月の魔術師〜第二話〜


赤竜は,目の前の獲物(俺たちだ)に喜んでいるように見えた

「で?どうするんだい?レイク」
ルークが、注意を赤竜に向けたまま、俺に問い掛けてくる。

俺は、短い呪文を唱えると、光のたまを作り出した。
太陽に照らされた屋外とまでは行かないが、
視界内を照らすには、十分な明るさになっていることを確認してから、答える

「こいつが眠っていた場所まで誘い出せれば、俺でも再び眠りにつかせることはできる。
 だが、以前の騎士団の調査のときには、そんな場所は見つかっていないみたいなんだ。
 つまり、倒すしかないってことだな・・・・・」

「なら、とっとと倒すぞ。ルーク」
「あいあい」

いつもと変わらないサーディアンの声に、おどけた調子でルークが答える。

ルークは持っていた松明を投げ捨て、愛用のナイフを取り出し
何を思ったのか、セリスのほうを振り向く。

「セリス。俺が死んだら泣いてくれる?」
こんな時にふざけた事を言うルークに、セリスは,

「私の目の前で死んだりなんかしたら、
 あなたのお金を使ってルアスに家でも買うわ」
そう言って、極上の笑みを浮かべる。

「ちぇ。。。。折角貯めた金を,他人に使われてたまるかよ」
拗ねたフリをしてから、サーディアンと視線の合図を交わし、
2人で同時に突っ込んでいく。

そのとき、俺の呪文が完成する。

二人は漫才をしていたのではなく、俺の呪文の完成を待っていたみたいだった。
放たれた魔法が命中する瞬間、サーディアンとルークの絶妙の連撃が決まる。

何度の魔法が命中したか。
何度サーディアンと、ルークの攻撃が鱗を切り裂いたか。

身体中に傷を負いながらも、赤竜はまだ倒れていなかった。

サーディアンやルークも手傷を負わされてはいたが、
セリスの魔法で即座に傷がふさがる。

セリスは額に玉の汗をかきながらも、癒しの魔法を唱えつづける。

”そろそろ限界か・・・・”

魔法は万能ではない。
唱えれば唱えるだけ精神力や魔力を失い、下手をすれば命を落とすことさえある。

手傷を負わせているのだから,赤竜から逃げる事事態は,そう難しくもないだろう。
セリスに倒れられたりすれば,それも出来なくなる。

”そうなる前に,逃げるべきか・・・・・・”

そのとき、竜の尻尾が風を切った。

かわしきれずに、サーディアンとルーク、2人ともが壁に叩きつけられる。
そして竜は、セリスに向かって突進をはじめた。

”まずい!!”

慌ててセリスのカバーに入り、唱え終わった呪文を解き放つ・・・・

(お師匠様〜〜〜?)

胸元のペンダントが光り、気の抜けた子供の声が聞えたのはその瞬間。
いきなりの事に集中が乱れ、放った魔法は竜を大きくそれて天井へ。

迫り来る竜の尻尾を逃れようと後ろに飛びのくと、
サーディアンとルークが背後から竜の身体を切り刻む。

ギャ〜〜〜〜〜〜〜〜!!

悲鳴をあげた竜が倒れるのと、
魔法の当たった天井が崩れ落ち、倒れた竜を埋めるのは同時だった。

「ひゅ〜〜〜〜。まさか狙った?」
ルークが汗を拭きながら、近づいて来る。

俺はそれには答えないまま、光り輝くペンダントを取り出す。
自分でも、こめかみが引きついているのがよく分かる。
大きく息を吸うとめいいっぱいの声量で叫んだ。

「いきなり何て事してくれるんだ!!」

(いきなり何て事してくれるんだ!!)
いきなり大声で怒鳴られて、思わずペンダントを遠ざけた。
黄色の光を放つペンダントは、少し前にお師匠様がくれた物。

簡単な儀式を施すと、同じ時に儀式をしたペンダントを持つ人と会話が出来るとか。
PTを組む冒険者は、お互いに連絡を取るためにこれを使うらしい。

いくつかの魔法は、このペンダントを持っていると、
PTみんなに効果を与えれる物もあるって言ってたかな?

私が持ってるこれはお師匠様と会話ができるんだけど・・・
(お前のおかげで、俺は死ぬとこだったぞ!!)

「どうしたの?ルーシアちゃん」
お師匠様の声が聞えたのか、綺麗な女の人が近づいてくる?

「わかんない・・・いきなり怒られた・・・」
この人はお師匠様の知り合いで、名前はサリーさん。

この人も魔術師で、今は出かけているお師匠様の代わりに、
私に古代語を教えてくれている。

「ちょっと貸してみて?」
言われるままに、私はペンダントをサリーさんに手渡した。

(どうかしたの?)

ペンダントから聞える声が、別の女性のものに変わった。
「あれ?これサリーの声じゃねぇのか?」
横から首を突っ込みながら、ルークがペンダントを指差す。

(ルーク?あたり、サリーよ。
 で、何かあったの?レイクがすっごく怒ってたみたいだけど・・・・)

「ルーシアがいきなり声なんてかけるから、集中が乱れて魔法失敗したんだよ。
 危うく赤竜に殺されるとこだよ」

暫くの沈黙・・・・・・

(・・・・・うそ!!)
ペンダントから聞えたサリーの声は、洞窟中に響き渡った。

(ねぇ、どれくらいの大きさだった?瞳の色は?
 爪の大きさは?どんな物食べてた?歯に何か挟まってない?
 牙の一本や,鱗の一枚でも持って帰れない?あと、ほかには・・・)

「ちょっと待て!!
 姿とか、出会った場所とかは帰ったら俺がレポート書くから。
 後、牙とかは回収不可能。崩れた天井に、完全に埋まっちゃったからな。
で、一ついいか?」

放っておけば、いつまででも続きそうなサリーの声を遮って、俺は言った。

(なに?)

不思議そうなサリーの声を聞いて,俺は一つ深呼吸をする。

「俺が赤竜に殺されそうになったって聞いて,
 心配より先に,竜の事を楽しそうに聞くか?普通・・・」

(だって,こうして話してるってことは、無事だったんでしょ?
 だったら心配要らないじゃない。セリスもいるんだし。
 それより,レポートちゃんと詳しく書いてよ?
 生きている竜を見れるなんて,滅多にないんだから。
 それと,牙とかの回収,どうしても無理?なんとかならない?)

”そういえばサリーって、モンスターの生態調査が趣味だったな・・・”

俺は溜息をつくと,ペンダントに話し掛けた。
「回収は無理だな・・・・騎士団総出で発掘をするならともかく・・・・
 レポートは,できるだけ詳しく書くって約束するよ。
 俺たちは,竜が封印されてた場所を探して,そこを調べてから戻るって、
 ウェルナ様や,他の神官長様には伝えてくれるか?」

(う”〜〜〜分かった,伝えとく。
 発掘も掛け合ってみようかな・・・・それじゃ,気をつけてね)

「ああ・・・それまでルーシアをよろしくな」
ペンダントが光を失い,通話が終わった事を示す。

再び溜息をついて顔を上げると,

そこには,あっけに取られた3つの顔があった・・・・・