Please sing your name for me.[


 二時間ほど歩いたか。
 何度か別のパーティーと遭遇したが誰もまだ蒼竜を見つけてはいないらしい。

「そろそろ休憩しない?」
 命知らずなモンブリングとの戦闘もあり、緊張したまま二時間も歩けばさすがに疲れてくる。

「そうだな。少し休むか」
 万全の態勢で蒼竜に挑むには適度な休息も必要だろう。

「あっ、雨!」
 ぽつぽつと天から雫が降りてくる。
 タイミングが良いのか悪いのか、本格的に降り出しそうだ。

「とりあえず、あそこで休むか」
 俺は巨木に空いた洞を指差す。

 よく見ると樹形と相まって大きく開かれた人の口にも見えなくもない。
 まぁ、暗黒の森の樹木が人を食ったという話は聞いた事がない。大丈夫だろう。

 俺たちが洞の中に入ると共に、本格的に雨が降り出した。
 洞の中は、五人程度は入ることが出来るであろう広さに加え、乾燥していて案外快適だった。
 俺たちは壁に背を預け並んで座る。

「雨具忘れてないよな?」
 俺はバックパックから長靴を取り出した。

「うん。でも、なんか、寒い……」
 風が吹き始め、一気に気温が下がり始める。

 雨は横殴りの暴風雨になりつつあった。幸い、洞の入り口の方角が風下。雨が入り込むことは無い。
 しかし、寒さは着実に体力を奪っていく。

「こっちに来い」
 俺はプリスの肩を抱いてやる。
 彼女はこちらにもたれかかる様に身を預けた。
「暖かい……」

 暫くそうしていただろうか。
 プリスがぽつりと漏らした。
「私じゃダメなのかな……」
 俺は何も答えられない。

「アルの心はまだ全部あの人のものなんだね……」
 俺は何も――。

「私、待ってるって決めたの。いつまででも……。だけど――」
 俺は――。

「身体が邪魔。直接心に触れられればいいのに」
 俺は……。

「私があなたを癒してあげられればいいのに」
「俺は――」

 そのときだった。