暁の魔術師〜第7話〜


「お師匠様〜〜〜」

私は、セリスさんに聞いた通りの場所にきていた。
そこで、私はおもわず足を止めてしまった。
目の前の光景に、言葉を失ってしまう私。

”え〜〜〜〜っと・・・・何がどうなってるんだろ・・・・”

なんとなく、ボーっと眺めながら、立ち止まっていると、
いきなり肩を叩かれた。

振り向くと、お師匠様の仲間の、サーディアンさんが立っている。

「ルーシアちゃん、こんなとこでどうした?」
「えっと・・・・お師匠様探しに来たんだけど・・・・」
落ち着いた声で、話し掛けてくれるサーディアンさんに、私は言った。

「あ〜〜〜・・・・でも、レイクの奴取り込み中だしな・・・」
頭を掻きながら、私がさっきまで眺めていた方を向くサーディアンさん。

私も釣られて、そっちを向く。

”取り込み中なのは、一目瞭然かな・・・・”

視線の先には、多くの騎士たちが、輪を作っていた。
騎士たちの視線は、その輪の中にいる二人に向けられている。

で・・・・・2人が何をしているかというと・・・・・

”戦ってるようにしか見えないんだけどなぁ”
サーディアンさんを見上げると、私の視線に気づいた彼が、事情の説明をしてくれた。

彼曰く・・・・・

お師匠様が、何かの実験したいからと、その部屋に入っていって、
少しの間は何もなかったらしい

けど、突然隣りの部隊戦の練習場から、すさまじい冷気が吹き込んできた。
慌てて、様子を見に行くと、

苦笑を浮かべて、”あははは”って笑ってるお師匠様と、
怒りに燃えた、騎士団長のフェリア様(今お師匠様と戦ってる人らしい)がいた。

そして、フェリア様は、場所を移すと、”いつものお仕置き”をはじめたらしい・・・・

”なんでお仕置きが戦闘なの??”

ふと、お師匠様たちに視線を戻すと、
さっきまで素手だったのに、フェリア様は、木刀を手にしている。

それも二刀流・・・・・

「実は、あのフェリア様、
 俺の剣の師匠でもあるんだが、
 レイクにとっては、格闘術の先生だったんだよ」
話し始めるサーディアンさんの方を振り向く私。

「で、あいつが悪戯とかするとな、
 ”お仕置き受けたくなかったら、私に勝ってみなさい!”
 って、スパルタ方式の格闘術の訓練になってたんだよ。
 まぁ・・・・俺とレイクにとっては、その”訓練”が、お仕置きだったんだけどな。
 レイクの奴・・・・・・素手の時に殴り飛ばされてればいいものを・・・」

いきなり変な事を言う、サーディアンさん。

もう一度、お師匠様のほうに視線を向けると、

木刀から、槍に持ち替えたフェリアさまがいた・・・・・

「あれ、練習用のじゃなくって、本物だな・・・・」
鋭く光る槍の先を見つめながら、いつもの冷静な口調で言うサーディアンさん。

”それって、訓練って言わないんじゃ・・・”
頭ではそう思っても、迫力に押されて、私は何も言えなかった。

”まじかよ・・・・・・”
冷や汗が流れるのを実感しながら、俺はフェリア様と対峙する。

フェリア様の怒りの形相を見たときから、”押しおき”は覚悟してた。

いつもの事だと諦めて、素手での格闘に入ると、
なんとか、フェリア様の拳をかわし続けた(反撃なんてする暇はなかったけど)。
少ししたら、木刀を拾い上げるフェリア様。

これもまぁ、”押しおき”がエスカレートすると、稀にあることだ。
それも、ぎりぎりでかわし続けていると、

フェリア様は、周りにいた騎士に”槍ッ”と声をかけた。
声をかけたれた騎士は(迫力に押されてだろう)言われるまま、練習用の槍を渡した。

その槍を見たフェリア様は、即座にその槍を捨てた。

怪訝そうな顔をする騎士に、”私のランスだ!!”というフェリア様。
さすがにまずいと思ったのか、躊躇する騎士様。

しかし、フェリア様に睨まれて、すごすごと、彼女の槍を差し出す。

で・・・・今の状況なわけだけど・・・・・

「1つ聞いてもよろしいですか?」
対峙したまま、俺はフェリア様に問い掛けた。

「何?レイク」
案外あっさりと、声を返す彼女。

「今、あっさり答えてくれたので、確信したんですけど。
 もう、怒ってないんじゃありません?」

昔から、よく怒られてた。
今回みたいに、お仕置きをされたことも多々ある(本物の槍は初めてだけど)。

そんな時、フェリア様は、機嫌が治ると、
顔は怒ったままでも、優しい目をして、傷の手当てをしてくれた。
今の顔が、そのときの表情そのまま・・・・

「怒ってないわよ?もう」
「じゃぁ、何で、本物の槍なんか持ち出して、続けようとするんですか?!」
さらっと答えてくれた彼女に、理不尽を感じて、俺は叫び返す。

けど、身体は、臨戦体勢のまま・・・・
騎士団長をしているフェリア様の構えには、微塵の隙もなかったから・・・

「なんとなく・・・ね。
 強いて言えば・・・・あなたの今の、本当の実力が見たくなったのかな?
 本当の実力見るためには、こっちが手加減しちゃダメでしょ?」

たしかに・・・・・

騎士の本来の武装は、素手でも、剣でもなく、”槍”。

「じゃぁ・・・・・俺も魔法使っていいんですか?」
俺の問いに、静かに頷くフェリア様。

フェリア様のお仕置きのときには、今まで、魔法を使ったことはない。
今回だって、ずっと体術だけでかわしてきた。

”なんでこうなるかな・・・・・”
深い溜息をついて、俺は、精神を集中させる。

「そろそろ・・・・行くわよ」
静かな彼女の言葉とともに、空気が緊張を帯びる。

「はぁ!!」
気合の声とともに、彼女が突進してくる。
呪文を唱えながら、身体をひねる俺。

しかし、槍先は、わずかながら、わき腹をえぐるコースに乗っていた。

周りの誰かが、”アッ”と声をあげたが、
俺の身体に届く寸前に、槍先がそれる。

直前に完成していた”障壁”によって、軌道がそれた。
俺は、槍を振りきり、がら空きになった彼女の腹部に、手のひらを差し込む。

手の中には、ウインドブレードによって生み出した風の渦。
だが、俺の攻撃も、直前に手首を握られて、方向を変えられる。

解き放った魔法は、目標をそれて、床を打つ。
俺の手首を握ったそのままで、フェリア様は、槍を振るう。

突くのではなく、その腹で、俺を打ち据えるように。
槍が打ち据えたのは、光のみだった。

手首を握られ、かわしようがない状態から、
俺はいつの間にか、光を纏って、フェリア様の間合いの外に立っている。

再び、構えをとる、俺と、フェリア様。

ココまでが、ほんの一瞬・・・・

「何をしたの?レイク
 ウィザードゲートとは違うみたいだけど?」

構えを崩さぬまま、優しい声で質問するフェリア様。
俺も、構えを解かないままで、それに答える。

「俺が昔から、魔法のアレンジが趣味なの知ってるでしょ?
 ウィザードゲートのアレンジ版です。
 ”テレポート”とでも呼びましょうか。
 視界の範囲内に、瞬時に飛ぶ事ができる魔法です。
 ま・・・・・完成したのは、昨日なんですけど」

俺の答えに、かすかに微笑むと、フェリア様は、笑みを消した。
騎士団長。王宮騎士を束ねる任を帯びた、国を護る騎士の顔になる。

「すごい・・・」
私は、2人の戦いに、おもわず見とれていた。

少しの間、何か喋っていたけど、
それが終わると、また、二人は戦いをはじめた。

相手の攻撃をかわし、そして、相手に攻撃する。

槍の穂先が、お師匠様の頬をかすめて、
風の矢が、フェリア様の服を切り裂く。
お互いが、ものすごく疾くて、そして、踊っている様にも見えた。

「確かに凄いが、勝つのは・・・・」

サーディアンさんが言った瞬間。
2人の動きが止まった。

間合いをはずすために後ろに下がったお師匠様の喉元に。
瞬時に伸びた、槍先が突きつけられている。

お師匠様が槍先を軽くずらしながら、”参りました”というのを聞いて、
私は、お師匠様の元に走っていった。

「スラストスピアの射程、見誤ったなぁ」
俺は、フェリア様を見つめながら、苦笑を漏らす。

「何いってんの。
 あなたが大技使ってたら、私が勝てたかどうか分からないわよ」

「大技なんて使って、かわされでもしたら、周りのギャラリーの誰かが死んでますよ
 それに、大技が命中するなんて、思えませんでしたからね」

これは本音だった。
フェリア様の動きがあまりに早くて、命中させる自信はなかった。

「それにしても、腕を上げたわね、レイク。
 たいしたものよ」
そう言って、透き通った極上の笑みを見せてくれるフェリア様。
俺は、自分の顔が赤くなるのを自覚していた。

そこへ、

「お師匠様〜〜〜〜〜!!」
元気のいい声とともに、走り寄ってくるルーシア。

そのほうへ、向き直ると、
走る勢いはそのままに、ルーシアは、俺に飛びついてきた。

「すごい!すごい!
 すっごく感動しました!!」

そう言って、俺に抱きついて放そうとしないルーシアを、
俺は優しい目で見つめていた。