第9話


ミルレス町広場、夜・・・。

「タッタッタッタッ・・・・。」

夜のミルレス広場をクロスティアが走る。

少しして見えてきたのは、ミルレス町の門の手前にいるミルレスガイド。

「ガイドさん、ガイドさん!!」

慌てて突っ立ったまま、ウトウトしているガイドさんを起こす。

「なんだね、少年。」眠そうな雰囲気のガイドが訊いた。

「今すぐ森の近くまで送って!人の命がかかってるの!!」

とクロスティアは叫んだ。

「なんと!少年、行くぞ!!」

とガイドはクロスティアを森の近くへ転送した
クロスティアは、すぐさま走り出した。


ミルレス〜ルアス1の森の中

「森の中へ入っちゃったようね。でも、戻っちゃダメ!」

今はただ1つだけ。現実に帰りたいと願いながら死ぬコト。

ただそれだけ。それ以上もそれ以下も考えてはいけない。

マリエは、森の中へと歩き出した・・・。先へ先へと


その頃、マリエ達が飛び出した民家。

「オレもマリエを探すんだー!!」とダダをこねてるのは、イリューム

「イリュー。お前、さっきまでのヘロヘロ加減を考えろ。」

とイリュームをたしなめてるのは、アプサラス。

「んな、コト言ったって一応身内みたいなもんじゃんか!!
それに、あの様子だと、アイツ自殺図るぞ!!止めないと!!!」

ギャーギャーとうるさく騒ぐイリューム。

「イリューなら無茶しても行くだろうな。でも、守れるのか?
その疲れきった体調で。どうしても行くなら墓にしてでも止めるよ?」

冷たい一言でイリューの騒ぐ声がピタッと止まる。

「分かってるよ、無力なコトくらい。ふんっだ!」

とイリュームは、頭から布団をかぶった。

(やれやれ、困ったもんだ^^;)アプサラスは苦笑した。


ミルレス〜ルアス4

「ココまで来れば、あとはもう追ってこないはず」

息を切らしながら、マリエは入り口のすぐ右側の木によりかかる

「でも、不思議なものね。走って息がきれるなんて」

自分でも不思議に思っていた。

(ネットに生きるキャラクターなら、きっと息切れはないはず。

やはり、これは現実に体を持つからこそなのかな?)

マリエの中で疑問が浮かぶ。

(最後にみんなに「バイバイ」って言い忘れちゃったぁ。)

(・・・いっか。私はリアルなんだし、みんなは、キャラだし)

後悔も疑問も何もかもがどうでも良くなる。

(さて、覚悟を決めて死のうかな)

そう思った矢先・・・。


「待って!!」と声がした。

「?!」振り向いたマリエの近くにクロスティアがいた。

「どうやって追いかけてきたの?」
「糸が光って見えた」

そう言いながら、クロスティアは右手を開く
中指からかすかに光の糸のようなものが見える。

「他のみんなには、見えてなかったみたいだよ」

「そう。・・・実はね。私が最初にみんなと会ったのは、その糸のおかげ」

とマリエは話し始めた。

右手の指から出てきた糸の先を見て、みんなと会ったこと

みんなと会えて嬉しかったこと。

「でも、自殺なんかしちゃダメだよ。」

そうクロスティアに言われた途端、マリエは首を横に振った

「確かに自殺ではあるけれど。これしか方法がないの。」
「どうして?!」

クロスティアに問い詰められて、マリエはちょっと考えて

「私がこの世界に来た時にみんなと会ったことでこの世界とつながった。

そしてこの世界とつながってるものは、この『体』。

だからこの体が死ねば、みんなとのつながりは薄れて戻れるの」

「そんなの理解できないよ!」

マリエの言葉に反発するクロスティアに怒ったマリエは

「パシン・・・」とクロスティアの顔に平手打ちをした。

「・・・。」とボーゼンとするクロスティアに

「アンタは戦士でしょ?!戦士は冷静さを欠いたら命とりよ。

私だって好きでこの方法を選んだわけじゃないの!!

ただ、今は時間がないの!!・・・仕方がないのよ。いつか分かるわよ。

なぜ、私がこの方法を使うことにしたか。」

そう言うとマリエはナイトモスの集団に突っ込んだ。

自分の体の周りでナイトモスが容赦なく襲い掛かる。


「あ・・・。」

クロスティアの目の前で、マリエの姿はあとかたもなく消えた。

次の瞬間。クロスティアは剣を持っていた。
そして、周囲のナイトモスを次々と倒していく。


数十分後・・・足元に転がるナイトモスの死骸。

「う・・・あ・・・。」

泣いてるのか叫んでるのか分からない声・・・。

「・・・っ」

かすかにクロスティアは、泣いていた。
ただただ、声を押し殺して泣き続けた。

(Lv16なのに、僕は何にもできなかった。)

それは驕り。

(何も出来なかった!!)

それは、無力感。

(強くなりたい!!)

それは強さへの渇望。

今のクロスティアは、まさにさいなまれていた。