2人のプレイヤーがいることに。

そして、2人の方へと走りだす!!


「なんだかなぁ・・・。雨の日って、眠くなったりするんだよなぁ。」

くぁ・・・っ。と欠伸するアッシュを見て

「あはは。アッシュ、私の家のネコみたい。」と言ってリーノアは、笑い出した。

「お前の家のネコも雨ん時は、寝てるのか?」

「うん。」と一言でキッパリと言われて

「いいもん。ネコみたいな性格だからw」と開き直るアッシュ。

「あはは。アッシュって面白い。」と笑うリーノア。


…次の瞬間、

アッシュの背後に何かがドン!とぶつかってきた。

両足でふんばって「何だぁ?!」と振り向いたアッシュの足元には

一人の髪の長い女の子がいた。

「あら、可愛いw」とリーノアは、女の子を見た。

身長は、アッシュやリーノアの半分ほどだろうか?

「助けて!ナイトモスにタゲにされているの!!」

と叫ぶ女の子を追いかけるように、ナイトモスが群れでやってきた!!

「リーノア!」
「おっけい♪」

2人の修道士は、次々とスキルを使って、ナイトモスを倒していった。


12分後…。

「イミットゲイザー!」

「コカー!!」と断末魔を残して、最後のナイトモスが倒れた。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。助けてくれてありがとう。」

女の子は、ペコリと頭を下げた。

「可愛いーw…じゃなかった。あなたの名前は?」

「…アーシア」

「アーシアかぁ。職業は?どこの町の子かな?」

「しょくぎょうもまちも・・・分からない。」

リーノア(前者)とアッシュ(後者)の質問に答えるアーシア。

しかし、彼女は困惑していた。

今、目の前にいる2人を信じていいのかどうかの判断材料がないことに。

「仲間とかは、いないのか?」

ふいにアッシュがそう訊いた。

すると


「いるよ…。でも、みんなバラバラになっちゃったの。

みんな…別々の町に飛ばされて…れんらく、とれなくて…。」

そう言いながら、幼い瞳がわずかに曇る。

「アーシア。オレ達と一緒に来る?」

とアッシュは、手を差し伸べた。

「お兄ちゃん?」

言葉の意味が分からず、きょとんとするアーシア。

「あぁ、そういうことねw」とリーノアは、気が付いた。

「アーシア、オレ達と一緒に君の仲間を探しに行こう。」

とアッシュは、笑顔でアーシアに笑いかけた。

「でも、お兄ちゃん達、怒らないの?」

おそるおそる、女の子が訊いた。


「何が?」

「今降ってるこの雨。私の仲間が降らしているって知っても?」

と言い出す幼い女の子は、どこかおどおどしている。

「別に。いっつも晴れな空がある方がおかしいし、

たまにゃー雨が振ったっていいんじゃないかな?

ホントの俺らの居る現実の世界なんか、天気自体コロコロ変わるんだしさ。」

と笑い出すアッシュにうんうん。と頷いて笑うリーノア。

「それにアーシアは、まだ職業にも就いてないだろ?

狩場の森とかにでも入ったら、危険だぞ。」

とアーシアと目線を同じ位にして話すアッシュ。

「いいの…?いっしょにいても?」

幼い大きな瞳がアッシュとリーノアを見る。

「うん、いいんだよ(^^」とリーノアも笑顔で言った。

「ありがとう(^^」

そう言って2人に笑いかけるアーシアから不安は消えていた。


ミルレス町の宿屋…。

「雨…降ってきたな。」

窓に当たる雨の滴を眺めながら、ルークが呟いた。

「アッシュとリーノア、戻って来ないですね。」

コウリアは、不安そうに溜息をついた。

「大丈夫だよ。あの2人は、ムリしない方だし。

なにより今日みたいな雨の日は地面もそんなに安定してないから、

そんなに長時間も狩りは、出来ないよ。」

宿屋の窓から見えるのは、近くを誰かが走ったであろう足跡。

それは深く、通った者の足跡を浮き上がらせている。

「コウリア。2人が帰ってくるまでサラにでも行かないか?」

とルークは質問した。


「え?」

何故?と言いたげな顔のコウリア。

「あの2人の回復の度に、MP回復薬をいくら買ってもなくなっちゃうからね。

だから、MPを大幅に回復できる『りんご』を少しだけ買っておこうよ。

そしたら、普通のMP回復薬と併用でも2人の補佐は、できるよ。」

というルークに頷いて、コウリアは賛成した。

「でも、ゲートは?」

「実は、3つほど持ってる。」

とルークはアイテム入れの中からゲートを取り出して、コウリアに渡した。

「なるべく早目に戻りましょう(^^」

「了解!」

ルークとコウリアは、サラセンゲートを広げた。

2人の足元に魔法の文字が現れた。

その文字が消えた時…2人の姿は、その場から消えていた。


サラセン町…。

町中に2つの光が現れて…そして、光は収縮して消えた。

そこに現れたのは、ルークとコウリア。

2人がサラの町を見るのは、これが初めてだった。


「わぁー!すごぉぃ。」

コウリアは、驚きと今まで見たことの無かった町に着いたことの両方で感嘆した。

「コウリア、スゴイぞ。モンスターがお店をやってる。」

とルークも驚きを隠せない様子で店を指差した。

「でも…なんか大変そうだね。」とコウリアは、つぶやいた。


そう…本来ならいつもは、商売しまくっている彼ら店主が慌しそうに

店の周りや町を行ったり来たりしているのだ。

その原因は、雨だった。

雨の影響で、サラセンにはあまり人がおらず、商売はあがったり。

加えて。サラセンの地面は、水はけが悪い。

なので水溜りが出来やすく、地面が乾きづらい。

いつもなら、あんまり動かないだろう『リターンポイント』の『サイント』も

ぴょこぴょこ飛び跳ねて、せっせこ働いている。


「雨…ここにも降ってる。」

しとしとと、上から降ってくる水滴を見ながら、コウリアが呟く。

「ホントだ。」

とルークも上を見上げて気が付いた。

「とりあえず、果物屋さんに行こう。」

コウリアは、歩き出した。

ルークも後を追うようについていく。


果物屋

「あー。雨が降るだなんて、ついてないわねぇ。」

果物屋の店主こと『パンプキンヘッド』が一人でごちた。

「あのぉ・・・。」とルークは、声をかけた。

「あら、いらっしゃい。」とルークに気が付いたパンプキンヘッドが挨拶する。

「りんご下さい。」と言うコウリアを見て

パンプキンヘッドは、名案が思いついたらしい。


「そうだ、あんた達。私の仕事を手伝ってくれないかい?

ごらんのとおり今日は、雨。今、出してるこのお店も屋根の辺りに水がたまって

重くなってる。私もなんとかしたいんだが、見てのとおり、身長がないからね。

もちろんタダでとは言わない。何かお礼するからさ。」

と言われて、ルークはすぐに飛びついた。

コウリアは、落ち着いた様子で手伝うことにした。


「せーの!」とコウリアとルークの2人は、雨で垂れ下がった部分を押し上げた。

「ざばぁ!!」と屋根にのしかかっていた水はなくなり、

屋根は、元通りになった。


「…って訳で、お礼は?」と期待がちに訊くルークに

「さて、何のことだかねぇ?」とそらっとぼける果物屋の主人。

「あー、騙したなぁ!!」と怒るルークに

「甘いね。ここはサラセンだ。騙してなんぼの世界なんだよ。」

と言う果物屋の主人。


…ところが、コウリアは一人だけ冷静な様子で

「騙すのは、そちらの勝手です。でも、りんごだけは売ってくださいね。」

と普通に答えた。

「お前は、さっき言ったお礼とかには期待しないのか?」

と果物屋の主人がすかさず質問してきたが

「私はあくまでもりんごを買いにきたのであって、手助けしたとしても

見返りを求めるつもりは、ありません。」

ときっぱりと言い放った。

これには果物屋の主人も気合で負けたらしい。


「何個買う気だい?」

「30個ほど。」と言うコウリアに

「アンタには負けたよ。」と言うと果物屋の主人は、店の中へと引っ込んだ

「やったな、コウリア。勝ったんだよ。」と言うルークとは正反対に

コウリアは訳が分かってなかったようだった。


数分後…。

「ほら、これで30個だよ。」

「ありがとうございます(^^」

と笑顔で袋を受け取り、お金を払うコウリア。

ルークもお金を払ってりんごを30個買った。

そして、再びサラの銀行前に行こうと歩き出した時だった。

「なぁ、コウリアの袋…。なんかオレの袋より大きくないか?」

「え?」とコウリアは自分で持ってる袋を見た。

…確かにルークの持っている袋より、一回り大きい(汗

「オマケしてくれたのかもなぁ(^^」

とルークが笑った。


「そうかも(^^」

と言うコウリアの目の前にふいに何かが飛び出してきた!

「え?」と慌ててよけると、そこには幼い女の子が倒れていた。

「大丈夫か?!」と心配そうに言うルークに

「お腹空いた…。」と女の子は、気を失った。

「どうしましょう…。このままここに置いておくのは、危険ですし。」

「こうなったら、この子もミルレスに連れていこう。」

とルークはそう判断した。