SACRIFICE ― 血塗られた杖 4 ―


「うわー、こりゃ凄いねぇ・・・」



エレベーターで降り立った次の階。
つまり10階だ。

そこに入った途端ケティやブラドケティの大群が4人を出迎えた。
その数はディグバンカーのノカンを凌ぐほど。

「とりあえず片付けてしまいましょう。 《ファイアウォール》」

ダウが言葉を紡ぐと、一瞬のうちに魔力が大気の中に充満して炎が現れた。

横一直線に伸びた炎はケティだけではなく、後方にいたブラドケティまでをも焼き尽くした。

断末魔の声を上げるまもなくケティ達は灰と化す。

「流石ダウ!」

ユンレンはひゅーっと口笛を吹きながらも、マシンガンキックで炎を逃れたブラドケティを滅する。

「切がないから先へ進むわよ!」

ベストクレリックエイドやロックスキン、補助魔法を全員に素早くかけながらフィーネが叫んだ。

姿は見えないが、奥のほうでケティ達の轟く声が耳に届いている。
いくらフィーネ達が強いと言っても数で押されては先へ進めない。

それに、今回の目的は敵の全滅じゃない。

こうしている間にもレガートの身が危険に晒されているかもしれないのに。

「ダウ! レガートの座標を掴めるか?!」

「任せて下さい。 ・・・・・・飛びますよ!」

アルファがルナスラッシュでブラドケティイを切り倒したのを合図に、
ダウはウィザードゲートを起動した。

それぞれの体が淡い光に包まれ、次には空間から消えた。





(くそっ、一体どうなってんだ!!)

心の中で毒づきながら、それでも走る事を止めない。

何度インビジブルを唱えて姿を隠そうとしても、
こうネクロケスタが沸いていたのでは意味を成さない。

もはや逃げるしかなかった。

セルフヒールを常にかけながら、レガートは逃げ回る。
回復が追いつかない時は、携帯している肉をかじって凌いだ。

(これじゃあ、あの時と一緒じゃねぇか・・・・・・!)

フラッシュバックする。
泣き叫ぶ声。
血まみれの手。
ネクロケスタ。
壊れたオーブ。



逃げ出した、自分。



「くっ・・・・・・?!」

突然視界が真っ暗になる。
目を開けているはずなのに、何も見えない。

(しまった、デモンアイズ!)

レガートは奥歯に仕込んだ視力回復薬を急いで噛み砕く。
口の中に苦い味が広がり、視力が正常になる。

いつの間にか壁際まで追い詰められていて、後ろを振り返ればすぐそこにネクロケスタが迫っていた。

もはや逃げ場はない。

(ちっ)

レガートは瞬きほどの時間で覚悟を決め、腰に装備していた赤い鞭を手に取る。
軽く振ると鞭はしなって地に強く叩きつけられた。

「かかってきやがれ化け物共!」

レガートの声に反応して、一斉にネクロケスタは杖を振りかぶった。
それが振り下ろされる前にレガートはがら空きになったネクロケスタの腹に鞭を叩きこむ。

全員が同じ動作をしたのと一列に並んでいたのが仇となり、
レガートに一番近かったネクロケスタ達が地に伏す。

この調子で他のもかかってきてくれれば楽だったのだが、
流石に高レベルのモンスターともなると学習能力があり、今度は一匹ずつ挑んできた。

「ハッ、甘い甘い!!」

一対一ならば、負けない。

レガートは素早い身のこなしで攻撃をかわしながら、確実に一体一体息の根を止めていった。

すると今度は、ネクロケスタ達がレガートとの間に距離を置く。
訝しげに思う前に脳を揺さぶられる感覚がレガートに襲い掛かった。

(やばっ・・・・・・!)

マンゴドラソング。
ネクロケスタが使う混乱魔法だ。

気付いた時にはもう遅く、手に力が入らなくなっていた。
宙に浮いたように足もおぼつかなくなり、立っているのもやっとだった。

「ぐあっ!」

ふらついた所を狙い済ましたかのように、ネクロケスタからきつい一撃を受けた。

硬いスタッフで腹を突かれたのだ。
レガートは堪え切れずに後ろへ吹っ飛ぶ。

鈍い音がした。
あばらが何本かいった事だろう。

満足にうずくまる事もできないで、レガートは微かに顔を歪める。

(俺は、こんな所で・・・・・・!!)

ネクロケスタ達がお得意の攻撃魔法を詠唱する声が聞こえた。
個々の威力は小さくとも、この数で攻撃されたらひとたまりもない。
魔法の成果周囲が熱気に包まれる。





「ティ、ア・・・・・・」



落ちていく意識の中、浮かんだのは明るい笑顔。





魔法の爆ぜる音がした。