第9話『雨』


アスガルド…そこは晴れの日が多い世界。

しかし、そんな世界の空に少しずつ雲がかかろうとしていた。


朝の8時ごろ

スオミの森の中…。

「ねぇ、クリス。空に雲が出てきたよぉ?」

ふっ…と何気なく空を見ていたレインがそう言い出した。

「雲?」

レインの言葉につられるようにして、クリスも空を見上げた。

2人の視界に入ってきた空はいつもの快晴ではなく、

白い雲に覆われた真っ白な空…。

「ね?」と言うレインに

「ホントね…。でも、この様子だと、まだ大丈夫そうだけれど…。

レイン、あと1時間狩ったら宿屋に戻りましょ。」

とクリスは、提案した。

「はぁーい。」とレインは、返事をした。

会話だけを聞いている分には、普通に思われるかもしれない。

ところが彼女達は、普通じゃなかった。

2人して組んでは、お互いのLvを相乗効果で上げてきたのだ。

その甲斐もあってか、5日でLv41にまで上がることが出来た。

ある意味、良いPTかもしれない。


ミルレス町…。

「…雨が降りそうだな」

と気が付いたのはアッシュかと思いきや…ルークだった。

「雨ぇ?まっさかぁ。ここは現実じゃないんだからそれはないよ。」

ケラリと笑ってアッシュが否定した。

「でも、曇ってる。」と空の様子を見て、コウリアが呟いた。

「んー、でも今はまだ問題ないから大丈夫ね。」

と笑って言うのは、リーノアだ。

「んー、狩り行くのはやめとくか?」

いつ降ってくるかわからないぞ。と言うルーク

「オレは行くよ。だってここは、現実じゃないから。濡れてもカゼひかんしね。」

とアッシュは、ケロリとして言った。

「アタシもーw」とノリのいいリーノアも賛成する。

「私は、ルーク同様遠慮しておくね」とコウリアは、反対した。

「んじゃ、行ってくらぁ!(^^ノシ」
「2人とも、宿屋にいてね。(^^ノシ」

とアッシュとリーノアは、ルークとコウリアに手を振り

森の方へと走っていった。

運命が…回りだそうとしていた。


ノカン村…。

「ルナスラッシュ!」

「えぐり!」

スキル詠唱の声が響くと共にノカンが次々と倒されていく。

マイスター・カイム・エララ・アシッドの4人は、ノカン村で狩りをしていた。

「雲行きが怪しいね」ふとカイムが天気の変化に気が付いた。

「え?あ…空が曇ってる」次に気が付いたのは、エララ。

「珍しいね。この世界は、天候も変わるんだ。」

レアな世界だな。とマイスターがボヤく。

「おかしいな。」

一人だけ…アシッドだけは、何かの異変を見るような目だった。


「何がおかしいの?」とすかさず訊いたカイムに

「普通、天候まで変化するネットゲームなんてそうそうないぞ。

そして、アスガルドももともと、天候の変化は仕様にないはずなんだ。」

と言い出した。

「なんだって?!」とアシッド以外の3人は、驚いた。

「ともかく静かに。今の話を誰かに聞かれたら厄介ですわ。」

落ち着いたのとほぼ同時にみんなを制したのは、エララだった。

「これに関してはログアウトした後に『不具合』としてご報告致しましょう。

むやみに吹聴して騒ぎを大きくしたら、大変ですわ。」

そう言われて3人は、納得した様子で頷いた。


…とその時。突然雨が降り出した。

「さすがだね。戦略家さん。」

クスクスと笑い声がしてやってきたのは、一見すると自分達よりも幼い女の子。

背丈の感じでも4人の背丈の半分ほどくらいな存在。

「雨を降らせたのは、あなたですか?」

「ええ、そうよ。」

エララの質問に怖がる様子もなく、笑顔で答える子供。

「雨を止めてください」

「イヤ。」

カイムの一言に女の子は、プイッとそっぽを向いて拒否した。

「なぁ、どうしたらこの雨をとめられるんだ?」

と訊いたマイスターの顔を見た途端に幼い女の子の顔が変わり…。

「お兄ちゃん、名前はぁ?」と陽気に質問しだした。

「人の質問にっ・・・」と言い返そうとしたマイスターに

「答えてくれたら、教えるよぉ。」と幼い女の子に言われて

マイスターは、二の句が出ないまま

「オレの名前は、マイスターだ。」

と内心悔しい気分で答えた。

エララ・カイム・マイスター・アシッド…。

彼らの前に現れた少女は一体何者なのか…続く