暁の魔術師〜第8話〜


私は、お師匠様と並んで歩きながら、さっきの戦いのことを話してもらっていた。

どうして、あんな風に動いていたのか。
アイスアローや、ウインドアローなんかの弱い魔法を使ってたのはどうしてか。
お師匠様は、廊下を歩きながら、説明してくれた。

「魔術師って言うのは、
 オーブを持つとは言っても、基本的に素手だろ?
 だから、接近されると、身を守る術というのはないんだよ。
 相手の攻撃を受け止める事はできない。
 だから、相手からできるだけ離れる。
 弱い魔法を使うってことは、
 詠唱によって生じる隙をなくすためさ。
 強い魔法ほど、詠唱が長いことはお前にも分かるだろ?」

私は、お師匠様のほうを見ながら、いちいち頷いていた。

・・・・・・・何度かこけそうになりながら・・・・・・

「詠唱の短い、弱い魔法を使って、
 相手の隙を探す。
 足止めに使って、距離をとる・・・なんて使い方もあるな。
 距離を置けば、
 その分、詠唱をする事も、集中する事もできる。
 そうしたら、強い魔法を使って、相手を倒すってこともできるからな」

「じゃぁ、何でさっきは、強い魔法使わなかったんですか?
 距離を置いてた時もあったのに・・・・・」

私が横で見てて、詠唱の時間があると思ったときもあった。
なのに、お師匠様は、それをしなかった。

「ああ・・・・・あれはな、
 フェリア様の動きが速すぎるからさ。
 あれだけ早いと、詠唱する時間なんて、ないと思ったし。
 もし詠唱できて、魔法を打てたとしても、
 かわされてしまえば、周りで見ていた騎士の誰かが怪我をするだろ?
 だから使わなかったのさ」

「そうなんだ・・・・・・」

「とりあえず、お腹すいたし、飯にでもするか」
いつの間にか、食堂の前まで歩いていた。

私も、お腹がすいていたし、”ハーイ”といって、中に入っていった。

お師匠様と二人で、テーブルについて、食事をはじめると、
セリスさんと、サリーさん、そして、騎士団長のフェリア様が入ってきた。

フェリア様が、
「ご一緒してよろしいかしら?」
といって、席につくと、後の2人も、テーブルにつく。

「聞いたわよ〜〜
 鍛錬場、氷付けにしたんですって?」

「誇張しすぎだ」
面白そうに言うサリーさんに、お師匠様は、憮然として答えた。

「まぁ、似たようなもんよね。
 吹雪起こして、一面の銀世界にしてくれたんだから」

「あ・・・いや・・・その・・・・
 さっきも謝ったじゃないですかぁ」

しどろもどろになりながら、言い訳をしているお師匠様は、
さっき、あんなにカッコイイ一騎打ちを演じだ人とは思えなかった。

「鍛錬場の後始末は、騎士団でやっとくわ。
 けど、その代わりに、1つ依頼引き受けてもらうわよ?」
「なんですか?」

ニッコリと笑いながら言う、フェリア様に、お師匠様は、ちょっと気圧されてるみたい。

「簡単なことよ。
 今度、傭兵ギルドや、盗賊ギルドなんかもひっくるめて、
 所属者の弟子たちの訓練成果を試すって名目で、
 スオミダンジョンの探検を、王宮が企画してるのは知ってるわね」
「知ってるも何も・・・・言い出したの宮廷魔術師ですし」

頷きながら、答えるお師匠様。
私には、何の事かさっぱり・・・・

「さすがに弟子たちだけじゃ心許ないってことで、
 護衛をつけることになってるけど。
 それの護衛チームに、あなたも入りなさい。
 騎士団からは、新規に騎士に昇進した者を1人。
 司祭団からは、セリスが護衛チームに参加します。
 カルディス様の了承はもう得ているから、拒否は認めません」

「何だ、そんなことか・・・・・」
ビックリして損したとばかりに、食事に戻るお師匠様。

「あれ?いつものあなたなら、面倒だって断るのに・・・」
逆に、ビックリしている、フェリア様。

あ・・・・・・セリスさんも同じ顔してる。

「だって。
 命令されるまでもなく、俺もついて行くつもりでしたし。
 出発は、今月の半ばでしょ?
 それまでには、ルーシアが、魔術書解読しそうだから、
 ルーシアも参加させるつもりでしたからね」

フォークをピコピコ振りながら説明しているお師匠様。
あれ・・・・なんか忘れているような・・・・・・・

「解読したら・・・って
 ルーシアちゃん解読しちゃったんじゃないの?」

「へ?」
セリスさんの言葉に、フォークを止めて聞き返すお師匠様。

「あ〜〜〜〜〜〜〜!!
 それを忘れてたんだ!!」

私は、大声を上げてから、かばんの中をごそごそとし始める。
お師匠様が、不思議そうに覗き込んでいるけど、今は無視。

「そのためにお師匠様探してたんだった・・・・
 あんな凄い戦い見たから、すっかり忘れちゃってた・・・」

喋りながら、カバンを探っていると、目的の物がみつかった。
それを、ニッコリ笑いながら、お師匠様に渡す。

「何だ?これ・・・・」
言いながら、お師匠様は、そのメモを読んでいく。

「げ・・・・マジで解読してやがる・・・・」
私が手渡したのは、お師匠様に貰った魔術書を解読したメモ。

「これで、連れてって貰えるんだよね♪」
私がニッコリというと、お師匠様は、呆然と頷いてくれた。


次の日、私は1人で練習場にいた。
昨日お師匠様が戦ったところではなく、魔術師の練習場。

壁や床、天井には、
少々の魔法では傷つかない”ミスリル”という金属を使っていて、
魔法の練習をしたせいで、部屋が壊れないようにしてある。

そこで、私はうなっていた。

昨日の夕食の時に、
お師匠様に、スオミダンジョンへ連れてってもらえることになったけど、
それまでに、”アイシクルレイン”を覚えるように言われた。

それで練習しに来たんだけど・・・・・

「え〜〜〜ん。呪文覚えられないよ〜〜〜」
私は、床に座り込んで、途方にくれていた。

「なんじゃ?今日は魔法の練習か?」

頭の上から聞えた声に、首をそらして、上を向くと、
私の背後から覗き込む、カルディス様がいた。

「解読した魔法覚えなさいって言われたんですけど・・・・」
急いで立ち上がりながら言う私。

「呪文が覚えられないか」
さっきの独り言が聞えていたのか、カルディス様は、愉快そうに笑う。

「これ覚えないと、ダンジョンに連れて行ってもらえないかも・・・・」

うつむいて、なんとなく悲しい気持ちになっていた私に、
カルディス様は、ニッコリと笑って言ってくれた。

「それじゃ、わしが練習を見てやろう。
 わしと一緒に呪文を唱えなさい」

目標にしていた、木の人形に向かって、呪文を唱え始めるカルディス様。
私も慌てて、カルディス様の真似をした。

「ねぇ。私に用ってなに?」
俺の隣りを歩いているサリーが、問い掛けてくる。

「ちょっと買い物に付き合ってくれるか?」
言いながらも、王宮の門をくぐって、ルアスの街に歩き出す。

「買い物って、あなたの?」
不思議そうな顔をしながらも、ついて来てくれるサリー。

「俺のじゃないから、おまえに頼んでるんだろ?」
俺は、笑いながら、サリーに答えた。

「今日は疲れた〜〜〜〜〜」
私は、自分の部屋のベッドに倒れこみながら呟いた。

「でも、よかった〜〜〜。
 おじいちゃんが手伝ってくれなかったら、もっと大変だったろうな」

あの後、カルディス様に教えてもらって、
アイシクルレインは、なんとか使えるようになった。
ついでだからと、他の魔法の事も教えてもらって、
いろいろとお話していた。

その間、ずっと、”カルディス様”って呼んでたら、

”そんな堅苦しい呼び名せんでもいい。
 わしのことは、おじいちゃんとでも呼んでくれんか?”

そう言われて、私は、カルディス様のことを、”おじいちゃん”って呼ぶことにした。

”おじいちゃんが冒険者だったころのお話をいろいろしてくれて、
 すっごく楽しかったな”

そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞えた。

「はーい」
私が答えると、ドアの外から、

「ルーシア、入ってもいいか?」
そう問い掛ける、お師匠様の声が聞えた。

私は、ベッドから飛び降りると、ドアを開けて、お師匠様を招きいれた。

私はベッドに、お師匠様は、近くの椅子に座ると、
お師匠様が、ニッコリと笑いながら、話し掛けてきた。

「今日、カルディス様に、魔法見てもらったんだって?」
「うん。昔話もたくさんしてもらって、楽しかった」

「そっか、アイシクルレインも覚えれたらしいし、
 魔術書も、ちゃんと解読したし。
 これは、俺からのプレゼントだ」
そう言って、手の持っていた結構大きな紙袋を渡してくれる。

「開けてみな」
私が視線で問い掛けると、お師匠様は、ニッコリとそう言ってくれる。

私は、袋の中身をベッドに広げた。

中に入っていたのは、
綺麗なオレンジ色をした、ローブと。
それとお揃いの、オレンジ色のピエロ帽子。

「すご〜〜い」
私が見とれていると、お師匠様は、ポケットの中から、
手のひらサイズの黒い物体を取り出した。

「これは、俺が昔使ってたものだけど、
 もうお前には扱えるはずだからな」
そう言って、私にそれを手渡してくれる。

私の手の上で、羽が生えたみたいに浮かび上がるそれには、
金色の目玉がついていた。

「これ知ってる!!
 ゴーストアイズっていうオーブだ!!」
浮かび上がったオーブは、淡い光を放ちながら、ゆっくりと上下していた。

「お前も、結構力がついてきたからな。
 それくらいの装備してないと、様にならないだろ?
 ダンジョンに行くときには、それを使えばいいよ」

「ありがとうございます!!」
お師匠様に礼を言うと、


私は、プレゼントしてもらった服と、帽子、

そして、オーブに、

いつまでも見入っていた。