Please sing your name for me.X


「今日『F』の中でもてだれの冒険者であるみんなに集まってもらったのは、他でもない。
 今回の仕事は魔物退治だよ」
 団長が食堂のカウンター前に立ち話し始める。

「みんなの記憶にもあるように、一ヶ月前、マイソシアは大規模な地殻変動に見舞われた」
 そう、マイソシアは今、激動の時代を迎えているのだ。

 人間の町への被害は少ないものの、地殻変動による大地震によって広い地域で地形が変わった。
 また、それにより魔物の生態系が変容し、多数の魔物が弱体化した。

 俺がルティアを失ったノカン村も地震に飲み込まれルアスの森の中に消え去り、
 生き残ったノカン達もその強さを減じている。

 また、その混乱に乗じ、
 それまで魔物に占領されていたサラセンの町を修道士たちが人間の手に取り戻していた。
 そしてあのネクロケスタの神官も殺されてしまっていた。。

「それによりディグバンカーの封印が破れて、かの古竜が地上に出てきたらしいんだ」

 団員たちの間にざわめきが起こる。
 神によりディグバンカーに封印されし二柱の古竜。伝説級の代物だ。

「ルアス森の奥では至高竜ハイランダーが目撃されているし、
ルケシオン森の奥では絶望の呪デスペラートワードの姿を見たって言う若い盗賊が何人もいる」


 俗に赤竜と呼ばれる古竜、至高竜ハイランダー。

 その俗称の通り真っ赤な体躯をした強力なドラゴンだ。
 その絶大無比な一撃は死そのものを体現するという。


 そして蒼竜、絶望の呪デスペラートワード。

 青く燃える超高温の吐息を吐き。一鳴きで強力な魔術を具現する。
 その名の通り、ただ鳴き声を聞いただけで人は死を覚悟するという。


「ルアス王はルアス騎士団を古竜討伐に向かわせることを決定した。
 だけど、ルケシオン森はルアスの領土じゃない。
 騎士団を向かわせれば戦が起こりかねない。そこで僕たちの出番なわけ」

 団長は一晩中ルアス王との会談に臨んでいたらしい。

「今回の仕事は竜退治だよ」
 団員たちのざわめきの中、俺はただその言葉に歓喜した。

 求めていたものが現れたのだ。
 古竜だ。神に最も近い至高の魂を持つ魔物。
 そう、それを贄に捧げれば――

 ネクロ神は彼女を復活させてくれるに違いない!



「で、私たちはクラウスたちと組むけど。あんたたちは本当に二人だけで良いわけ?」
 アストラが俺に心底心配げな視線をよこす。

「ああ。いや、むしろ俺は一人の方がいい。プリスを一緒に連れて行ってやってくれないか?」
「だめだよ! 一人でなんか無理だよ! 相手は蒼竜だよ!?」
 プリスは涙さえ浮かべて叫ぶ。

 団長は集まったメンバーを幾つかのパーティーに分けて、
 一週間後ルケシオン森の捜索を開始することに決めた。
 食堂はパーティー編成を決めるためにごった返している。

 師匠はエステルさんと二人だけで組むと言っているし、
 俺はプリス以外に気心の知れた人間は居なかった。

 戦闘のスタイルが分からない相手と即席でパーティーを組んでも逆に危険なだけだ。

「わかったから、泣くな。大丈夫だ。お師様からお墨付きを貰ったって言わなかったか?」
 俺はプリスにバンダナを手渡す。

「言った。けど……。団長だってエステルさんと二人だよ」
 プリスは涙を拭きながら、訴えかけるような視線をこちらに寄越す。

「ああ、だから俺はプリスと組む」
「本当?」
 彼女の上目遣いは強力な武器だ。
 見ると、ファナがニヤニヤとこちらの様子を眺めている。

「本当だ」
 俺は観念することにした。

「やったぁ!」
 さすがに皆の前で抱きつくのはやめてくれ……。