夢見る少女 F



リエル「・・・・・・ここか」

ルケシオンの町外れの一軒家。

ルケシオンに着いてからの数日間は、情報収集の日々だった。

そう、ここはようやく突き止めた、盗賊ジャミルの棲家。

 ・・・・・・ここにあの男がいる。

 ・・・・・・この手で裁きを下せる。

 ・・・・・・いいよね? お父さん、お母さん


 ・・・・・・カコッ・・・・・・カコンッ・・・・・・

何の音だろう。

小屋の裏から聞こえる。

ナシス「・・・・・・とりあえず、行ってみましょうか」

リエル「ああ」

斧を持った男が薪を割っていた。

服の片袖がダランと垂れている。

片腕がなかった。

男はリエルとナシスに気づいてその手を止める。

片腕の男「・・・・・・なんだ、お前ら」

目に冷たい光が宿っていた。

だが、リエルの目はそれ以上に冷たく、そして鋭い。

リエル「暗殺専門の盗賊、ジャミルか?」

片腕の男「・・・・・・暗殺専門か。随分と昔のことを出してくるんだな。

あぁ、そうだ、俺がジャミルだ。お前は誰なんだ? 小娘」

リエル「ルアス王宮、戦士リエル・クライファード と言えば分かるか?」

片腕の男「・・・・・・ルアス・・・・・・クライファード?! まさか、あの司祭夫婦の娘かっ?!」

リエル「その通りだ。10年前とは言え、覚えていたようだな。

・・・・・・父と母の仇だ。貴様を殺しにきた」

ジャミルは斧をザクッと大地に突き立てると、天を仰いだ。

ジャミル「そうか・・・・・・。いつか、いつの日か、お前のような者が現れるとは思っていた・・・・・・

いや、待っていたのかもしれんな」

ジャミル「今の俺は見ての通りのザマだ。片腕を失い、暗殺業ももう辞めた。

そんな俺で良ければ・・・・・・殺せ」

 ・・・・・・この男がジャミル?

 ・・・・・・こんな男を殺すため、私は10年も?

 ・・・・・・しかし、コイツだ。

 コイツが父と母を殺したんだ。

 許さない・・・・・・絶対に許さない・・・・・・ 

リエルは若干の戸惑いを感じていた。

しかし、そんなことで復讐の炎が消えるはずもなかった。

リエル「そうさせてもらおうか。・・・・・・何か言い残すことはあるか?」

スラッと剣を抜くリエル。

ジャミル「・・・・・・そうだな。強いて言うなら・・・・・・」

ジャミルが目を閉じた瞬間だった。

少年「ジャミルーッ」

一人の少年が走ってきた。

リエルとナシスに気づいて立ち止まる。

リエルが握り締めた抜き身の剣を見て、不安げな表情を浮かべた。

少年「・・・・・・誰? この人達」

ジャミル「俺の大事な客人だ」

少年「そっかぁ、びっくりした〜。だって、剣とか持ってるし・・・・・・」

少年「あっ!!」

少年が思い出したように声を張り上げた。

ナシスの顔をジロジロと見ている。

少年「・・・・・・お兄ちゃん、ひょっとして聖職者?」

ナシス「え、ええ。そうですよ」

一瞬ひるんだが、すぐに笑顔で答えるナシス。

少年「うわぁっ、ホンモノの聖職者だ〜。初めて見たよ〜。

ボクねっ 大きくなったら、聖職者になるのが夢なんだっ」

ナシス「そうですか。だったら、ちょっと向こうでお話でもしましょうか」

少年「うん、するする〜」

ナシスが気を利かせたようだ。

少年を連れて、少しばかり距離をとった。



ジャミル「・・・・・・あのガキか?

アイツは、俺が暗殺業を辞めて街をフラフラしてるときに、野たれ死にしそうになってたのを拾った。

・・・・・・まぁ、ただの気まぐれだ。アイツには、家族はもちろん名前すらない。」

リエル「・・・・・・名前くらい、付けてやればいいだろう」

少年の方を見る。

少年はナシスの羽帽子をかぶって、キャイキャイはしゃいでいた。

ジャミル「こんな悪党が考える名前なんてロクなもんじゃないさ。

・・・・・・さあ、お喋りは終わりだ。殺せ」

ジャミル「俺はお前の大事な人を奪った。これは紛れも無い事実だ」


 そうだ、殺せ。

 この恨み、思い知れ。

 そうだ、裁け。

 今こそ、正義の鉄槌だ。