Please sing your name for me.Z


 一週間はあっという間だった。

 狩りの準備を整えつつ、慣らしとしていくつかの狩場に赴いた。
 俺たち二人は抜群のコンビネーションを発揮し、危なげなくモチベーションを高めていった。

 そして今、俺たちはルケシオンの森を目の前にしている。
 森の入り口には、宿屋に居た数十人の歴戦の兵たちが再び集結している。

「いよいよだな」
 俺はプリスと共に集団の最前に陣取っている。

「うん」
 プリスは応えるが、その声が硬い。

「緊張しているのか?」
 見やると、緊張のためか体を強張らせているのが手に取るように分かった。

「だって……。ひゃっ!」
 プリスが小さく悲鳴を上げる。

「なにするんだよ!」
 俺が尻を軽く撫でてやったのだ。

「緊張をほぐしてやろうと思ってな」
 これくらいならルティアも赦してくれるだろう。
 だが……。うむ。いい尻だ……。

「でも、うん。少しは気が楽になったかな」
 そう言って少々ぎこちないが、笑みを浮かべる。

「だーけーどー。また同じ事したら、責任とってもらうからね!」
「ゴメンナサイモウシマセン」
「なんで片言かなぁ。しかも即答だし」
 プリスが眉根を寄せる。

「眉間。しわが出来るぞ」
「むっ!」
 慌てて眉間に手を当て、しわが出来てないか確認するプリス。

 ――ふと、我に返った。
 俺はこんなに明るい人間だったか?

 以前の俺は殺意と憎悪にまみれ、人間らしい感情なんてほとんど表面に出ることは無かった。
 ただ彼女のことと、敵を殺すことだけが俺のなかのすべてだった。

 俺は確実に変化している。
 きっとそれは師匠と、「F」の仲間と、そして、プリスのおかげなのだろう。

 だが――

 彼女を死なせてしまった罪は俺という存在そのものに深く刻まれ、償いはまだ終わらない。
 俺はまだ笑うことは出来ない。

 俺は――。

「どうしたの? 顔怖いよ?」
「……生まれつきだ」



 皆の前に団長が姿を現した。
 そして口を開く。

「今日、この戦いはマイソシアの歴史に永遠に残るものとなる――」
 団長の言葉に全員が身を引き締め――

「なんてことは考えないで気楽にやること!」
 たりはしない。……まぁ「F」は元々こんなもんだ。

「死ぬくらいなら逃げるように」
「はーい」
 俺の横でプリスが手を上げて応えている。

「それじゃあ、出発!」
『おおおぉぉっ!』
 そして俺たちは、昼なお暗い暗黒の森へと足を踏み入れた。


 要は簡単。
 各パーティー単位で森の最深部を隈なく探索。
 竜を発見しだい撃破、それが不可能ならば戦略的撤退後他パーティーと合流。

 つまり――

「贄として捧げるには最初に発見しないといけないのか……」

「アル。何か言った?」
「何でもない」
 俺は周囲を見回した。

 森に住むモンブリングたちが遠巻きにこちらを窺っている。
 彼らもまた地殻変動による環境の変化によって弱体化した種族のひとつだ。

 昔、――そう、俺がサラセンにたどり着く前だ――

 暗黒の森を旅していた俺は何度もやつらに殺されそうになった。
 だが、今はではその強さも見る影も無い。

 森は進むごとに暗さを増していく。そろそろ最深部だろうか。
 案の定、先頭を歩いていた団長が足を止める。

「ここからが本番だよ。――散開!」
 皆、声も無く散っていく。

「俺たちも行こう」
「うん」
 森はさらに暗さを増した。