月の魔術師〜第6話〜


”あんな魔法、初めて見た”

ついさっき、私の隣に立っているおじいちゃんが、
私を助けるためにはなった魔法。

お師匠様は、”メテオ”って言ってたっけ・・・・

”私にも、あんなに強い魔法が扱えるようになるのかな。。。”

さっきおじいちゃんが私に言ってくれた。
(きちんと修行さえすれば、レイクや、わしを越えるかもしれんな)

でも、自信がなくなっていた。

自分ひとりで切り抜けられると思ってた。

だけど、実際は、おじいちゃんがいなかったら私は死んでた。

魔術師としての自信じゃない、

”冒険者”としての自信・・・・・

”お師匠様は、どう思ったのかな・・・”

今、私の目には、お師匠様の姿は映らない。

目に映るのは、戦いの光景。

目の前でくり広げられる、王宮騎士団と、
モンスターたちとの戦い。

お師匠様は、この中のどこかで、敵と戦っている・・・・・

幾度魔法を唱えたか・・・・
幾度モンスターをなぎ払ったか・・・・

「おいレイク!!飛ばしすぎだ!!」
すぐ隣で聞える非難の声に、ふと我に返る。
ルークはインビジを使う事もなく、俺の隣に立っている。

俺自身にも、ルークの身体にも、
すでに守護の魔法の光はなかった。

後ろから駆け寄る人影・・・
反射的に詠唱に入るが、それは無用だとすぐにわかる。

「レイク〜〜〜〜早すぎだよ〜〜〜〜」
半分涙目で、荒い息をつきながら、セリスが言ってくる。

魔法を使いすぎた様子ではない。
ただ単に、走りつづけたからだろう。

「レイク、落ち着け。
 そうでないと、この数だ・・・・・倒せるはずがない」
静かな声の主は、サーディアン。

確かに俺は、冷静さを失っていた。

”ルーシアを放っておいたから、
 ルーシアは危険な目にあった。
 ルーシアに生き残る術を教えると決めたのに、
 師匠がいなければ、それを果たす事もできなかった・・・・”

ルーシアが師匠に保護されていた事に安堵したとき、
俺の心の中には、後悔しかなかった。

そっと唇をかみ締めた時に現れた、モンスターの集団。

”今度こそ、俺の力でルーシアを守る”

そう思って、真っ先に敵に飛び込んだ。

気がつけば、セリスの補助魔法が届かないほど離れてしまい、
仲間の事を意識においてなかったことが丸分かりだ。

”冷静であるべき魔術師が・・・・”

「全く、レイクらしくないぞ?
 カッとなって飛び出すなんてさ」
「すまなかった」

おどけた調子で言うルークに、俺は素直に謝る。

「ま、可愛いルーシアちゃんがあんな目にあってたんだ。
 冷静でいられるほうが変か」
そう言って、思い切り背中を叩かれる。
かなり痛かったが、仲間たちの気持ちが嬉しかった。

俺の視界には、サーディアンたちの背後に展開した、サイコパンプキンの群れ。

「サーディアン。
 ルーク、インビジ。
 セリス、補助魔法を」

サーディアンが敵に向き直り、
セリスが詠唱に入る。

「待ってました!!月の魔術師様よ」
ルークは、軽口を叩いてから、インビジに。

俺自身も、詠唱に入る。

”さて、迷惑をかけた償いに、さっさと片付けて、酒でもおごるか”



私の目の前には、動かなくなった体が転がっていた。

でも、その中に、騎士団のものはない。
ルアスの騎士団は、大陸一の使い手の集まり。
そう噂され、そして、私はそれを目の当たりにしていた。

無数にも思えたもんスターたちが、
30分にも満たない時間で、全て倒されていた。

引き続きあたりを警戒する人たち。
怪我をした人達に、癒しの魔法をかけてまわる聖職者たち。
そして、お師匠様も、ゆっくりと近づいてくる。

”セリスさんがいないけど、怪我をした人の手当てをしてるのかな?”

お師匠様には怒られるかもしれないけど、
私は、お師匠様のそばにいたくて、駆け出した。
お師匠様も、私に向かって、駆け出していた。

”え?”

私が、疑問を口にするより早く、お師匠様は、私を突き飛ばした・・・・



あらかた片付いたのを確認してから、
師匠のそばにいる、騎士団長に報告に行く事にした。

”師匠のそばには、ルーシアもいるはずだし・・・”

途中でセリスは、怪我をした一団の回復に、仲間たちから離れていく。
ルーシアが視界に入り、声をかけようとしたとき、

視界の隅で、傭兵の一人がよろける・・・・何かにぶつかったように・・・

そして、そのそばに生えた草が、踏みしめられる。

何も、そこにはいないように見えるのに。
頭の中で、それが意味する事を理解するのと、

ルーシアが、”それ”に気づかずに走り出すのが同時だった。

俺はとっさに、ルーシアに駆け寄ると、師匠のいる方へと、突き飛ばす・・・



何が起きたのかわからなかった・・・

お師匠様に突き飛ばされて、顔を上げると、
そこには、無数の切り傷を負ったお師匠様の姿・・・

「いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
私は、思わず悲鳴をあげていた。



身体中に傷を負って、意識が一瞬飛びそうになる。

「いや〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
女の子の悲鳴が聞えた。
その悲鳴で、飛びかけた意識がはっきりとする。

”こんなところで死んでたまるか
 あいつは、まだ教えなきゃならない事がたくさんあるんだ!!”

悲鳴を聞いて、振り向く者は多かった。
だが、すぐに行動を起こしたのは二人だけ、

こっちに走り寄るサーディアンと、呪文を唱えるルーク。
悲鳴で、一瞬気が散ったのか、”そいつら”からの攻撃がやむ。

俺は即座に呪文を唱え、体が、光に包まれる。

ディグバンカーの竜を封印していた祭壇に書かれていた、古の魔法。
魔力の障壁を生み出し、外部からの影響を遮る魔法。

”そいつら”の攻撃を防いだ証に、障壁が次々と、光を放つ。
だが、その障壁さえも貫いて、いくつかは、俺の身体に傷を創る。

「ディテクション!!」
ルークの呪文が完成し、俺の周りには、4体の”スレシャーパンプキン”が姿をあらわす。
こいつらは、インビジを使って、俺達のかこいの中に入り込んでいたのだ。

姿をあらわしたスレシャーパンプキンに、
サーディアンのツバメ返しが決まる。
そして、俺のアイススパイラルも。

2体のモンスターは動かなくなるが、まだ2体残っている。

そのうちの一匹がサーディアンを突き飛ばし、
その瞬間、俺の生み出した障壁も消えうせる。

目の前の1体が、俺にナイフを振り上げ、

「ダメ〜〜〜〜〜〜!!」
再び響いた悲鳴とともに、視界が炎で埋まる。
俺に影響がでないように、完璧にコントロールされた、ファイアーウォール。

”お師匠様か・・・・”
崩れ落ちるスレシャーパンプキンを見つめながら、
俺は意識を失った。



目を開けると、俺は見慣れた部屋にいた。
王宮にある、俺自身の部屋。

体を起こすと、俺の隣に、ぐっすりと眠っているルーシアがいた。
規則正しい寝息を立てて眠っているルーシアを見て、
俺は心の底から安心ができた。

コンコン

ノックの音にドアの方を見ると、
そこには、セリスと、師匠の姿があった。

「あ・・・起きてたんだ」
そう言って、セリスはベッドのそばによると、
俺の身体に巻かれた包帯を取り替えていく。
包帯の下には、まだかすかに血のにじむ傷跡。

「寝てると思ってたら、ノックの意味はないと思うけどな」
そう言って、笑いかけてから、ふと、セリスの顔色が悪いことに気がつく。

「セリス、顔色悪いぞ?
 魔法の使いすぎなんじゃ・・・・・・」

普段なら、セリスの癒しの魔法をかけてもらえば、
瀕死の重傷だったとしても、傷は完全にふさがる。

「ちょっと・・・ね。
 でも、明日になれば、レイクの傷も、完全に治してあげるから」
悪戯っぽく笑うセリス。

「セリス、少し席をはずしてもらえるか?」
それまで黙っていた師匠が、セリスに言うと、
不思議そうな表情を見せながらも、セリスは部屋を出て行く。

ドアが閉まると、師匠はベッドのそばに椅子を寄せ、そこに座った。

「ありがとうございました。
 最後の師匠のファイアーウォール。
 あれがなければ、死んでたところでした。
 ルーシアに偉そうに言えませんね、これじゃ」

言って苦笑を浮かべる俺に、師匠はゆっくりと首を振る。

「あれはわしじゃない」
「え?」

あれほどのファイアーウォールを放てるのは、宮廷魔術師といえども、
師匠以外にはいないはずだけど・・・・・

「ルーシアのことを聞いてもいいか?」
俺の疑問には答えず、師匠は言葉を続ける。

「彼女の家族は?
 何か聞いているか?」

「ええ・・・少しなら。
 代々、魔術師の家系らしくて、それでルーシアも魔術師に。
 この子の祖父や、両親も、冒険者をしていたらしいです。
 この子が生まれてすぐくらいに、ミルレスを襲ったもんスターを退治しようとして、
 三人とも、命を落としたそうです。
 それ以上は、ルーシアに悲しい事を思い出させると思って、聞いてませんけど?」

何が聞きたいのかわからず、とりあえず、知っていることを全て師匠に話す。

「そうか・・・・
 孫が生まれるとは聞いていたが、この子だったか」
懐から取り出したペンダントを、懐かしそうに眺めて、師匠は言う。

「お前を助けたFWは、ルーシアが放ったものだ。
 あいつそっくりのFWだったな・・・・」

そう言って、ペンダントをルーシアの枕もとに置いてやる師匠・・・

そのペンダントは、ファイアリビエラにも似ていたが、どことなく違って見えた。
リビエラは俺も持っていたが、それとは、宝石が違うように思える。

「お前はこの子の師匠だ。
 お前には、全てを話しておくべきだろうな・・・」

そう言って、師匠は、俺に昔話をはじめた・・・・・・・