夢見る少女 A


広場を後にし、もうすぐ街の出口にさしかかろうとしたときだった。


「リエル様ーッ」


後ろから、そんな叫び声が聞こえた。

振り返ると10人くらいだろうか。

王宮の兵士達が、息を切らしながら走ってきた。

リエル「どうした? 何用だ」

兵士「ハァハァ・・・・・・、リ、リエル様、話は聞きました。我々も・・・・・・我々もついて行くであります!!」

彼らはリエルの隠れファンとも言うべき存在だった。

普段から見る者全てに圧倒感を与えさせるリエルだが、その強さと容姿に心惹かれる者も多かった。

リエル「・・・・・・それは、王の命令か?」

兵士「いえ! 我々の独断であります!!」

大きく溜め息をつくリエル。

リエル「ならば、帰れ。これはわたしの戦いだ。お前達は、お前達の仕事をしろ。」

リエルは振り返り、そう言うと再び歩き出す。

兵士「そ、そんな殺生な・・・・・・」

兵士は困惑する。


「あのぉ、・・・・・・すみません」


再び、リエルの後ろから声がした。

 またか・・・・・・どこかで聞いたことある声だな。

聖職者「王宮の戦士、リエル・クライファードさん・・・・・・ですよね?」

昨日、王宮で道を尋ねられた聖職者だった。

リエル「・・・・・・あぁ、そうだが」

旅立ちに二度も水を差され、怪訝そうに答えるリエル。

聖職者「初めまして。ナシス=クレメンスと申します。街外れの教会で神父をしている者です」

明らかに不機嫌そうなリエルを気に止める様子もなく、ナシスと名乗る聖職者は微笑んでいた。

リエル「・・・・・・それで? わたしに何か用か?」

ナシス「あ、はい、そうなんです。このたび、ルアス王からこのような物を預かりまして・・・・・・」

ナシスは紙切れを一枚を取り出し、リエルに手渡した。

リエルは、しばらくそれを見つめると、クシャッと握りつぶした。

リエル「―――ルアス王め・・・・・・余計なことを・・・・・・」

紙切れは紹介状だった。

「この者と共に任務遂行せよ」と書かれている。

これは、紹介状と言うよりは命令に近い。

さすがのルアス王も、面と向かっては言いにくかったようだ。

だが、リエルの身を案じる精一杯の親心でもあった。

それはリエルにも理解できたが、一つだけ腑に落ちない点があった。

リエル「・・・・・・何故、お前なのだ?

わざわざ街外れの教会から呼ばなくても、王宮にはたくさんの聖職者がいるはずだ」

ナシス「それは、私にもわかりません」

少し申し分け無さそうに、笑って答えるナシス。

リエル「わたしは・・・・・・わたしは一人でも戦える」

ナシス「・・・・・・ルケシオンまでの道のりは?」

思いがけない質問だった。

リエル「・・・・・・と、とりあえず南・・・・・・」

そう言って、南の方角を指差す。

よく考えれば、ルケシオンまでの道を聞いていなかった。

ナシス「決まりですね。私が道案内させていただきます」

リエル「・・・・・・命令なら仕方ない。足だけは引っ張ってくれるなよ」

頭を抱えながら、リエルはナシスを見る。

ナシス「はい」

ナシスは、微笑みながら答える。

兵士「リエル様・・・・・・我々は・・・・・・」

リエル「帰れ」


リエルはトドメを刺した。