月の魔術師〜第4話〜


「ここか・・・・・・」

俺は、薄暗がりの中にいた。
それも当然だろう。

今いる場所は、地上からは遠く離れた場所。
ダンジョンの奥深くにいるのだから。

あたりを照らすのは、仲間の持っている小さな松明一つだけ。
周りを取り巻く闇を、完全にはぬぐいきれていなかった・・・・

「さっきの奴の犠牲者だな・・・・」
静かな声に振り向くと、しゃがみこんで、何かを見つめている大男が目に入った。
彼は戦士のサーディアン。俺のPT仲間だ

”竜と出会って、それ相応の準備をしていなかったら、勝てるはずが無いだろう・・”

勝てない敵だと見抜く力、そして、その判断から、すぐに退却ができる事。

それが、冒険者にとって、大切な物だと教えられ、
そして、それが正しいと思う俺には、”犠牲者”に対しても、冷めた感情しかわかななかった。

そんな俺の横を、白い服を来た女性が通り過ぎていく。
高位の聖職者のみが着ることを許されたローブ。

彼女は、犠牲者のそばによると、祈りの言葉をささげ、印を切る。
祈りをささげる言葉は、かすかにかすれていた・・・・

”セリスはあれでいいんだよな・・・
 聖職者になるべく生まれたような女性だから・・・”

聖職者に求められるのは、癒しの力だけではない。
命を尊び、それを守ろうとする気持ち。

はかなく散ってしまった命に対して、謝罪をこめて、涙を流しているのだろう・・・

「こいつは・・・・・」
音もなく、俺の隣に立っていた男の声に、顔を向ける。
ルークというのが、彼の名だ。
盗賊としての訓練を積んでいる彼は、普段から、無音で歩くことを苦もなくやって見せる。

「どうかしたのか?」
問い掛ける俺に顔を向けないまま、彼は言う。

「知り合いだ・・・・ギルドのな」
普段陽気な顔しか見せない彼が、今は苦渋に満ちた顔をしている。

「どうしてそう思うんだ?」

顔を見れば、同じギルドの一員ならすぐさま分かるだろう。
だが、この犠牲者たちでは、普通なら知り合いでも誰か判別できないはずだ。

あたりにあるのは、かろうじて”人間であった”と分かる程度の、

切り裂かれた肉片・・・引きちぎられたかのような腕や足・・・・・
そして、真っ黒な炭と化している体・・・・・・

彼は、犠牲者たちの持ち物と思しき道具の数々を指差しながら、
「あの鞭や、カバンやなんかには、俺のギルドの紋章が入ってるし」
それは俺も気がついていた。

「決め手はあのフクロだ・・・・
 あれは、俺たち盗賊が、火薬を持ち歩く時に使うものだ。
 あれだけの大きさ、つまり大量の火薬を扱える奴は、うちのギルドのもそうはいない。
 そして、ケインという名の、火薬のスペシャリストが、行方不明だと聞いたからな」

”そういうことか・・・・・”

俺には、どうしてあの竜が目覚めたのかが、なんとなく分かった。
あたりには、人間の遺体のほかに、ノカンのものらしき遺体も混じっていた。
その多くは、剣で切り裂かれたような傷がある。

犠牲者たちは、ココでノカンと戦闘になり、
盗賊が、火薬を使用した・・・・・

”それが運悪く、あそこに命中したわけだ・・・”

俺はさっきまで眺めていたモノに、再び視線を戻す。
そこには、何かの爆発によって崩れた壁があった。

そして、その奥には、祭壇のようなもの・・・・

実際に目にしたことははじめて。

書物と、師匠の言葉で、こういうものがあると聞いた程度。
しかし、それが何かはっきりと理解できた。

びっしりと古代文字の描かれた壁面。
複雑な模様を描いた魔方陣。

”ココまで完全に近いものは、発見されてないはずだな・・・・”

そこには、竜封印の儀式を施された、古代の賢者の英知があった。

お城の外には、すぐに森があった。
町と、森の境界にお城が建ってる。

こういう風にしたのは、お城の裏に広がる森にはモンスターが住み着いていて、
そのモンスターから、町を守るためらしい。

”お師匠様がそう言ってたんだから、ここにはモンスターがいるのよね・・・”

私は、森の中を歩き回りながらそんなことを考える。

”力試しには持ってこいじゃない”

お師匠様に置いてきぼりにされ、古代語の授業にも退屈した私は、
森の中で、新しく覚えた魔法を試してみたくなっていた。

そのとき、目の前に一つ目のお化けが現れた。

”さっそくでてきた”

私はお師匠様に習ったとおりに精神を集中させると、呪文を唱える。

「ファイアビット!!」

お化けに向けた手の平から、いくつもの火球が生まれ、
その全てがお化けに命中する。

ぎゃー・・・・

悲鳴とともに、お化けが倒れて、動かなくなる。

「私って、結構強いかも」
自分自身ビックリしたけど、お師匠様に数日習っただけで、
結構強くなっていたんだと実感する。

”お師匠様に見せたら、誉めてくれるかな?”

私は、もっと他の魔法も試そうと思い、森の奥へと歩いていった。

俺は、壁面に書かれた文字、そして、魔法陣を、丁寧にノートに写していく。

全てを解読するのは、無理だが、
これをもって帰れば、王宮の魔術師たちが、総力を込めて解読するだろう。

失われた古代の知識や、魔法を手に入れるために。
その中の一節だけは、俺にも即座に解読できた。
古代の魔法によく使われる一節だったから・・・・

”これは。。。。。案外使えるかもな。。。”

その部分をもう一度読み直し、それを言葉として、呪文を唱える。
呪文は発動し、俺の身体は、光に包まれた。

「どうしたの?それ」
後ろから声をかけてきたのはセリスだった。

「ああ。ちょっと解読できなものがあったから、試してみたんだよ」
肩をすくめて見せて、彼女の方に身体後と向き直る。

「そっちは?」
問い掛けると、セリスは少し寂しそうな顔をしながら答えてくれた。

「亡骸の埋葬は済んだわ。
 こんなところじゃ、きちんとしたものはできなかったけれど・・・・」

セリスと、ルーク、サーディアンの三人は、
犠牲となった冒険者たちの亡骸を埋葬していたのだ。

ダンジョンの奥深くにあるこの場所では、きちんとしたことができないのは当然だが・・

「こっちもちょうど終わったところだよ。
 用事が済んだなら長居は無用。さっさと王宮に帰るか」
俺が言うと、セリスは無理やりといった感じに笑顔を作ると、小さく頷いた。

森の中には、いろんなモンスターがいた。

モグラみたいな”キキ”
ぬいぐるみみたいな”クナ”
冒険者たちから、おはぎ、なんて呼ばれているらしい、”ジャイアントキキ”
最初に出会った一つ目お化けの”モンブリング”

いろんなモンスターを、覚えたばかりの魔法で倒していく。

ファイアビット、アイスランス、ローリングストーン、
ライトニングボルト、メガスプレッシュサンド

どれもこれも、お師匠様に出会ったころには絶対に扱えなかった魔法。
ケド、今なら、自由自在に操る事ができた。

”なんか嬉しいな〜〜〜”

そう思っていると、遠くに、呪文を詠唱している声が聞えるのに気がついた。

”誰かが戦ってる?”
私は、声の聞える方に駆け足で近づいていった。

”困っている人を助けるのは、冒険者の仕事だもんね”

少し走ると、モンスターと戦っている人を見つけた。
よれよれのローブを着たおじいさん。

たたかっているのは。。。。。かぼちゃ???

よく見ると、そのかぼちゃには、目と口があった。
(サラセンの近くには、パンプキン族という、かぼちゃのモンスターが住み着いている)

昨日、サリーさん(古代語を教えてくれている、お師匠様の知り合いの魔術師さん)に聞かされたのを思い出す。
おじいちゃんは、なれた様子で、魔法を次々に打っているけど、

唱えている魔法は”アイスボール”

”あんな魔法じゃ、負けちゃうよ!!”

私は駆け寄ると、おじいちゃんに近づいてきていたかぼちゃの一団にモノボルトを放つ。

「おじいちゃん。そんな魔法しか使えないんじゃ負けちゃうよ。
 私が引き受けるから、早く逃げて!!」
おじいちゃんの手をつかんで、強引に引っ張る。

おじいちゃんは、私みたいに可愛い女の子が、
モノボルトを扱える事にビックリしたようだったけど、
”ああ”なんて気の抜けた返事をして、私について走りはじめる。

走り始めると、行く手を遮るように、またかぼちゃの一団。

「先回り〜〜〜?もう!!ファイアウォール!!」
私の放った火の壁に巻き込まれて、こんがりと焼けたかぼちゃたち。
火が消えるのを待ってから、再び私たちは走り始めた。