月の魔術師〜第5話〜


体を包んでいた光が薄れる。
目の前がはっきりしだすと、周りの景色は一変していた。

ついさっきまでいた、ダンジョンの奥深くの薄暗い通路ではなく、
夕日に照らされる木々と、赤く染まった、ルアス城・・・

瞬間移動の魔法、ウィザードゲートを使って、俺たち4人は、
ディグバンカーから、ルアスへと帰還していた。

出現したのは、見慣れた、城の中庭・・・・
しかし、そこに普段は見ないものがあるのに気がつく。

完全武装をして、整列している騎士団の面々。
それも、人数からして、全ての騎士が集められているのではないだろうか・・・・

理由が分からず、俺たち四人は、顔を見合わせる。

「なにがあったんだ?いったい・・・・」
最初に口を開いたのは、ルーク。

だが、俺たち余人の中に、その言葉に答えられる者はいない。
どうしていいか分からずに、騎士団を眺めていると、
城からは、他の一団が現れる。

盗賊ギルドの面々。
傭兵団の面々
修道士の面々。
聖職者の面々。
そして、俺も所属している、宮廷魔術師の面々。

その全てが、普段見ることの少ない、完全武装をしていた。

「どっかの馬鹿が、クーデターでも起こしたか?」
ふざけた事を言うルークに

「大掛かりな、盗賊狩りかもな」
俺も冗談で返す。

そうしているうちに、部隊が全てそろったのか、騎士団長が、それぞれに、指示を与えていく。

「レイク!!」
声の方を振り向くと、そこにはサリーの姿があった。

ルーシアの教育係を頼んでいたのだが、ルーシアの姿はない。
取り乱した様子のサリーに、不安を覚えながら、俺は尋ねた。

「どうしたんだ?こんな騒ぎ・・・・
 なにがあった?」
「サラセンの方から、パンプキン族の大群が、
 この町に向かっているって情報が入ったの!!
 それの討伐のために、王様が、全軍の出動を・・・」

なるほど・・・・それでこんなに大掛かりな・・・・

「それに、ルーシアちゃんが森に行っちゃったみたいなの!!
 ウェルナ様に報告に行って、パンプキン族のことを聞いて、
 それで、ルーシアちゃんの所に戻ったら、こんな書き置きが!!」

渡された書き置きには、ルーシアの癖のある字で、

ちょっと力試しに森に行ってきます。
暗くなる前に帰るから、心配しないでね
と、書かれていた。 「ルーシアちゃんは、パンプキン族のことを知らないの!  もしも、森であいつらに会ったら・・・  私が目を離したせいで!!」 そう言って、泣き崩れるサリーの方に手を置くと、 「お前のせいじゃない、それに、まだパンプキン族に出会ったと決まったわけじゃないんだ。  サリーは、城にルーシアが残ってないか、もう一度探してくれ。  森へは、俺たちが行く」 サリーが頷くのを確認してから、俺は仲間に向き直る。 確認するまでもなく、仲間たちは、静かに頷いてくれた。 ”無事でいろよ!!ルーシア!!” ”一体何匹倒したかな・・・” そう思いながら、私は呪文を唱えつづける。 最初のうちは、逃げようと走っていたけど、 周りは、たくさんのモンスターに囲まれていた。 かぼちゃに手足の生えた、”ゴアーパンプキン” 血のついたナイフを持った、”サイコパンプキン” 次々に倒してはいるのだが、数が減っているようには思えなかった・・・ ”お師匠様に怒られるな・・・” お師匠様は、敵わない相手から逃げるのは、冒険者としての鉄則だと、 いつも言っていた。 逃げ延びれば、危険を知らせることもできる。 そして、死んでしまえば、それっきり何もする事が出来ないから・・・・と。 だんだんと息も上がってきた。 魔法を立て続けに打っているのだから、疲れて当然だけど・・・ 迫り来るサイコパンプキンたち・・・・・ ”呪文が間に合わない!!” 思った瞬間、空が赤く染まり、無数の石が降り注ぐ。 それらは、狙いたがわずに、モンスターの頭を砕いていた。 俺たちは、森も駆け抜けていた。 モンスターとであっても、道をふさがれない限りは、無視して進む。 ”・・・・・・・・” 何か聞えたような気がして、立ち止まる俺に、 怪訝な顔をして、集まってくる仲間。 「今、声が聞えなかったか?」 「俺は聞えなかったが?」 「私も・・・・気がつかなかったけど・・・・」 不思議そうな顔で、答える、サーディアンと、セリス。 ”気のせいか・・・・・” そう思った俺の耳に、 ”・・ランス・・・” 今度は聞き違いじゃない!! 「ルーシアの声だ!!」 かすかに聞えた声を頼りに走り出す俺。 その後を、仲間たちも続いて走る。 森の奥に炎が見える。 明らかに、ファイアウォールの火炎・・・ サーディアンは剣を抜き放ち、 ルークは、鞭を手にする。 セリスが守護の魔法を唱え、 俺は、呪文の詠唱を・・・・・・・ 空が、赤く染まる・・・・・ 俺たちがその場にたどり着くと、 視界に入る敵は、サイコパンプキンが数匹・・・ 無言の連携で、 サーディアンの剣と、俺の魔法・・・ そして、インビジで姿を消したルークの鞭が、敵をなぎ倒す。 戦いが終わり、振り向くと。 そこには放心したように座り込むルーシアと、見慣れた人影・・・ 「師匠」 俺が言うと、 「カルディス様・・・」 セリスは、相手の名前を呼び、サーディアンは無言のまま、 それぞれ、慣わしどおりの敬礼をする。 ルークは・・・・嫌な人に会ったとばかりに、顔をしかめたけど・・・ 「さすが師匠ですね・・・・  久しぶりに見ました、師匠のメテオ。  そして、ありがとうございます。ルーシアの事を救ってくれて」 そう言って、俺が頭を下げると、ルーシアが、 「え?カルディス様って、宮廷魔術師の?  おじいちゃんが?」 「こら!!」 失礼な態度を取るルーシアに、俺が思わず声をあげると、 当の本人は、笑って手を振る。 「かまわん、レイク。  ルーシアちゃんか。  ちゃんと修行をすれば、レイクやわしを越えるかもな」 言って、ルーシアの頭をなでる。 ルーシアは、ビックリしたのと、誉められたので、照れたように笑う。 さっきのメテオを見て駆けつけたのか、騎士団の面々も到着した。 「カルディス様でしたか・・・・」 言って敬礼をする騎士団長。 「そんな事をしている暇があるのか?」 言って、師匠が指差す先には、再び現れたパンプキン族の大群。 「師匠、ルーシアを頼みます。  ルーシア、師匠のそばを離れるんじゃないぞ」 言って、俺は、部隊の先頭に立つ。 横に並ぶのは、ルークと、サーディアン、そして、セリス。 後方から、魔術師たちの放つ爆炎がとどろく中、 俺たちは、敵に突っ込んでいった。