夢見る少女 E
ナシス「・・・・・・ですが、負けもしません」
ビュアアアアッ!!!
ナシスが大きく目を見開いた瞬間、螺旋状に渦巻く強風と共に足元に魔法陣が浮かび上がった。
一瞬、身構える山賊達。
風が収まると同時に、ナシスとリエルは眩いばかりの光の壁に包まれていた。
「な、なんだこりゃあ・・・・・・」
ナシス「・・・・・・ホーリーディメンジョン。そして、ホーリーディスペルゾーン。
あなたたち程度では、この聖域は破れません」
盗賊が懐からナイフを取り出し、ナシスをめがけて投げた。
光の壁に当たると同時に粉々に砕け散るナイフ。
明らかに物理法則に反した壊れ方だった。
盗賊「・・・・・・ただの壁じゃないな。触れないほうがいい」
戦士「おいっ、魔法だ! さっきの幻術をやってくれ!」
魔術師「もうやってる! 魔力も届いてないっ!」
ナシス「さあ、無駄だと分かったでしょう。退いていただけませんか?」
言葉遣いはいつも通りだが、ナシスの表情は険しかった。
数分間、無言のにらみ合いが続いた。
魔術師「・・・・・・ククッ。おい、みんな。退くことはないぞ。
これだけ強固な守備魔法なんだ。長時間持つわけない。」
戦士「なるほどな。魔力が尽きた瞬間が死ぬ瞬間ってわけだ。俺たちは見張ってりゃいいだけか」
修道士「ちっ、めんどくせーな。今夜の仕事は」
何時間経っただろうか。
空が白み、鳥たちが鳴き始めた。
山の自然は朝の到来を告げていた。
「ありえねえ・・・・・・この野郎もバケモンだ・・・・・・」
光の壁は神々しく、その輝きは衰えるどころか強まっているようにさえ見えた。
リエルは泣き疲れ、ナシスの腕の中で眠りに落ちている。
ナシスはいつの頃からか、山賊の野次には耳を貸さなくなっていた。
リエルをしっかりと抱きかかえ、目を閉じて聖域の維持に集中していた。
盗賊「・・・・・・やばいぞ、もう朝だ。人目につくのはまずい」
修道士「くそっ、ただの骨折り損かよ」
戦士「・・・・・・仕方ねえ、ずらかるぞ」
山賊達は森の中に消えていった。
ナシスは気配がなくなったことを確認し、聖域を解放する。
ナシス「・・・・・・ふぅ」
腕の中の少女を起こさないように横たえると、剣とアメットを拾い上げて傍に置いた。
その後、リエルによって瞬殺された3人の山賊を土に埋葬した。
ナシス「これでよし・・・・・・かな?」
振り返り、リエルの寝顔を見つめるナシス。魔術師の言葉を思い出していた。
ナシス(・・・・・・病んでいる・・・・・・確かにそうなのかもしれない)
リエル「・・・・・・ん」
リエルが目を覚ました。
すでに日は天高く昇っている。
ナシス「おはようございます。リエル」
リエル「・・・・・・随分、長い間眠っていたんだな、わたしは」
その言葉遣いにナシスは安堵の溜め息をついた。
プレイドーンが効かないほどの混乱ぶりだったのだ。
目が覚めても、元に戻っている保証はどこにもなかった。
やはり、昨晩の記憶はないらしい。
リエル「・・・・・・夢を見ていた」
ぼんやりと遠くを見つめながらリエルがつぶやいた。
何かを考えこんでいるようだ。
リエル「父と母の夢だ。・・・・・・二人はわたしを見て、とても悲しそうな顔をしていた。
わたしが呼びかけても、答えてくれずにそのまま去っていった。」
ナシス「そうですか・・・・・・」
ナシス「でも、良かったですね。夢でも父上、母上に会えたのですから」
微笑むナシス。
だが、リエルの表情はさえない。
リエル「・・・・・・ナシス」
ナシス「?」
リエル「いや、なんでもない」
言いかけた言葉を飲み込んで、立ち上がるリエル。
口には出したくなかった。
ナシス「さあ、ルケシオンはもうすぐですよ」
リエル(・・・・・・わたしは・・・・・・間違っているのか・・・・・・?)
復讐の旅は、終わりを迎えようとしていた。
※ホーリーディメンジョン
モンスターの接近を阻む保護膜を形成する。
自分の周り1マスに敵が入って来れないようにする。
最初から入っていた敵は動けなくなる。
プレイヤーは入れるが、入ったら動けなくなる。
※ホーリーディスペルゾーン
モンスターの接近を阻んで、魔法攻撃を無効にする保護膜を形成する
自分の周り1マス内にいる敵と自分は魔法が唱えられなくなる